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ケモ耳女子は好きですか?

 レイモンドさんと俺のワクワク異世界交流という名の文通は毎日続き、すでに十日経っていた。

 俺からの手紙の内容は、不可思議な現状説明のほかに、自己紹介を兼ねたこちらの世界の紹介やキッチンカーという屋台と弁当やデリの説明、一日の仕事の流れや異世界(日本)料理の説明などだった。

 そして、レイモンドさんも同じように自身のことを書いてくれ、手紙の最後には必ず「今日のベントーも旨かった」と書き添えてくれるのが嬉しかった。


 彼の本名は、レイモンド=オルウェン。年は21で下級貴族の四男。現在は軍の宿舎住まいで、王城周辺警備兵だ。長身で逞しく爽やかな彼には、警備兵って危ない仕事が合うような合わないような…。


 二重に張り巡らされた城壁の二番裏門と呼ばれる、城から見て二枚目の城壁の森林地帯に面した城門の守備兵。この門を使うのは日に二回来る巡回警備兵と、年に一度あるかないかの狩猟イベントの時だけで、通常は相棒と巡回兵以外は誰一人来ないから何の刺激もなく、暇と退屈な毎日なのだそうだ。

 二人一組での守備だから、朝から晩まで毎日同じ相棒相手に会話するだけ。同じ立場だから、話題と言ったら家族の話と家族が仕入れてきた噂話、後は週に一度の休みの日に何をやっていたか……ほとんど寝てるか、溜まった家事と買い出しで休みが終わったなんて侘しい話題。

 なんだか身につまされるってか、俺も同じような立場だ。

 で、そんな日々の中で出会った俺たち。

 初めて不審な窓を見つけた時は、守備兵としての責務から職務質問のために近づいたが、今じゃ個人的な毎日の楽しみになっている。異世界と言われても即納得とはいかないが、見たことも聞いたことも無い美味い料理を食べることができるだけでも幸運な出会いだと思ってくれているようだった。


 どっちの世界の神様がやったことなのか知らないか、いつもなら居るのかどうなのか分からないと思っていた神に感謝した。意表を突いた奇跡を起こしてくれたもんだ。


 そして、手紙を挟んだ弁当と、返事と共に差し出される金銭の交換をしながら、俺たちは手紙以外の会話を交わした。

 今じゃ、レイさんトールと呼び合っている仲だ。


「レイさん、毎日の購入は金銭的に大変じゃないのか?」


 こっちではワンコインなんてサラリーマンの昼食代でも最低金額だけど、はたしてレイモンドさんの世界では同じ価値なのかと心配だった。味見に一度二度買うのなら心配しないが、毎日購入となると物価が分らないだけに、他人事ながら彼の懐が心配になる。


「ああ、このベントー二つで銀1枚は安い方ですよ。これだけ美味い料理をこの量食うなら、こちらでは銀2枚から3枚は必要ですし、朝食にうってつけです」


 え?朝食?昼食じゃないのか?


「今、そちらは朝になったばかりの時間?」

「ええ、一般的には朝食時間です。僕らは日中警備の守備兵なんで、朝食を食ってから仕事開始なんですよ。屋台や町の食堂はまだ開店前なんで、相棒や他の兵は家か宿舎の食堂で食ってるんですけどね。だからトールさんの屋台と出会えた僕は幸運ですよ」


 うわぁ。そうなのか。俺はこっちが昼時だから、全く考えることなく同じ時間帯なんだと思い込んでいたよ。地球にだって時差があるのに、異世界に無いわけがないよな。

 少し驚いたが、にっこり笑うレイモンドさんを見て、お互いなんて絶妙なタイミングの出会いだったんだ、と神の采配に笑った。


 そこで時間だからと話を終らせ、レイモンドさんを見送った。毎日違う朝食が食えるだけじゃなく、珍しく新たな味覚の料理を試せることが楽しみなんだと走って戻っていく彼の、その背に今日も一日頑張れと激励を贈った。



 さて、例のもう一つの異世界についてだが。

 レイモンドさんの手紙にも書いてみたが、彼もやはり少しの間観察し、慎重に時を待ってみたらどうかと助言してきた。

 彼の世界にも『獣の耳や尻尾のある種族』など存在していなくて、俺の見た物を夢か幻覚だったんじゃないかと疑っていた。まぁね、そんな妄想話に簡単にノってくるのは、日本人でも一部の趣味人だけだし、それが真面目な異世界人では夢か幻覚じゃないかと疑っても可笑しくないよな。

 一度しか覗いていなかったこともあって、俺自身も完全に否定できなくて、ならば再トライ!とばかりに窓を細目に開けてみたのだった。


 結果、やはり存在してましたよ?

 動物がそのまま二足歩行してるんじゃなく、俺たちと同じ容姿に動物の耳と尻尾、あるいは鳥類や昆虫系の羽が背中に付いてる人たちが…。

 何度か観察して分かったのは、やはりレイモンドさんと同じく言葉が通じていることと耳や尻尾や羽の無い人間はいないこと。その世界は、今現在あちこちで違う種族同士が戦争してる最中で、難民や流浪民になった人たちが、この街道を使って別の国へと避難しているのだそうだ。


 どうして細目に開けた窓からそれが分かったかと言うと、なんとこの謎窓は、街道を行き交う人たちが休憩に使う小さな空き地に立った大木の幹に埋もれているらしいから。その幹の下で休憩を取っていた人たちの会話を何度か盗聴(?)しまして、纏めてみるとそんな感じだった。


 それで、本日も日課じみてきた異世界覗きを開始したんですが、とうとう現地の人に発見されてしまいまして…。


「お兄さん、何者?」


 まん丸い大きなハシバミ色の目が一つ、細く開けた窓の隙間からこちらを覗きこんでいた。続いて聞こえた声は、少し警戒が混じった固く尖った女の子の声だった。

 思わず息を飲んで、尻もちをついたまま窓から後退(あとじさ)ったのは言うまでもない。これは、覗きが見つかってしまった時の野郎の心境と反応だろうな。


「ねぇ、なんなの!?ここ!」

「え…あの、ここは屋台…デス」

「屋台?食べ物の?」

「ハイ…飲み物も…アル…デスヨ」


 なんで俺はカタコトになってんだよ! 女の子と話し慣れてないからって臆してるわけじゃないからな! 女性客がほとんどのキッチンカー『デリ・ジョイ』なんだから、ごく普通に女性とは会話できるからな!

 ただ、今は思いがけなく不意打ちを喰らって動揺してるだけだから……見逃してくれ。


「飲み物…どんなの?」

「コー…果実を絞った甘酸っぱい物やお茶…」

「じゃ、それを一つくれる?」


 なんだろう。凄く警戒して不信感満載なのがビシビシ感じられるのに、彼女の注文が信じられない。俺を試しているのか!?試されているのか、俺!!

 いまだ尻をついたまま距離を取って、一つ目だけの彼女を凝視した。


「いいですけど……そこに君以外に誰かいる?」

「なによっ、他に誰かいると困るっての!?」

「いやいや。まだ開店準備中だから、いきなりたくさんの客が来ると困るからさ」

 

 喧嘩腰の彼女を宥めるために言い訳をしてみたが、すぐに納得できないのか間が空いた。


「―――仕方ないわね。今ここには私しかいない。だから、もう少し開けてくれる?」


 細く華奢な指が窓を開けようとしているが、なぜか空いてる隙間自体にも見えない壁があるみたいで、彼女の指は中空を掻いていた。

 俺は立ち上がり、そろそろと窓へ近づいてもう少しだけ開けてみた。俺が近づいた分、たたっと二三歩後退した彼女は、やはり胡乱な眼差しを俺に向けてきていて。


 そんなことより、俺の目は彼女に釘付けだった。

 凄く美人な猫系ケモ耳しっぽ女子だ!それもツンデレ属性って!ひゃほーい!!



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