マギーは、マグに戻れるのか?(2)
無意識に胸に手を当てて、幻の痛みに顔を顰めてたらしい。そんな俺を、二人のケモ耳異世界人は、かわいそうな人を見る様な眼差しを向けてくれて。
「あのー、そんな目で見るのは……ヤメテ……」
なんだろー?
俺はさ、飛ばされてから長い期間をこっちで過ごして来て、マギーにとっちゃ嫌な経験の方が多かっただろうけど、でも、それなりに興味深い世界ではあったんじゃないかと思った訳よ。だから、行ったり来たりできたら、それはそれで楽しいだろうって思いついたんだが。
なんで、俺が寂しいって思われちまう訳?
つか、なんで胸がズキッとする訳? 図星? 図星ってことか?
「トールは、もう少し自分のことを大切にした方がいいわよ?私とレイが、トールをお人好しって言ったのはね、自分の気持ちを後回しにして他人のことを真っ先に考えちゃう、その性格を指して言ったの。人の我が侭ばっかり聞いてやってないで、少しぐらい自分を優先してあげなさいよ」
「でも、俺は俺が一番大事だぞ?嫌なことは絶対に受け入れないし」
「そこは、トールの長所であり短所よね。でも、頑固も過ぎると友達の私たちはね、どうやってトールに感謝の気持ちや親愛の情をお返ししたらいいのか、分からなくなっちゃうのよ。」
フィヴは、いつものはきはきした口調で告げながら、でも、眉が少しだけ下がっていた。
ああ、困ってんだなー、レイも時々こんな表情をしてたなーと気づいて、俺は思わず苦笑した。
「俺、そんなに優しくはないけど?」
「ええ!? まだ言ってるの? トールって、本当に自分のことが分かってないのねっ。呆れちゃうわ」
なんで怒られてんだろ。俺。
頬を膨らませて、それ以上は何も言わないって感じに口を閉じたフィヴに、俺は困ったって感じの苦笑を向けた。
俺がお人好しなのは自覚しているし、商売以外にならそれで損しようが得しようが、自業自得だから仕方ないと思ってる。でもさ、それを 「他人のことを優先し過ぎて、自分のことを疎かにしてる」 と言われてもなぁ。俺って、割と我がままだと思っていたんだが? 他の人から見ると、そんなに良い人なんだろうか?
「ねぇ、アンタたちさ、付き合ってんの?」
「はぁ!?」
さっきフィヴの口から同じような台詞を聞いたばかりなんだが、なぜに今度はマギーから?
「えっ? だってさ、アンタたちの話を聞いてるとさ、まるで痴話喧嘩と言うかー、アタシが猫になれるかって話だったのに、二人の親密な話に入れ替わってるし?」
あ、そーだった。マギーに言われて、ようやく意識がそっちへ戻った。
と、俺は指摘されて話を戻そうと思ったところなのに、ここでサラッと流せないのがフィヴだ。
「確かに親密って言うか、内輪の話をしてた私が悪いんだけど、どこに恋人同士だって思えるような会話があったって言うの?」
「違うのかい?」
「違うわよ! 私とトールはね、恋人だなんだって軽い関係とは違う、神様公認の運命の絆みたいな物で繋がっているの!」
その断言を聞いて、俺の頭から一気に血の気が引いて、また次の瞬間凄い勢いで血の気が上った。俺の上半身で、ただ今血液がジェットコースター。
「運命の……? なに? 運命的な番とか?」
「はぁ!? 全く違うわよ! 別れたら赤の他人でしかない関係じゃないって、言ってるのよ!」
「フィヴ……もう、やめて。俺のHPがゼロになりそうだ」
「なに訳の分からないこと言ってるのよっ。トールからも説明してあげて!」
「いや、それは今じゃなくていいでしょ? な? 俺、恥ずかしくて倒れそう……」
今ここで話し合っても、フィヴと俺の認識の相違は、このまま永遠に終わりが来そうにない。
世界観の違いなのか、フィヴの個人的思想からなのか知らないが、俺は単純に親しい友人ってカテゴリに入れてる間柄を、なぜか彼女にとっては、神が与えたもうた崇高な関係になっている。
はっきり言う。コワイ!
まさか……レイモンドまで同じような考えを持っているとかじゃないよな!? そうだったら、俺はもう逃げる! 中井とチェンジさせてもらう!
異世界、コワイ!
「でさ、マギー、猫になれる?」
「アンタたちがイチャイチャしてる間、ずっと試してたんだけどさ、無理みたいだわ。どうも、そっちの世界だから猫になれるみたい」
もう、無理やりマギーへ話を戻して、ぐったりしながら問いかけた。
そのマギーも、フィヴの説明に頭痛でも感じたのかこめかみ辺りを抑えながら目を細め、ぼそぼそと答えた。
「そっかぁ。まぁ、でも帰郷できてよかった」
「うん。トール、色々と世話になった。ありがとうな」
「イチャイチャなんてしてないわ! マギーの耳はおかしいわ!」
「はいはい。ソーデスネー。高尚すぎてアタシにはワカンナイ―」
カオス!
結局その後は、キャンキャン喚くフィヴを案内役にして、マギーは帰って行った。
それでも、落ち着いたら顔を出すと言ってたから、もう会えなくなる訳じゃないんで、俺は笑顔で手を振った。
あー、猫用備品はどうすんべ。
縁あってマグ改めマギーを保護したけど、あえて猫を貰ってまで飼いたいとは思っていない。なにしろ食い物屋だしね。
中井や野々宮さんには説明するが、きっと凹むだろうな。野々宮さんに至っては、是が非でもフィヴたちと顔を合わせ――あっ、もしかしたら、マギーって縁ができたことで、会えるんじゃね?
小さな可能性でも、確かめてみる価値ありだな。
でだ、ゴリラとその妹には、どう言い訳をするかだな。
欲しがった人がいたから譲った。それが一番無難だが、遠い所へ行ったことにしないと、佳奈ちゃんは担当獣医だから連れて来いと言うだろうし。んー。嘘は面倒くさい。
それにしても、結局フィヴは何しに来たんだ?
そして、レイモンドにも聞いてみたい。奴までフィヴみたいな見識を持っていたらと思うと、ちょい背筋に寒気が走る。
でも、確かに改めて考えてみると、俺たち三人はどんな関係と言えるんだろうなぁ。
友人同士っつーのも、中井たちと比べてみると少し違う気がするし、同志ってのもなー。件の事件の最中だったら、そう感じる関係だったのかも知れないが、すでに今は平和ですから?
俺の心の隅には、誰にも言えない感情がある。
これがあるから、さっきフィヴに言われまくったことに抵抗があったんだ。
お人好しかも知れないが、良い人じゃないってこと。
でもさ、誰しも持ってる本音だと思う。それを表面に出すか出さないかだ。今のところは出さないだけ。
何かあったら、きっとぽろっと口から零れるだろう。
それを聞いて、フィヴやレイモンドはどんな顔をするか。
予想が付くだけに、俺はそれを心の隅に仕舞っている。
あーあ。疲れてんのかなぁ……。




