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それは等価になってないだろう(笑)

 揚げたての手作りコロッケは、発泡スチロールの箱(別名トロ箱)に入れていたからまだ温かい。ただ、少しだけ湿気が篭ってしまって、カリッとした食感が失われているのが惜しい。そして肉団子は、余った合いびき肉を使って作ってみた。


 この二つを選んだ理由は、まずはレイモンドの世界に存在する肉を使っても、高価じゃない調味料や香辛料・ハーブなどを混ぜて単純な味付けでも美味しくできあがる料理であること。

 色々な工夫次第で、色々な味や色のバリエーションが楽しめる基本的な料理であることの二点を重視してみた。

 そしてなんと言っても、白いパンを作る目標の一つにもなる。パンとして食べるだけじゃなく、他の料理にも使う材料になるんだってことを知っておいてほしかった。

 ライ麦パンや黒パンでも確かにパン粉として使えるし、実際に作ってみてもいいだろう。

 でも、このこんがりとしたキツネ色にはならないし、密度が高いパンだからパン粉にすると細かい粉になる。それを衣にすると、あの香ばしいカリッとしたさっくり感がでない。

 つまり、キツネ色を通り越した焦げ茶色で、ザラリとした舌触りの揚げ物になるんだ。やっぱりフライはさ、黄金色のパン粉が立った衣でなきゃね。

 

 いつものプラの弁当容器二つに入れて、二人の前に並べてみた。もちろん、容器はなぜか木の皮を薄く加工した容器に変化したんだが…その内、たこ焼き屋が使っている経木舟皿あたりに盛って出してみたい。変化するのか、しないのか気になる。

 

「この形は…決まっているのか?」


 ジョアンさんがまずは一つ摘み上げ、色や形や香りを確認して問いかけてきた。

 その横で、レイモンドはすでに大口を開けてかぶりついている。おいおい、二口で終了かよ!?


「決まっているわけじゃないんですが、揚げやすく崩れにくい形なんですよ。中身はすでに火が通っている物なんで、後は一気に高温で良い色になるまで揚げるだけなんですが、角があると衣を付ける段階で壊れやすいんです」

「なるほど…お、これは美味いな。食べやすいと言うか、妙な癖の無い味付けか…」

「はい。今回は基本的な味にしてみました。こっちの世界には、ここから色んな味付けのコロッケが作られてます。肉も豚や牛なども使いますし、芋じゃなくてカボチャを使って甘味のある種類も―――」

「私は、肉多めが好きだな」


 すでに肉団子を口へと放り込んでいたレイモンドが、頬を膨らませたまま自分の好みを率直に主張した。

 その育ち盛りの子供みたいな様子に、思わずプッと吹き出してしまった。


「俺もだ。牛コロッケ美味いよなー」


 肉が行き過ぎると、コロッケを離れてメンチカツになっちまうがな!


「この団子も良い味だな。ハーブ…か?」

「ええ、こちらでは生姜と言われる香辛料の一種ですが、肉の臭み消しに入れてます」

「肉を敢えて細かくしてあるのかぁ。それに味をつけ臭み消しを入れて…なるほどなぁ」

「別のハーブ使ってみても良いですよ。で、スープの中に入れたりすると肉の旨味が出るし、細かくしてから団子にしてるんで火の通りも早くて柔らかい」

「手間はかかるが、色んな料理に使えるわけか」

「はい」


 ミートボールとして餡を絡めたりソースを絡めたり、スープの具にしたり。本当に使いでがある。


 格別に美味い料理じゃないが、これを使って異世界ならではのコロッケや肉団子を作って、そして彼らの世界の日常食になってくれたらなぁと妄想してしまう。


「よぉし! では、こちらの世界の美味い物を!」


 ジョアンさんの大声が、開け放たれたままの戸口の向こうへと飛んだ。

 すぐに何かが焼ける匂いと音が部屋へと近づいてきて、戸口の向こうにワゴンに乗ったデカい鉄板と肉の塊が現れた時、俺は目を見開いたきり固まった。

 大柄な三男のエリックさんが押して入ってきたワゴンですら大きいのに、幅が一メートルはあるんじゃないかと思える横長の鉄板の上で、アニメでしか見たことないような分厚く巨大な輪切りされた何かの肉が、色んなハーブと黒胡椒と塩がまぶされてジュウジュウと音を上げているのだ。見た目だけでも圧巻で、その上になんとも言えない良い匂いが誘惑してくる。

 美味そうな脂身の焦げた匂いと香ばしい香辛料の香りが混然一体となって、俺の食欲中枢を物凄い勢いで刺激した。


「…何の肉だと思う?」


 自信満々って顔つきで、ジョアンさんが肉を切り分けながら俺に問いかけてきた。強面なのに、商人としての自信ありありな笑顔って最強だよなぁ。ただ単に「自信がある」ってだけじゃなく、この俺が隠し事なしでお勧めしている品だぞ!って確約されている気がしてくる。

 そして、勧めてくる逸品が、円形に近くて中央に骨がある輪切り肉。大きさは鉄板の縦幅ぎりぎりだから、五十センチはあろうかというステーキだ。


「何か…大き目の獣の脚?」

「いいや…尻尾の輪切りだ。さて、何だ?」

「尻尾…」


 尻尾ですらこの太さとなると、本体自体は相当な大きさだろう。

 でも、彼らの世界の食用獣なんて知らんしなー…。

 頭を抱えた俺を見て、三人兄弟は声を殺して笑い出した。それでも答えを教えてくれず、まずは食えと切った肉の塊をいくつか鉄串に刺して渡してきた。


「友人と食っていい?」

「おう!是非食ってくれ」


 一つの塊ですら俺の拳ほどになる肉を串ごと受け取ると、それを手に振り返った。


「異世界焼肉(ステーキ)!!さて、何の肉か!」


 俺が長々と()()()を呟いていたせいか、後ろのカップルは持参の煎餅を齧りながら飽き出していたところだった。そこへ、いきなり太い串に刺した拳大の肉の塊を持って振り返ったんだから、彼らの驚き具合は推して知るべし!

 煎餅を銜えて固まった野々宮さんと、袋に手を突っ込んだまま停止した中井。目を皿のように見開き、ぽかんと口を開けて肉を凝視している。


「おーい!正気に戻れ!今は肉の正体が優先だ」


 そんな俺の声を合図に、二人は用意していた皿と箸をカウンターに並べて待機した。その上に満を持して『異世界の美味い物』が置かれた。

 そこからは、異様に真剣な表情で肉の解体から始まり、味わい、食感と舌触り、口から鼻へと抜ける香りと獣臭さを無言で堪能する俺たち。

 笑えるのが、三人共に臆することなく肉を口にしたことだ。警戒心も躊躇いも見せず、ただ料理人の顔つきでそれを口に運んで咀嚼し、丹念に味わった。


「なんだ、これ…旨ぇ…」

「しっかりした歯ごたえといい、旨味が凝縮された肉汁といい…マジで美味いな!」

「おいしーっ!なにこれ!?」


 三者三様の感想だったが、ただ「美味い!」に尽きた。


「で?何の肉だと思う?」


 実は、すでに俺の中に一つの答えが浮かんでいた。けれど、まずは二人に質問してみた。

 暗がりの中にぼんやり浮かんだ灯り。その小さな輪の中で、二人はニンマリと笑んだ。


「―――ドラゴン?」


 それしか無いだろう。


加筆 3/18

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