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日々淡々と俺は

少し短めです。

 ビル街の営業時間を終了し、終いの最後に周囲のごみ拾い。うちはキッチンカーだけど、飲み食いできる屋台と違うから立ち食いするお客さんはいない。でも、何かしらの塵が落ちてると、もしかしたら?と疑われてしまう。それだけは避けたい。だから、そんな疑いを持たれないように清掃しておく。

 外回りを終えたら店舗内へ入って、キッチンカーを走らせても大丈夫なように器具や小物の固定確認をして出発準備OK。

 無意識にちらっと視線を投げてしまう癖がまだ治らず、やっぱり気になって一度は窓を開けてみてしまう。

 家の駐車場で繋がって以来、ジィ様の言ったとおりにこの場所では繋がらなくなった。窓を開けば、焦げ茶色のビルの外壁だけしか見えない。同じく午後から営業の住宅街の拠点も、綺麗さっぱりマンションの壁に。

 

 可笑しなもので、もう営業中には繋がらないんだと理解しているのに、知らず知らずに目が行ってしまう。場所と時間が変わっただけで会えなくなったわけじゃないのに、なんだかこの時間に会えないのは物足りない。


 分かってる…俺は、やはりどこかで“デリ・ジョイ”の店主として、客の彼らに会いたいと思っているんだよ。

 もうそんな関係は通り過ぎて、異世界の親しい友人という関係になっている自覚はある。でも、そこに食を挟んだ時には、彼らに美味いと言ってもらえるキッチンカーの料理人兼店主でありたいんだ。

 我がままだよなぁとは思うが、これが俺の性分だから。俺の作った料理=金ではなくて、俺の料理=金を払ってでも食べたい料理と認められたいんだ。

 

 とは言え、レイモンドやフィヴにまた弁当を売るにしたって、問題がまだ解決していない。

 異世界の金銭で売買することへの罪悪感が、まだ俺の中から払拭されていないことだ。だって、限りなく本物に近い複製硬貨なんて、やっぱり怖いだろう?いくら神様が造ったって言ってもさ。その上に、片方の世界から硬貨が消えて、こっちは増えてんだぞ?


 だから、別の何かと交換――― 一番良いのは、受け取った俺の方でも使えば無くなる物がいい。例えば、異世界の食べ物と弁当を交換して、それを俺の一食分とみなして弁当代を俺の食費から売り上げとして払う。そして、その食べ物は確実に俺が食って消費する。これならどうだ?

 と、考えたことをジィ様に相談してみたんだが、俺の弁当と等価交換になる食べ物や食材が、あちらの世界にあるかが第二の問題になった。

 しかし、二人の世界じゃ、どんな物を食ってんだろー…。



◇◆◇



 白い紙に、フィヴとレイモンド宛てに伝言を書いている。

 フィヴ宛には、「ここで会おう」とだけ。そして、フィヴを知っている人が見たら、彼女にこの伝言を伝えてくれと。

 レイモンドには、「移動した」とだけ。

 これで彼らなら理解してくれるだろうが、俺の所みたいに芋づるがくっついてこないことを祈るしかない。とは言え、レイモンドの所でやらかしちまったしなー…。

 

 彼らが俺のことを、家族や親しい人たちに話したのかどうか。神の失敗に関する話は、別に俺のことを前提にしなくてもどうとでも話を作れる。寝ているうちに夢に見たとか、神が側に降臨して話してくれたとか…。

 真実を語っても作り話を語っても、相手は二人にとって身近な人だろうし、軽く笑って流されるだろうことは承知のことだろう。ならば、要点だけは真実を伝えておけばいいさ。


『まだ会えないの?』


 今夜は月夜。

 レイモンド側の窓をそろりと開けて、窓枠外へと手を伸ばした。ざらっとした土と石の壁に触れ、飯粒を潰して付けたメモ用紙を力任せにバシッと掌を使って貼り付け、窓を閉めた。

 ポーンという着信音にスマホを見れば、野々宮さんからLINE入っている。


『まだー』


 今度は反対の窓を開けて辺りを観察。木の幹にどうやって貼ろうかと思案し、飯粒一杯付けてやっぱりバシッと貼ってみた。それからこっちは細目に開けておいて、そこから匂いの強い料理を開始してみた。

 え?売り物かって?いいえー俺の夕食です。冷凍白身魚を下味付けて一晩ハーブオイルに漬けておいた。それを、今からニンニクバターでソテーです。付け合わせはトマトとじゃがいも。じっくりと焼いて、匂いをあなたの世界へ。


『で、今夜の夕食は?』

『白身魚のハーブソテーと焼きトマトにじゃがいも』

『旨そう…』

『明日、お買い求めください』


 家があるのに、キッチンカー内で飯を作って食う。なんだかとても理不尽な環境だが、それもこれも後先考えずにやっちまった俺の責任なんで、この苦労は甘んじて受けよう。


 そして、今夜も空振りに。

 あーあと肩を落としてキッチンカー内を軽く掃除し、家に戻る。

 明日の夜は、レイモンドの方に刺激的な香りをお届けっすっかなー。カレーとか?マーボー系も捨てがたいなぁ。


『今夜は終了。結果は惨敗』

『お疲れー』

『疲れてはいないが、一人店舗内で飯を食うのは侘しいな』

『…ゆっくり寝なさい』


 ぽちぽちとLINEを送って、そして今日も全てが終わった。これから風呂に入って溜めてたDVD観て寝るか…。


 ずっと一人だったのに、一人を寂しく感じるなんて。

 これを愚痴ると、あいつらは口を揃えて言うんだろうな。さっさと彼女を作っちまえって。

 そんな簡単にできるなら、とっくの昔にできてるわ!

 彼女かー…。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] スマホでもカメラでもいいから映像をう残しておけば友人たちも完全に主人公を信じる事が出来たと思う。
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