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警戒警報発令

どうにか2話更新!

こちらは1話目です。22時に2話目更新します。


寒さも和らぎ…とは言えないのが辛い(´;ω;`)ウゥゥ

 その日の早朝、助手席に座ったレイモンドは、今日は家で過ごすと唐突に言い出した。

 すでにキッチンカーを走らせている最中で、これから業者を回って買い出しと商品受け取りをし、一旦自宅へ戻る予定だった。まぁ、キッチンカー内でしかスムーズな会話ができないから、乗り込んできたんだろうが。


「え?あっちの窓の確認は?」

「…当分はあのままだろう。それにな、あまりこの世界に馴染むのは、拙い気がするんだ…」


 向かい合って話しているわけじゃないから、レイモンドがどんな顔で言っているのか判らないが、その声は気まずいような申し訳なさそうな感じだった。


「―――あー、確かにそうだなぁ。下手にこっちの生活に馴染んでしまうとさ、向こうに帰った時に、変な違和感に苦しむことになるかもなぁ。で、家に一人でいて、なにするんだ?」

「あのな……トールの家にある物で、私の国でも作れる物があるか知りたいんだ…」


 お?これって…知識チートになるのか?逆知識チートか?


「知ってどうする?」

「向こうへ戻っても、たぶん王都は壊滅状態で…そうなると、国自体がどうなっているか予測もできない…」

「ああ、あれじゃ城も壊されたと見るべきだな」


 俺の目の前で、一匹のドラゴンによって城壁ですらあっと言う間に破壊された。あんな奴が何匹も飛んでいたんだ。城だって無事じゃないだろう。


「少しでも、生き残った者たちの為になる知識を得たい。例えば、食料…料理の方法や野菜の栽培方法。後は…鉄を使い、武器ばかりではなく生活に役立つ物を作ったり。ああ…あの、ホウチョウとピーラーと言ったか?ナイフとは違う刃物はいいな。それにフトン!綿と羽毛だけで作れて、柔らかく暖かい!」


 良かったよ…。

 レイモンドは、ちゃんと心得ている。こっちの世界から、あっちへ『存在しない物』は、持ち出しちゃいけないと理解しているんだ。いや、持ち出そうと思っても、無理だけどな。

 もしも持ち出せたとしても、そんな物を所持していることが知られたら、大騒動になること間違いない。明るい未来へ繋がる騒動ならともかく、どう考えてもレイモンドを中心に、彼に連なる人達は嫌な思いをするだろう。

 とは言え、見て触っただけで同じ物を作るのは大変だと思うぞ。試行錯誤の連続だな、きっと。


「それと、力仕事は手伝うから、キッチンカーの中では本を読む時間をくれ」

「ここなら字が読めたんだったな。おう、いいぜ」


 言葉だけじゃなく、目から入った情報も翻訳してくれる便利さ。だから、せっせとメモを取りまくっているんだな。


 その日、俺はいくつかの注意をして、営業に出かけた。

 久しぶりの一人営業は目まぐるしく感じ、OLさんたちにはレイモンドはどうしたと聞かれて「留学生なんで、当分は勉強で忙しいそうです」と答えておいた。

 その間にも、報告のために窓の向こうを垣間見る。

 瓦礫と言っても城壁の巨石が飛んできて前を塞いでいるらしく、左右の隙間からは光も届いているから明るいし、何かの気配くらいは掴める。が、人が通れるほどの隙間じゃないのがなんとも辛い所だ。

 こっちの世界の機材が、あっちへ持ち込めたらな!と、思うのはこんな時だ。でも、この窓から破砕機を突っ込むなんて無理だろうけどさ。


 十三時の時報と共に、ビル街から撤収する。看板を畳んで運び入れて発電機を後部にしまい、あちこち見回ってゴミを回収して、窓に掛けたミニカウンターをかたづけて窓を閉める。店内の整理は、いったん帰ってから。

 さて、パン屋とケーキ屋さんに寄って仕入れしてから、帰り道で和菓子屋さんだな。


 洋菓子『楓』に寄ると、(えんじ)色の三角巾にエプロンの野々宮さんが迎えてくれた。彼女も中井と同じく俺の専門学校での仲間で、俺より二つ年上のオネーサンである。

 黒目がちのくりっとした大きい目の童顔なのに、170ちょっとの俺より少しだけ低い長身で、槐色のエプロンをばーんと盛り上げた胸を組んだ腕の上に乗せ、ぐいっと俺に近づいてきた。

 なな、なんなんだ!?

 

「ねぇ、透瀬んとこ、キンパツのイケメンがバイトしてんだって?今日はいないの?」


 なぜ、女と言うものは、地獄耳なのか。

 ビル街からこのケーキ屋は、それなりに距離が離れている。それに、ここへ仕入れに寄る際には、レイモンドには店舗内に隠れてもらっていた。

 いったい、どこから…。


「誰情報だよ…それ」


 クッキーとドーナツのセットを五袋ずつ受け取り、前回分の売り上げ支払いと、販売手数料の伝票を切ってもらう。


「あのねー、ウチの常連にデリ・ジョイの常連がいるんよ。そのお方情報」

「はー…あまり広めないでくれよ。ちょい訳ありのヤツなんだ。もう店頭には顔を出さないから…」


 思わず内心で舌打ちした。

 俺もうかつだった。浮かれた頭で調子に乗って、イケメン売り子なんっつって顔出しさせてしまったのは失敗だった。

 これは早々に対策を練らないとな。でも、レイモンドは学びたいと言ってるし…どうしたもんか。


「なに?お忍びの王族とか?ハリウッドスターの隠し子?」

「寝言は寝てから言え…」

「えー、じゃあ、何者よぅ?」

「ひ、み、つ。じゃ、これ貰ってくな!」


 からっとした性格なんだが、興味が惹かれたことには執拗に絡んでくるから、ここはさっさと逃げる!

 

 しかし…この分じゃ、中井にも筒抜けだったりしそうだ。と言うのも、彼と彼女はお付き合いされてる最恐カップルだから。

 なーんか後が怖いんだよなぁ。



 帰りついて急いで家に入ると、レイモンドは―――昼寝の最中だった。俺が作っておいた握り飯三つは消え、空の皿だけが卓袱台の上にあった。

 こいつは呑気に…。


誤字訂正 2/16

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