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異世界三者会談(2)

「あれ?」


 隙間から聞こえた、潜められた細い声。

 そりゃ、そうだろ。縦長の隙間に、上下に色の違う目が並んでるんだもんな。それも、自分の様なオッドアイの人物が横になって覗き込んでいる訳じゃなく、通常の位置の目が二つ上下にならんでいるんだ。

 そこから導き出される答えは、二人の人物が上下に並んで自分を見ている、だ。


「トール…?」


 いつもならすぐに開く空間が、いまだに開かないこと、それに謎の人物の存在ときて、フィヴは不安げな声で俺を呼んだ。それでなくても、昨日は会えなかったし、何かあったのかと心細く思うよなぁ。うん。

 よーし、大丈夫だな。と、手を添えていた窓枠を開こうとした瞬間、お約束に応えてくれたレイモンドが一気に御開帳した。


「私の名はレイモンドッ。貴女とは違う世界からご挨拶に参りました!」

「キャーーーーーーッ!!誰よ、これっ!?」


 俺は真剣にお願いしたはずなんだ。どこかのお笑いトリオの、お約束じゃないんだけどなぁ。

 あーあ…全部台無し…。



 フィヴは終始、警戒心バリバリ剥き出し状態で、窓から優に3メートルは離れた場所に立ったまま近寄ってこなかった。あの可愛い耳を後ろに伏せて、怒りに吊り上がった目を眇めてレイモンドを睨みつけていた。本当の猫だったら、毛を逆立ててフーッフーッ言ってんだろーなー…と、脳裏で変換妄想しながら遠い目をした。

 勘違いご子息様の後頭部に軽くチョップをかまし、そこをどけとばかりに彼と窓の間に上体を捩じり込んで、フィヴを手招く。


「すまん!ごめん!ちょっと吃驚させちゃったみたいだけど、こいつは悪い奴じゃないからっ。この間話したもう一つの異世界の人なんだ…」

「もう一つのって…でも、そこはトールの世界なんじゃ…」

「ああ、うん。俺の世界。どうもね、神様の奇跡が起こってさ、レイをこっちに引きずりこんじまったんだよ」


 ずりずりと少しずつ近づいてきて、まだ回避できる位置で立ち止まり、今度は俺たちを交互に見た。


「…本当?」


 戸惑いに眉を寄せ、今度こそレイモンドを見上げて問う。

 …俺の頭の上から顔を出してるんだが、さっきから小声で「女神様…おお、女神様…」っつーキモチワルイ呟きが続いていた。

 フィヴの視線が自分に止まったと気づいたレイモンドは、俺を押しのけて身を乗り出した。


「はいっ。私の住んでいた王都が翼竜の群れに急襲されまして……彼が助けの手を差し伸べてくれなければ、私は死んでいたかもしれません…」

「翼竜…の?」

「ええ。悲しいことですが、私たちはあれらの前では脆弱で…」


 しんみりした打ち明け話をしているんだが、俺の腹筋のHPが減ってきて小刻みに痙攣してきた。このままいくと噴き出しそう。

 だってぇー、便器に嵌って喚いてたレイモンドが、恋愛物の王子様ばりに身振り手振りでポーズを決めて話しているんだぞ。胸に片手を当ててもう片方を上に差し向けたり、両手を胸の上で組んで祈りのポーズをしたりさ。

 こっちに来て、俺と話してる時はこんな芝居臭いことしなかったのにだ。

 なんだ?女神様パワーなのかな?


「私の所も竜種と戦争中だけど…どこの世界も大変なのね…」

 

 フィヴはレイモンドの事情を聞いて、少し悲し気な顔でしんみりと呟いた。


 こんな風に笑っていられる俺は、本当に幸福なんだよな。好きな仕事を好きに選び取れて、自己責任の上でだけど、理不尽な理由で奪われたりすることはない。


 レイモンドもフィヴの反応にテンションが下がって冷静に戻ったのか、小さな溜息を漏らした。

 ああ、こんな時は俺の出番だな。


「で、話は変わるが、先日の料理の話だ。これくらいの―――鍋で足りるか?」


 すでに足元に用意していた、空の大鍋をフィヴに見せた。

 フィヴの表情に、明るさが戻ってくる。


「ええ、それで十分よ。でね、ここで買った料理の説明をどうしようか考えたの。でもね、良い言い訳が浮かばないのよね…。商人や旅の人じゃ、ほんの一日二日くらいしか使えないし…」

 

 それについて、俺も考えていたんだ。けど、量が量だしおかしな言い訳をして、後で避難民内で揉めたらフィヴが大変だ。これに関してはレイモンドにも話してあって、彼も腕組みして思案してくれていた。


「フィヴが別の場所で作ってるっつーのもなぁ…」

「それなら、ここで作れって言われるわ」


「では、いっそのことここをバラしてしまった方が、無難なのではないか? 購入が一度なら誤魔化せはするだろうが、二度三度と続けば、誰かしらがフィヴさんを尾行し出すだろう。それでバレてしまっては、君の立場が悪くなる。屋台を独占していたなどと言われたりしてな」


 俺とフィヴはぽかんと口を半開きにして、レイモンドの演説のような提案を聞いていた。

 確かにそうだよな。今バラして協力してもらった方が、フィヴの立場は守られる。どうせ、売るのは大鍋一杯だけだ。フィヴが来られなくても、他の誰かが来ればいい。


「そうだな。バレても避難地区の人達だけだし、誰かが俺たちに何かしようにも、ここに攻撃できないしな。どうせなら一蓮托生で!」

「―――ただし!フィヴさんは身辺に気をつけなさい。君を人質にしてトールを強請る可能性もある。……戦争とは、時に人を非情にする…そして、トールは人が好過ぎるっ」


 実感の篭ったレイモンドの注意に、フィヴはきちんと頷いた。そして、最後に俺へ二人の視線が集まった。えー?と思いながら二人を交互に見やると、なんとも複雑な顔。


「だーっ!もう!俺のことはいいのっ。俺は商売してるだけだからな。じゃ、それで決まりな。で、食えない物を教えてくれ」


 俺が赤面しまくって喚くと、二人は笑いながら頷き合っていた。なんだよ、異世界人同士で分かり合いやがってぇ~。

 ととっと窓に接近したフィヴは、もうその頃にはレイモンドに慣れて、レイモンドも変なテンションになることなく、見せびらかすようにボールペンをカチカチ言わせてメモ取りを始めた。

 えっと?辛い、苦いは無理。香辛料全滅か?え?香味野菜も少しだけかぁ。鼻が利きすぎるのも大変だな。魚を食べてみたいかぁ。

 

 そんな風に色々確認し、味付けも変にこだわらずにシンプルがいいとなった。

 ただ、イカタコは保留。だってな?あれって猫には大敵だったはずなんだが…どうだろ。


 俺の味じゃなくていい。少しでも食べてもらえりゃいい。


誤字訂正 2/14

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