異世界三者会談(1)
今夜も2話更新です。
こちらは2話目ですよー。
異世界人は、レイだけじゃない。
いまだ俺の妄想だと疑っているらしい彼に、おりゃ!!と証明してやりてぇーって気持ちもあるが、俺の中の僅かな真面目君が「いいのか?マジでそんなことして」とも囁いている。
なぜ、真面目君がそんな心配しているかと言うと、異世界人の俺と出会っているくせに彼があまりにも信じないもんだから、もしかしたらケモ耳人種は、彼にとってアウトなのかもしれないと憂慮したわけだ。
日本人の寛容さって、外の人達から見るとむちゃくちゃ変に映るらしい。全国民がそうだとは言わないが、宗教や人種に対して頓着しないとか、果ては「可愛いは正義!」とばかりに人外キャラ・擬人キャラがもて囃されたりする。区別はしても、差別の酷さは他国より弱いだろう。
じゃあ、レイモンドはどっち側の感性かと言えば、きっと外の人達に近い。なんたって、神の存在を身近に感じてる世界の人だ。
『存在するわけがない』人種が『存在していた』と認識した瞬間、そこに嫌悪感や拒否感が生じてしまったら…。
外見の相違って、ある種の忌避を起こさせる。その上、日常の中で、自分達より下位の生き物だって思っている『獣』と同じ部位を持つ人種だ。この世界にすら、肌の色が違うだけで、侮ったり蔑んだりする人間がいるくらいだ。ましてや異世界人のレイモンドにとっては…と。
疑いたくないよ?彼がそんなことを理由に、相手の人格を無視して差別する人だなんてさ。でも、万が一それが起こっちまったら、もうその時点で取り返しがつかない。
それだけに、考えてしまう。フィヴを傷つけたくない。レイモンドだって、嫌な気持ちになるだろうし。
「なぁ、レイ。前から手紙に書いてたことがあったろ?レイの世界以外にもう一つ異世界と交流してるって」
「ああ、なんと言ったか…獣の耳と尾を持った人種だとか?」
「うん。あれが俺の妄想や幻じゃないことを証明できるんだが、会ってみたいか?」
やっぱり確認してから実行するってのが、一番確実だろうとレイモンドに訊いてみた。
あ、ちなみに、俺が彼を呼び捨てにしてるのは、年がバレてしまったせいで、「敬称付けは止めてくれ…」と打ちひしがれて頼まれたから。俺の方は、年上に見えない自分を理由にしてたが、レイモンドは反対に『年寄りに見える自分』に凹んだようだ(笑)。それに、彼の世界の敬称に「さん」はないから、俺が彼を呼ぶ時は「レイ様」と聞こえるんだそうだ。ずーっと俺はヤツを「レイ様」と呼んでいたって―――凹んでいる彼の隣りで、涙目で鳥肌をたててた俺がいた。
さて、話は戻るが、彼はなんと答えるか。
レイモンドは、眉間に皺を寄せ、じっと考え込んでいた。
やっぱりダメだったか?
「あのな、無理ならいいんだ。会ってお互い嫌な気分になるくらいなら…」
「あー…相手に、私のことは話してあるのか?」
ちっ!また「私」になった。こいつは、テンションが上がった時にしか地が出ない。年下なんだから一人称「ぼく」でいいのに~。さすがに貴族の子息だ。
「おう!お菓子を前にして、それ以上の喰い付きだったぞ。オッドアイをキラキラさせて~うははっ」
「宝石眼…宝石眼なのか!?」
「ああ…そ、そうだよ…な、なんだ?いきなりっ」
おお、何か知らんが、オッドアイでテンション上がって来たぞ?それも喜の感情が、顔面いっぱいに溢れているぞ。
「トールは言ってなかったぞっ。彼女が宝石眼とは。ああ、是非会ってみたい!」
なにこれ、こわい。
彼は薄っすらと頬を染めて、目を潤ませていた。なんか俺がフィヴに出会った時以上の興奮を、レイ様はお感じになられているご様子で…。
これじゃ、まるきり旧電気街に集う方々と同じテンションじゃねぇかよ!なんだ?レイもそっち系好みなのか?
「あのー、レイ様?なんか、いきなり人が変わったみたいだぞ?なんなんだよ、その変わり様は…」
「私の国では、宝石眼持ちは神の遣いだ。女性なら、女神の遣いだな!一つの色は地を祝福し、もう一つの色は天に祈る。と謳われ、王の加護を賜ったりもする!」
「はぁー…すげーなぁ。神のおわす世界はぁ…」
狭いキッチンカーの中で、キンパツのイケメンが両腕を広げて、まるで福音を伝える宣教師のような陶酔っぷりだ。
……違う意味で、フィヴに会わせていいのか悩むぞ。
どうしようかと悩んでいた俺に、レイは縋りつく勢いで会わせてくれと懇願してきた。
もうね、異世界のケモ耳美人と会える楽しみじゃなく、女神様とお会いできる熱狂的巡礼者の態をなしてきていた。俺の知らないレイの、彼の中に存在する異質な感性は、きっと彼の世界では常識なんだろう。
仕方なく、マジで仕方なくOKを出した。
ただし、その跪いて崇める様なことは禁止!相手はちゃんとした一個人で、神や女神なんかじゃないんだからな!と釘を刺しまくった。
それになー、レイ。きっと彼女は、君の中の女神の遣い像をぶっ壊すぞ。ツンデレ怪力ケモ耳聖女なんて、ちょっとマニアック過ぎ。本人には、ぜってー言えないが。
というわけで、午後の住宅地拠点でキッチンカーを停め、ソワソワしっぱなしのレイの尻に膝キックをお見舞いしながら開店準備を始めた。お前はデート直前の高校生か! あまりにも見てて恥ずかしいぞ!
できるだけレイには店舗内で待機してもらい、窓越しの接客以外での、他者との接触は避けてもらっていた。でも案の定、若いお母さん集団に熱烈歓迎を受け、OLさんたち以上の歓喜を彼女たちに投下してしまったようだった。
画面の向こうのアイドルより、身近に存在する生身のイケメンだもんな。
「トール、そろそろ…」
閉った窓にちらちら視線を送り、気もそぞろなレイの催促に、俺は営業窓から外を眺めて確認した。
マンションの外壁しか見えないガラス窓の枠に手をあて、もう一度レイを見る。
「ちゃんと注意事項を守れよ?相手はただの女の子だ。初めて会った男が変なヤツだと、もう会えなくなるかもだからな!」
「変なヤツ……」
「頬染めてソワソワしていいのは、女の子だけなの!」
変な奴扱いに肩を落としつつも、期待に興奮はおさまらないみたいだ。こうなったら…諦めるしかないか…。
俺は腹を括って、窓枠をそーっと細く開けたのだった。その隙間に、カウンターに腹這いになったレイが我先にと片目を近づけていった。
どうか、上手く行きますように。