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本日再開営業開始!

 車種も大きさも色彩も違うキッチンカーの販売窓口を挟んで、俺は何度も同じ台詞を繰り返す。

 笑顔でお詫びと感謝と、お願いを。

 さすがにお客の人数は減ってしまったし、商品数自体も車体に合わせて減らすしかないのは痛いが、諸々を覚悟しての再開だ。

 来店してくれた常連さんたちは、事情を記した黒板に目を通すと心配と励ましの声をかけてくれる。

 事故を噂で知ってた人は、五体満足で復帰できたお祝いの言葉で、知らなかった人は黒板を見て目を丸くし、気遣いと注意を。


「貰い事故でも事故だからね。ほんとに気をつけてね?」

「ありがとうございます!」


 ほかほかの総菜が入った袋を手渡しながら、笑顔にちょいと苦さを滲ませて返した。

 季節は俺が入院している間に新しい年を迎え、二代目『デリ・ジョイ』のお披露目の今は春の終わり。

 意識不明からリハビリ、そして、二代目改造。

 今度は片面のみの接客窓口にした。キッチンカーがすこし小さくなったせいもあるが……。


「もう、どっかの世界の神様に使われるのは勘弁!」


 ジィ様のような付喪神は憑いていないんだから、あんなコトが再度起こるとは思えないが、二代目も中古車を使っての改造キッチンカーだ。油断はできない。

 

 あれは夢だったんだと思うことにした。

 そー思い込まなきゃ、月夜の晩に未練がましく窓を開けちまう。

 違う車なのに。違う窓なのに。

 一代目から使える部品をいくつか引っ張ったが、接客窓口の特殊ガラス以外は、どれもこれも異世界交流には直接関係ない部分になった。

 まるっと規格の違う車両を使ったんだから、そりゃー当然だ。


 俺の再出発を祝って、中井と野々宮さんが訪ねてきた。

 それを俺と立川が出迎え、俺の祝いだってのにいそいそと料理を準備している間、ふたりには二代目キッチンカー内部の見学。


「なんかこじんまりしたなー」

「一回り小型だからな」

「小さくなった分、動きづらくねぇ?」

「まだ慣れてないから、あちこちぶつかる」


 以前の感覚が残ってるからか、無意識に振り返ってはカウンターの角や調理台の縁にぶつかっている。

 いてぇ! と騒ぐわけにいかないから、涙目の笑顔で接客するんだが、常連さんは俺のミスに目敏くて……。


「その内、慣れるって!」


 立川はバシッと遠慮なしに俺の背中を叩き、何度か目にした失敗を思い出したらしくふきだした。

 そんな俺たちをニヤニヤしながら眺めるバカップル。

 ……もうすぐ、俺たちも仲間入りしそうだ。



◇◆◇

 

「――ありがとうございます! またのお越しを~」


 閉店間近にぽつりと空いた時間。

 お客の背を見送って、俺はカウンター下の折り畳み丸椅子を引き出して座った。

 長くなってきた陽が、今はマンションの向こうに隠れ始めている。温い風が、ビニールバッグの端をカサカサと揺らす。


 こんな時、寂しくなる。

 あれは夢だったんだ。夢だったんだよ、俺!

 いつもの自己暗示を呟きながら、よっこらしょっとまだ違和感の残る脚を軽く叩いて立ち上がる。

 さーて、閉店作業を開始。

 定休日の明日は、見舞い返しの品を携えて親戚や知り合い巡りをしないと。キッチンカー再開のためにお詫びと再開の挨拶回りは、業者さんたちを優先した。

 中井たちが機転を働かせてくれ、いくつかの業者さんには事故直後に連絡を入れてくれていた。そこから、他の業者さんへと伝言が届けられ。みんな心配して、それでも「復帰を待ってるから」と励ましの言葉をくれた。

 それを聞いた時、俺はありがたくって嬉しくって泣いちまった。

 やっぱり、商売は縁と信頼だな。どっちも、欲しがっても簡単には手に入らないもんだし。


 そう、――縁――。


 今生では、絶対に再会は無理としか思えない異世界のふたりと、なぜだか根拠もなしに縁が切れて消滅しちまったてな感じがない。

 ジィさんが存在していた時に、あの不意打ちのような接続間違いによる一瞬の再会はあったけど、いなくなってしまっては無理だってのも解かる。

 でも、切れてない。まだ、繋がってる。はず。


 癖になった溜息をもらし、後部ハッチを閉めて運転席に乗り込む。

 エンジンをかけようとスタートボタンに指を伸ばしかけたところで、スマホから着信音が響いた。


「……中井?」


 ディスプレイに流れる中井の名。

 なんだろー? とLINEを開いた俺の目に、ログと一枚の画像が飛び込んできた。


「はぁ!?」

 

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