何が何だかわからないけど、飯は気分よく!
ついに来た。
あれこれ抑圧されていたご令嬢との再会の日だ!
レイモンドの話を聞く分には、エリックさんとの日々を過ごす内にシャーリエ嬢は目に見えて落ち着いてきたらしい。だから、以前のようにいきなり暴挙に出たりはしないはず、だと言う。
それに、フィヴのところで他人の王子が俺の料理を食っていたことを思い出し、血縁者以外にも料理だけなら見えると確信が持てた。
ただ、料理だけが見えてもどーしよーもねぇ。俺の手が料理を運んで窓を越える場面が見えるかどうかが重要。
テーブルの上に見慣れない料理を並べて、これが異世界から持ち込まれた物だと言ったって信じてもらえるわけないんだし、俺が見えなくても、突然壁から料理が現れて宙を移動し、机の上に置かれるって流れを見てもらわねーとな。
ドキドキしながら、俺はキッチンカーのカウンターに料理を並べて準備した。
本日、取り揃えましたのは~、オムライスとおでん各種がメイン。
そのチョイスはおかしいだろ! と言いたきゃ言え。
「ジィ様。これから窓を開ける先は、元の倉庫の一室にしてくれ」
――しかたないのぅ。ほれっ――
「サンキュー」
勢いよく窓を押し開くと、そこにはすでに全員が揃っていた。
唐突に現れた俺にびっくりした様子のエリックさんと、相変わらずだなと目を細めながら腕を組んで立つレイモンドがいて……あれ?
「お……久しぶりです。エリックさん……」
「ああ。この度は俺のわがままに付き合って――おい。どうした?」
俺の視線の先には、件のご令嬢であるシャーリエ嬢がいる。
彼女はエリックさんとレイモンドに挟まれた位置に座っていて、あの時みたいな刺々しい雰囲気を撒き散らしたりはしなかった。その代り、俺のいるほうを見てぽかんと口を開いて目をかっ開いている。
「あのー……、シャーリエさんに俺が見えてるみたいなんすがー」
「はぁ!?」
「ええっ!?」
俺とエリックさんが会話してるってのに、まるで化石化したみたいに瞬きひとつしないで固まってる。
「おーい。シャーリエさーん」
「シャーリエ嬢、見えているのか?」
「シャーリー?」
今更ながらシャーリエ嬢の異常に気付いたのか、レイモンドとエリックさんが彼女の目の前で手のひらを振ったり、背中を叩いたりして焦っている。俺も一緒になって、声をかけながら手を振ってみる。
それに、俺の背後も大騒ぎだ。
「見えてるって?」
「なんで見えてるのよぅ。どうしてぇ~?」
俺の脇を中井が、俺たちの頭の上から野々宮さんが顔を出した。
その瞬間。
「きゃっ! まっ、また増えて!!」
その悲鳴で、見えているんだと確信した。
今度は、レイモンドとエリックさんが驚く番らしい。俺たちと彼女を何度も交互に見やり、最後に俺を見て首を傾げた。
「マジで見えてるんだ!! ねぇ! どうして!? 何したのーっ!」
俺側で一番エキサイトしてるのは、言わずと知れた野々宮さん。フィヴ会いたさに、異世界と繋がる方法が見つかるよう願ってやまずにいたんだ。
でも、レイモンドやエリックさんが首を傾げて不思議がっているってのは、その方法っつーか要因に気づかないってことだ。
俺を見るエリックさんに首を傾げ返してみる。すると、やっぱりシャーリエ嬢に何かがあると思ったのか、腰をかがめて彼女の顔を覗き込んだ。
「シャーリー、彼らが見えてるんだよな?」
「ええ! 見えてますわ! あなたたちが言うように、私たちとは違う人種で変わった衣装を纏った方々が!!」
「やったぜ! こんにちは。初めまして。赤駒商会専用倉庫の妖精、トールと愉快な仲間たちです!」
俺が意気込んでそう自己紹介した途端、レイモンドたちは噴き出し笑いをはじめ、中井たちにはぼこぼこにされました。
いいじゃん。実際に初対面の人たちのほとんどが妖精だって言うんだし、愉快な仲間なのも事実だし。
俺の捨て身のギャグで笑い声が倉庫に溢れて雰囲気が和んだこともあり、その後は穏やかな再会の場になった。
俺や中井たちが揃えた料理や品も存在証明のためじゃなく、見えるようになって良かったって理由のお祝いの差し入れに変わった。オムライスにおでんに、箱に並んだ可愛いプチケーキのセット、そしてパン生地で作られたピザがキッチンカーの窓を通って木の机の上にずらりと置かれ、思い思いに手を伸ばす。
「良かったよ。変な具合にならなくてさ。半端な状況のままじゃ異世界の料理なんて食えなかったかもだし?」
「いや。内心ではシャーリエ嬢に拒否してほし――げほっ、ごほっ」
「彼女の取り分も食えたらと願っていたんだろう! 意地汚い弟だな!」
俺の本音に答えたレイモンドの物言いに、エリックさんのげんこつが落ちる。
横目で見れば、シャーリエ嬢が恐るおそるって感じだけどピカピカに磨かれた金属の大皿のオムライスを口に運んでる。その感想は、作った俺じゃなく野々宮さんに伝えているのがなんとも……。
だって、食事会開催前に謝罪をって流れになったのに、最初に俺の正面に立って見つめあった瞬間、彼女は笑いだしてしまったのだ。「ごめんなさい……」と謝りながらも止まらない笑いに息を乱し、しゃがみ込んで笑いをどうにかしよーとしてる姿を見ちまったらさ、「そんじゃ、食ってからにしよーぜ」と言うしかなく。
あのツンツンしていた神経質なご令嬢は、実は笑い上戸だったことが発覚し、結局は中井たちのわだかまりすら吹き飛ばしちまったって結末だ。
まぁ、いいんだけどな。料理は気分良く食ってほしいから。