フラグは、地中深く埋まっていた!
毎度、感想や誤字脱字などの間違いの指摘、訂正をくださり、ありがとうございます。
暇をみつけて修正しておりますが、追いつかない状況で……orz
お手数かと思いますが、誤字報告してくださると嬉しいです。自宅待機のこの機会に、暇つぶしがてらよろしくお願いします。
自分を客観的にみて、友人が多いタイプだとは思わない。
少数精鋭だとか、悔し紛れな言い訳はしない。実際に、現在までまともな付き合いが続いている学生時代の友人は、片手で足りる。
これは、友人たちと都合を合わせにくい職業事情もあるが、高校卒業と同時に進学や就職で地元を離れた奴が多いっつー理由のほうが大きい。
気づけば、専学からの友人が、一番長い付き合いになっている。
だから、同級会なんつー切っ掛けがなけりゃ、そうそう再会する機会はないだろう。
「長期連休でもないのに、いきなり同級会とかどーした? って思うだろ?」
「それな。盆正月じゃねぇのに、集まりも悪いだろーと思ってた」
「んで、来てみりゃこの人数……。スゲェよ」
ほんとに凄い。
開催は、土曜の夜。連休でも祭日でもないのに、十五人ほどの元クラスメイトが参加していた。俺たちのクラスは、二十五人。その内、半数以上が集まっていた。
ラフな普段着でグラス片手に、名刺交換しながら近況を報告しあってる者たちや、着飾った元女子だけで皿に盛った料理を並べて、婚約だ結婚だと冷やかしあっている。
そんな中で、付かず離れずな付き合いを続けてきた俺たち地元組の四人は、小さなカウンターテーブルに身を寄せ合い、懐かしい面々を眺めながらひそひそと話していた。
場所は、俺も知ってるちょい小洒落た多国籍レストラン。オープン時から人気があって、一年たった今でも繁盛してるらしい。
バイキング方式で並んだ料理は、主に東南アジアの味付けの品が多く、香辛料や酸味が強いわりにさっぱりしてるのがイイ。そこに、魚介の西京焼きや筑前煮が混じってても、それほど違和感なしでいける。
確かに、これなら高級な居酒屋って感じで、常客がつくのも当然だな。
そんな店を土曜の夜に貸し切りってんだから、何事かと思っても仕方ないだろう。
あーだこーだと、料理をつつきながら憶測を出し合っていたら、それは突如として始まった。
予告なく照明が絞られ、スツールが撤去されたカウンター前に、ピンスポが三つの光の輪を描いた。
現れたのは、高校の頃とはガラッとイメージを変えた幹事の吉野。
小太りで八の字眉の笑顔が地顔なのは変わってないが、あの頃のどん臭さは払拭されて、やり手の商社マンっつー雰囲気が滲んでる。
その吉野が、マイク片手に軽い口調で喋り出した。
「おい……これって」
「あー、聞いたことあるけどさ、ちょい規模がデカすぎねぇ?」
「騙されたな……」
集まってくれたことに対する感謝の言葉のあと、なぜか吉野の会社の先輩と紹介されたふたりの男が、サービスワゴンに詰まれた調理器具と一緒に現れた。
呆気に取られてる俺たちを前に、絶妙な間合いで語りが開始される。
鍋、フライパン、ケトルにフードプロセッサー……の、商品説明だ。
その瞬間、会場内いる参加者全員の心の叫びが、ひとつになったような気がした。
絶対に間違ってない自信がある。『やられたっ!!』っつー叫びだ。
こうなると、料理や酒を味わう余裕なんかない。せっかく新たな味を見つける――じゃなく、楽しもうと張り切って来たのに。
いつ、どうやって逃げ出すか。注目されたら、どう回避するか。
目と目で合図しあった俺たちは、料理を取りに行くふりをして人の影や暗がりを利用し、じわじわとドアに向かって後退していった。
その間に、払った会費分のもとを取ることだけは忘れない。逃げ隠れしながら、食い物や酒を口に詰め込む俺たち。
「行くぞっ」
「「「おう!」」」
立つ鳥跡を濁しまくり、後ろ足で砂をかけまくる。卑怯だ薄情だと、言いたい奴は言え。世の中、逃げ足が速くて要領のいい奴が生き残れるんだ。
だいたいだ。総菜屋経営の俺に、今さら鍋だのフープロだのはいらねぇっつーの!
「「じゃ、俺たちはこれでっ!」」
「「皆様は、ごゆっくり」」
声を揃えて別れの挨拶を投げ、勢いよくドアを押し開けると一斉にトンズラした。
俺たちは、人通りもまばらな夜の大通りを走って走って、路地奥にある煤けた焼き鳥屋に飛び込んだ。
「ぷっはー! 逃亡成功!」
「やってらんねーな! なーにが懐かしき同級会だよ」
「俺の三千円、返せーっ」
「俺の半日有給、返せーっ!」
学生であっても社会人であっても、こーゆーイベントは大迷惑としか思えない。それぞれの立場で肩を怒らせながら店に入ると、食欲をそそる煙と香ばしい匂いと、皺くちゃで痩せぎすのオッサン店主の、威勢のいいダミ声が迎えてくれる。
それに応えようと手を上げかけたところで、脇から女の声が滑り込んできた。
「あたしはぼんじりと塩皮ね。詩史は?」
「マナちゃん……」
「お? 六人か? 奥の席とカウンター使え」
「え? あ!」
狭い店内は、カウンター席六つと四人座りのテーブルがふたつ。すでにカウンターは二席塞がっていて、オッサン店主は奥を指さした。
「なんだよ、立川たちも逃げてきたんか?」
奥に押されてようやく席に落ち着くと、声の主を見てホッとした。
俺はカウンターに、隣は元同級生の立川 真波が。テーブル席には、足立、松野、川口の三人が工藤 詩史の隣を取り合いしている。
「当たり前でしょ!? 会社、早退して来たってのに、なーんで鍋の押し売りされなきゃなんないのよー」
「よく逃げてこれたなぁ」
「あんたたちの動きを見てたからね。ぽやぽやしてる詩史を引っ張って、混乱に乗じて……うははぁ」
「マナちゃん、きっと吉野君たち慌ててるよ……いいのかなぁ?」
どんっ、とカウンター上に、焼き鳥の盛られた皿と生ビールのジョッキが置かれる。俺は何も考えずに、それをテーブル席の上に運ぶ。
「おっちゃん、俺は――」
「ネギまとタレ皮、あとはハツとハラミな。ウーロンはテメェで出せ」
「ほい」
「あのー、私もウーロン茶で……」
「あーOK」
この店でカウンター席に座ってしまったら、馴染み客は給仕する宿命だ。ことに、テーブル席とカウンターの両方使いの団体となれば、こーなっても仕方ない。
「さあ、乾杯しましょ!」
「何にだよ!?」
「マナちゃんたら……」
「卒業以来の再会と、悪辣なマルチからの逃亡成功を祝って!」
「ああ、そっちね」
「「「かんぱーい」」」
メーカーのラベルが貼られたジョッキが次々とぶつかり、生ビールの泡が散る。
「で、透瀬って専業主夫やってんだって?」
「はぁ!?」
立川の何気ない言葉に、俺は素っ頓狂な声を上げた。