表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/148

同級会は、拾うべきフラグか

 高校時代の同級生だった吉野から、一通のメールが届いた。


 キッチンカーの窓修理の頃、中井の助言もあって『デリ・ジョイ』名義でTwitterを始めた。呟く内容は、新メニュー紹介や定休日、臨時休業日の案内ばかりで、俺個人の情報はなし。

 そんな、宣伝用アカウントのDMに、ぽつんと送られてきた。

 あれ? なんで知ってるんだ? と、思いながらメールを開いてみれば、『デリ・ジョイ』の常連OLさんからの情報だと書いてある。

 どこで繋がってるのか、世の中は思いのほか狭い。

 俺の母校は、昨今の個人情報保護の風潮に則って、配布された卒業名簿は、氏名とメールアドレスの記載だけだった。必要があって住所や電話番号が知りたい場合は、母校に問い合わせしないとならない。

 面倒だが、昨今の情勢下では保護も過剰にしないとならないんだろう。

 二十歳を過ぎて数年。大学や専学ならともかく、高校卒業から数えてもすぐに答えが出てこない。

 そんな長い月日が過ぎれば、高校時代に使ってたメルアドを変更した奴は多いだろう。それこそ、ガラケーからスマホ、旧機種から新機種へと変えるたびにアドレス帳を整理するとか――な?

 かく言う俺も、そのひとりだ。

 メールを読みながら、懐かしい面々の顔が蘇る。

 しかーし、ほとんどが十代の頃の顔。

 出席するかどうか。早めに返信をと添えられていた。

 さあ、どうすっかねぇ。

 

「ドウキュウカイ? とはなんだ?」


 レイモンドが目をぱちくりさせて、訊いてくる。

 お。『ドウキュウカイ』だけが、妙な発音で返ってきたぞ。こりゃ、翻訳しようにも、レイモンドの世界にはない単語らしい。


「学生時代に同じ部屋で学んだ仲間を集めて、親睦を深める会だな」

「ああ、学び舎の同期だった仲間か!」

「そそ。男女共学だったから、野郎どもはともかく、女子とは久しぶりに会うんだよなー」

 

 レイモンドの世界にも学校はある。十歳から入学する学校は、すでに道が分かれているんだとか。

 ひとつは、貴族や裕福な家庭の子弟が通う学習院。基本的な教養を学びながら、マナーや社交を練習する場らしい。

 もうひとつは、脳筋への道! 士官学校やら練兵学校だ。こちらは、言わずと知れた国軍兵士になるための専門教育の場だな。

 そんで、レイモンドは練兵学校上がりの士官学校卒業だとか。


「仕官にならんで、下っ端兵士?」

「いや、士官学校を出ても、最初の五年は現場で下っ端開始だ」

「おーっ、まっとうじゃん」

「王子すらも下っ端からだからな」

「そーゆー国家は、強い!」

「発展した世界の中でも平和国家に住むトールが、何を言っているのやら……」


 戦いが身近にある世界は、つい数か月前に覗かせてもらった。

 国家間や暴動などの対人だけじゃなく、ドラゴンのような巨大なモンスターを頂点とした、狂暴かつ大迷惑な魔獣とかいうやつとの戦いが日常だって世界だ。

 熊や鹿なんかの害獣駆除ですら大変な俺らの世界とは、まるで違う苦労をしてるんだろう。


「レイのとこは、そんな親睦会はねぇの?」

「ないな。学習院卒業生は、その後に社交界デビューがあるし、僕らは持ち上がりのように軍入りだ。隣りを見れば同期がそのままいる」

「なーるほどな」

「それにな……練兵学校や士官学校には女性は入らんからな!」

「お……」


 そーだよな。そんな世界なんだよな。わりぃ、わりぃ。うはははっ。

 エリックさんの場合は、例外中の例外なんだろーし、身分差を乗り越えてってのは大変なんだろうな。


「まあ、トールもそろそろ料理だけではなく、身を固める準備をするのもいいのじゃないか?」

「準備って……ん~~。俺が良くても相手がなぁ……」


 心のどこかで、学生時代の失恋がトラウマってる。

 俺自身のことじゃなく、仕事や自営自体を理由にされるんじゃないかと。


「無理だと諦めてしまえば、そこで終わりだ。すこしずつでもいい。手探りで進むことも大事だぞ」

「言ってくれるねぇ」

「言うさ。僕は、それをトールとの出会いで体験したんだから」


 俺を真っ向から見返して、恥ずかしげもなく告げるレイモンドに、もうこれ以上は何も言えなくなった。

 感心を通り越して、いっそ天晴と思う。

 あくまで同級会だ。フラグが立つか立たないかは、わからない。

 でも、立ったフラグはかならず手に取ろう。相手から、おもっくそへし折られるかもしれないけどな。


「つかさ。俺はドウキュウカイの話をしてたんであって、恋人ができる機会だとかってな方向には持ってってないはず、なんだけどー?」

「女性とは久しぶりに、などと言ってたじゃないか。ドウキュウカイの説明ならば、そこまで言わなくてもいいと思うんだが?」

「うぐっ」


 ぺろっと漏らしてしまった本音で察するとは。侮れん。


「そんなにダダ漏れだったか……?」

「所詮、僕らは一生女性に夢見る、男などというどうしようもない生き物なんだ。諦めろ」

「なら、どっちが先に恋人を作れるか。勝負だな」

「受けて立とう!」


 拳を掲げて宣誓するノリのいいレイモンドに、俺は声を上げて笑った。

 知ってるんだぞ。

 ()()が、マジでレイモンドの未来の姿なら、天使みたいな可愛い息子をくれた嫁さんが現れるってことを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 確かに、先に見ちゃったねえ〜w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ