私の世界 私の生き方
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私はフィヴ。17才になったばかり。
数少なくなった白銀豹族の純血種。
私は、戦士の父と兄の三人家族で、獣種の国である獣王ライオットが統治する、ディクレール王国の森に棲んでいた。
広大な国土のほとんどが森林地帯のディクレール王国は、大獅子族の獣王ライオットが住む王都一帯を獅子族の領地が囲み、同じように虎・狼・山猫・狐・豹・猿の様々な一族が領地を与えられて棲んでいる。
豹族は、黒豹族に斑金豹族、そして私達白銀豹族の三つの一族がおり、森林地域の南に棲み処を置いていた。三族とも仲が良く、血が混じることを禁忌にはしてないため、今では純血種は少なくなってきている。それも時間の流れだと父は言うけど、純血種が全くいなくなったら《族名》はどうなるんだろう。
それは他種族も同じで、獣王自身ですら僅かに金獅子族の血が入ってると噂されている。
そして、ディクレール王国の隣りには、竜王ジェルシドが統治する竜種の国があり、その二国を囲むように三日月の形をした翼王シドーの有翼種の国があった。
三つの国は、数年前までは交流も盛んで、その国の許可さえ取れば移住もできた。互いの長所短所を補い合いながら政治や商売や生活を営み、長い間それでうまく過ごしてきた。
ところがある日、突然その平穏が壊れた。いいえ、壊された。
竜王ジェルシド率いるドラグーラ国が他の二国へと、いきなり宣戦布告したのだ。
二国の王は慌てて使者を送った。何が原因の宣戦布告なのだと。でも、竜王はそれに返答せず無視し、竜王軍兵を各地へ送り込んできた。当然、なんの準備もしていなかった二国は大打撃を喰らって後退するしかなく、戦線は見る間に拡大した。
攻め込まれた二国の王は話し合い、その結果として出した結論は、領土拡大を含む竜王の覇権狙いだろうと言うことだった。
最初こそは竜王が圧倒したが、そこから一進一退の長い戦争が始まり、今ではじりじりと戦火が南へと下ってきていた。
戦士だった父と兄は獣王の下へ走ったまま戻らず、一人残された私は燃えあがる棲み処の森を背に、仲間たちと逃れるしかなかった。そして、辺境の草原地帯へ避難した時には、その仲間たちとも別れ別れになってしまって…。
避難地区生活も、すでに半年になった。
北と違って南は気候が穏やかで過ごしやすく、偏りはあるけど食料はそれなりに手に入った。でも、避難地区に人が溢れてくればそれも足りなくなってくるだろうし、男衆は戦場へ駆り出されているから、女衆が多い避難民では狩りや採取が捗らなくなる。
そんな心配が目の前に迫っている中、私は一人で街道を中心にうろついていた。
「フィヴ、毎日どこへ行ってるの?」
避難地区で出会った、私より少し年上の赤金狐族のリーラが、私を探していた。
先の尖った金茶の長めの耳と、ふっさり長毛の尻尾を垂らした長身の彼女は、耳と同じ色の癖っ毛の間から覗かせた金色の目で、私を頭の天辺から足の先までちらちらと眺めた。
「食べ物探しよ。森じゃないから中型の獣が少なくて…」
草原には小型獣しか生息していなくて、肉食中心の獣系(又は、獣系の私達)には物足りない。それでなくても育ち盛りの子供たちが多く、麦や粟や野草なんて付け合わせにもならない。
リーラに纏わりついてた彼女にそっくりな弟妹達が、鼻を引くつかせながら私に絡んできた。
「……なんかフィヴから、甘くていい匂いがする」
「あ、ほんとだぁ」
しまった!と思った時には、もう遅かった。三人のちび達が私のマントの中へ顔を突っ込んで騒ぎだした。
自分だって鼻が利くんだから、他の人達だって簡単に匂いを突き止めるだろうってことを失念していた。どうしよう…。トールのことは、絶対に言えない。
「花が…一杯咲いてたとこを歩き回ってたから…かな?きゃっ!ちょっとぉ!!」
必死にしどろもどろの言い訳をしながら、マントに潜り込んできたちび達を両手で払っていた時だった。ちびの内の誰かの手が、私の胸を思い切り鷲掴んだ。
勢いマントを振り払って、ちび達の頭を掴んで力一杯押し離し、リーラの側へと逃げ込んだ。
「フィヴの乳でけぇー!!」
「フィヴの乳、すげーいい匂い!!」
なんてことを大声で叫んでいるんだ!こいつらーーー!! 興奮しながらも悪意のない満面の笑顔で私を見上げるちび共に、涙目で拳を振り下ろそうとしたが、それより早くリーラの早業ゲンコツが炸裂した。
「馬鹿なことを、でっかい声で叫んじゃいけません!―――フィヴごめんねっ。後でちゃんと言って聞かせておくから」
「ううん。私の方も気遣いしなくて…あ、これ、食べて。さっき旅の人から貰ったの。もしかしたらこの匂いかも…」
トールから貰って少しだけ残しておいた、サクサクした舌触りのお菓子を上着の内隠しから出すと、リーラに身を寄せてこっそり手渡した。誰にも渡さないと言ったけど、こうなってしまっては仕方ない。先に食べた三角の甘いパンだったら無理だけど、これなら似たお菓子があったはず。
「わー…ありがと。こんなお菓子、久しぶり…嬉しいっ」
私が渡したお菓子をそっと胸に抱いて、目に涙を浮かべたリーラが呟いた。
もう何年も、こんなにいい香りで高級なお菓子なんて口にしてない。私がそうなんだから、もっとドラグーラ国に近い領地に棲んでいたリーラ達なら、それこそ思い出の食べ物になっちゃってるだろう。
嬉しさや悲しさが一緒に込み上げてきたんだろうね。私も同じだったから。
「姉ちゃん、くれー!」
「「くれー!」」
今度は姉の胸元に釘付けのちび達が、指を咥えておねだりを開始した。
あーあ…これじゃ、リーラの口に入るのは欠片だけね。
「さー、また食料探しに行って来ますか!じゃあね!」
これ以上は、騒ぎの中には居たくない。
私は私の、生き方ってものがあるから。