蛍と友達
「僕は生まれた時からずっとこの町に住んでる。」
蛍はそう言って空を見た。
「僕はこの町が好きだ。空気が綺麗で、空が綺麗で」
蛍の綺麗な横顔に見とれてしまう。
「蛍に兄弟はいるの?」
蛍は私にとってとても不思議な存在。
現実味がなくて、夢の中の人のよう。
目を離したらいつの間にかいなくなってしまいそうな・・・家族なんて現実的なものが蛍にあるなんて想像できない。
「たくさんいるよ!!兄弟!!」
予想外の答えに私は目を見開いた。
蛍が大家族なんて・・・想像もしてなかった。
「みんな、この世にはいないけれど・・・」
最後に呟かれた蛍の小さな声は私の耳には届かなかった。
「じゃあ、蛍の好きなものは?」
「清」
即答された言葉にまた固まる。
わ、私!?
はっ!?何言ってんの!?
私はなんと返していいのか分からず、スルーすることに決めた。
「じゃ、じゃあ、嫌いなものは?」
「人間」
先ほどまできらきらしていた蛍の瞳から光が消える。
スッと気温が下がったように冷たい風が吹いた気がした。
「えっ?」
私は蛍から目がそらせなくなった。
蛍の暗い瞳
「僕は人間が嫌い。平気で水を汚す。自然を壊す。この世の全てが自分のものだというように横暴で何も顧みない。他の生き物がこの土地に生きていることを考えてくれない。平気で弱いものの住処を奪って行く。」
蛍は淡々と言った。
「人間はこの世で一番愚かな生き物だ。」
蛍の瞳には何も写っていなかった。
目の前に広がる景色さえも・・・
「でも、清は好きだ。」
固まる私を気にもせず、蛍はにっこり笑った。
なぜ人間をそこまで嫌悪するのか。
なぜ出会ったばかりの私をこんなにも好いてくれるのか。
私には何もわからなかった。
その日、私はもやもやした気持を抱えながら蛍と別れた。