蛍と私
「あっ・・・」
私の目線の先に立っていたのは、着物を着流し、異様な雰囲気を纏う少年だった。
透き通るような白い肌
吸い込まれそうな深い漆黒の瞳
瞳と同じ色のさらさらした髪
私と同じくらいの歳頃かな。大人びた表情から年上のようにも見える。
綺麗・・・
男の人を綺麗なんて思うの初めて
でも、ほんとうに綺麗。
語彙力がないことが悔しい。
「っ!!会いたかった!!」
ぼんやりと彼に見惚れていると、彼はガバッと私に抱きついてきた。
「えっ!?」
一瞬何が起こったのか全くわからなかった。
暖かいものに包まれ、痛いくらいに抱きしめられている。
「ずっと・・・ずっと待っていた!!ずっと、会いたかった!!」
はっ?
状況について行けず頭が真っ白になる
なに、これ・・・
知らない人に・・・だき・・・
「き、きゃぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!」
時間差でやっと自分のおかれた状況を理解し、私は慌てて少年を突き飛ばした。
「いたっ!!」
細い彼は簡単に突き飛ばされ、地面に背中を打ち付けた。
「急に突き飛ばすなんて酷いじゃないか!!何するんだよ」
少年は目に涙を貯めて私を睨んだ。
まるで私が悪いとでもいうように
「な、なにするんだはこっちのセリフよ!!急に抱きついたりしてどういうつもり!?」
イケメンに潤んだ瞳で見つめられれば、悪くないのに良心が痛む。
す、少しイケメンだからって調子に乗るんじゃないわよ!!
「僕、ずっと君を待っていたんだ。会いたくて、会いたくて・・・」
はっ?
こいつなに言ってんの?電波系男子?
「あ、あの、私あなたとは初対面だと思うんですが・・・。一応名前聞いてもいいですか?」
彼の電波発言は無視することにして、あまり刺激しないように尋ねた。
「僕の名前は蛍。」
蛍・・・やっぱり知らない名前。
こんなにイケメンなら忘れるはずないだろうし
「ごめんなさい、やっぱりあなたのこと思い出せません。」
戸惑う私を見て蛍と名乗る少年は寂しそうに微笑んだ。
「そうだよね。知るわけないよね。急に抱きついたりしてごめん。ごめんなさい。」
さっきまでの態度と一変して、蛍は殊勝な態度で私に頭を下げた。
「い、いえ、私の方こそ突き飛ばしたりして」
急に態度を変えられたら調子が狂ってしまう。
「いや、悪いのは僕だから」
本当にごめんと蛍は深く頭を下げた。
綺麗な顔が悲しげに歪められるのを見てしまった私は罪悪感でいっぱいなる。
いきなり抱きしめられて、被害者は私なはずなのに・・・なんだか、これじゃ私がいじめてるみたい。
私はため息を一つついた。
「私は清。小川清」
私が自己紹介をして手を差し出すと、蛍は嬉しそうに顔をほころばせ、両手で包むように私の手を握った。
「よろしく、清!!」
やっぱり綺麗・・・
ふわりと微笑んだ彼はとても美しかった。
彼の素直な反応のせいなのか、彼の纏う雰囲気のせいなのか先ほどまでの彼への不信感は溶けるように消えて行った。
「ねぇ、清。僕と友達になってくれない?」
手を握られたまま縋るような瞳で見つめられ、言葉に詰まる。
いきなり現れた男の子に友達になってくれと言われても・・・
「もしかして、新手のナンパ?」
ナンパなんて初めてでどう対応したらいいのか分からない
「なんぱ?なんぱってなに?」