蛍と私
「いい加減に起きなさい!!」
お母さんの怒鳴り声で目を覚ました。
いつの間に寝ちゃったんだろう・・・
ぼんやりとする頭で記憶を掘り起こそうとするけれど、うまくいかない。
太陽は高く登り、遠くで蝉の鳴き声が響いている。
「清っ!!さっさとご飯を食べてちょうだい!!片付かないでしょ!!」
お母さんのイライラした声に私は慌てて食卓についた。
そして、素早く朝食を終えると着替えを済ませ、お母さんに何かをいいつけられる前に家を出た。
行くあてはない。
ただブラブラと歩き回る。
昔からよくお祖父ちゃんとおばあちゃんと手を繋いで散歩した道。
夕日が沈む時間にこの道をまっすぐ歩いたっけ
昔を思い出しながら私は田舎道をあてもなく歩き回った。
林の中に入り、獣道を少し歩くとさらに小さな道につながる。
幼い私はこの道が怖かった。
鬱蒼としげる木々の中から何か怖いものが出てくるのではないか・・・そんなこと考えてたんだっけ。
ビクビクと辺りを見回す小さな私の手をおじいちゃんとおばあちゃんは安心させるように握ってくれた。
日も沈み、怖くて怖くて泣き出しそうになる頃、やっと開けた場所に出る。
そこには清らかな小川がながれ、無数の光が舞う光景が広がっていた。
幼い私は先ほどまでの恐怖を忘れ、沢山の蛍が舞う幻想的な光景に目を奪われていた。
幼い頃の思い出を辿りながら歩くとあの頃の記憶が鮮明に蘇る。
もう一度見たいなぁ・・・
30分ほど道なき道を進み、目的地にたどり着いた。
「相変わらず綺麗な場所だなぁ」
目の前に広がるのは太陽の光を反射して輝く清らかな川
昔から変わらぬ姿でそこにある。
そのことがたまらなく嬉しかった。
透き通った水には、魚が活き活きと泳ぐ姿がみえる。
川を守るように辺りを囲む木々も青々と美しく輝き、生命の力強さを感じさせてくれる。
「綺麗・・・。みんな、変わらないね・・・。」
私はごろんと横になり、川のせせらぎに耳を傾けた。
心が浄化されて行くよう・・・。
嫌なことが全て消えて行く・・・。
うとうととし始めた頃、かさっという音が聞こえ、慌てて起き上がった。