蛍と私
これはまだ、幼さが残る私と・・・異形の彼との小さな恋の物語
はじまりは緑のころ
暑さが増し始めた初夏のこと・・・
「あづ~!!ひま~!!」
毎年、夏休みに入ると母方の祖父母の家にくることが我が家の習慣となっている。
祖父母の家は北山村という場所にあり、都心から2時間くらいの小さな小さな村だ。
高校一年生の夏も例年のように緑いっぱいの刺激のない田舎で過ごすこととなった。
「清、シャキッとしてよ!!もう高校生なのよ!!いつまでも寝転がっていないで手伝いでもしなさい!!」
縁側でゴロゴロしながらぼやいていると、頭上から母の怒鳴り声が聞こえてきた。
「だって、暑いんだもん!!暑すぎて動けない~!!」
この家にはクーラーどころか扇風機すらない。
人間が住むところじゃないよ・・・。
チリーンと風鈴の音が涼しげになるが、こんなもんで暑さをごまかせはしない。
「ここは盆地だからな。夏は暑く、冬は寒い。清、お前さんには合わない土地か?」
ゴロゴロとだらける私の隣にお祖父ちゃんは腰をかけ、そう尋ねた。
「うっ・・・。」
合わない!!なんて言えない。
お祖父ちゃんはこの土地を心から愛しているから。
「この土地は山の神様によって守られている。青々と生い茂る木々も、肥えた土も、清らかな川も・・・。全て山の神様の恩恵だ。」
お祖父ちゃんはそう言ってにっこり笑った。
「き、嫌いじゃないよ。私もここは嫌いじゃない。空気は美味しいし、食べ物も美味しいし、水も美味しいし!!」
「あんたは美味しいばっかりね・・・」
お母さんは呆れたようにため息をついて、おばあちゃんがいる台所へと戻って行った。
「清、お前さんの名前はこの土地の川のように清らかであって欲しいと願ってつけられたものだ。だから、お前さんはきっとこの土地と強い結びつきを持っている。いずれ、それを感じる日がくるだろうよ。」
この時の私はお祖父ちゃんの言っていることがよく理解できなかった。
ただ・・・この土地と強い結びつきを持っているという言葉が頭から離れなかった。
その夜、私は清らかな川に足を浸し、青く澄んだ空を見上げる夢をみた。
夏の夜に愛犬の散歩がてら公園をに行き、蛍を眺めながら書いた作品です。