プロローグ
その昔、まだ世界に人間がいたころ。
“それ”は姿を現し、それから間もなく、人間は世界から姿を消した。
その後時の流れた世界には、人間を除いたすべての生き物たちと、“それ”――
――花や宝石から現れた、かつての人間と同じ姿をしたものたちが生きていた。
花や宝石が己の意思で動けなかった頃、愛でるという名目で自分たちを好きに傷つけた人間たち。
その人間と同じ姿を手に入れたとき、皮肉にも報復するべき人間は消えてしまっていたが、彼らは新たなる敵の出現を恐れた。
全ての動物の中で最も弱いと言われた人間、それと同じ姿を持った“それ”もまた、生き物として到底強いとは言えない。
弱い生き物たちは、自分たちを守るために身を寄せ合い、ともに手を取り合って生きる道を選んだ。
やがて、一つの施設が造られる。
決して数の多くない“それ”のおよそほとんどがそこへ集まった。
身を守るために集まったはずの“それ”らは長い平和を経て、戦うためではなく寂しさや孤独を埋めるために共に時間を過ごすようになる。
そこはいつしか、かつての天敵、人間の言葉になぞらえて「学園」と呼ばれることになった。
もし未だ人間が存在していたら。
翅こそないものの、花や宝石から生まれ落ちたような見目麗しい“それ”を、妖精と呼んだかもしれない。
――あるいは、