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予想外の訪問者

「ホホ。虫魔法は天下最強……ヘルお嬢様に初めて会った時は本当に驚きました」


窓際の椅子に腰掛けた老爺が、楽しげに笑った。

私の魔法指導担当のデナ・ローセフだ。


うわっ、四年前の話をまだ言う?


むくれる私の右手を老爺が両手で包み込んだ。


「まさか、お嬢様の手の甲に刻まれたクモの印が虫魔法の修得紋だとは思いませんでした。紋章持ちが自分の得意魔法に誇りを持つ、当たり前のことですよねぇ」

ウンウンと何度も頷く老爺。


「同じ紋章持ちとしてその気持ちはよく分かりますよ」

「いや、別に虫魔法に誇りを持っているという訳では……」


口の中でモゴモゴと呟く。


自然界魔法の一つである虫魔法は、適合者が一人も確認されていない。

当然のように紋章持ちも確認されておらず、修得紋がクモ型であることも知られていない。


初めて会った時に老爺が私の修得紋を見ても驚かなかったのは、それが虫魔法の修得紋だと分からなかったからだ。


「史上初の虫魔法適合者にして紋章持ち。お嬢様は特別な存在だ」

「は、はぁ……」

老爺の言葉におずおずと相槌を打つ。


「あなたにはこの四年間、炎、水、風の三属性を中心に教えてきました。あなたはとても優秀な教え子だった」

「はい。ありがとうございます」


「お嬢様は今までに魔物を見たことがありますかな?」

老爺からの質問。


「……ん?いや、ないですけど」

正直に答えた。


「ホホ、そうですか。きっと初めて見たら腰を抜かしますよ?呪文を忘れて食べられないように注意して下さいね?」

冗談まじりに言ってくる老爺に、


……忘れたら最悪、人造魔法を使うよ。

大袈裟に肩をすくめる。


人造魔法を使う者は軽蔑の対象。

私が特訓していることは老爺にも言っていない。


「今日で私との魔法授業は最後です。旅立ちは3日後ですか?」

「はい。早朝に立つことになっています」


私の目の前でローブのポケットに手を突っ込んだ老爺が、丸い石のついたペンダントを取り出した。


「このペンダントは、私の弟子である証です。もし困ったことがあれば、同じものを着けている者に頼るといいでしょう」


ビー玉のような透き通った青い石。


「ありがとうございます。大事にします」

老爺の言葉に頷いた私は、自らのポケットにペンダントを突っ込んだ。


人造魔法を使う私は、首からはかけられない。


◇◆◇◆


『ヘル様、さっきから何をしているんですか?』

自室のベッドに横たわった私は、手元の地図と睨めっこしていた。


「明日から生きていく方法を考えているの。この贅沢な暮らしとも今日でお別れ、明日からは無一文だもの」

頭上を舞う藍色チョウの質問に答える。


レンドルシー家の次期当主選び。

8年間で一番成功を収めた者が家徳を継ぐ権利を得るというもので、スタートは明日だ。


……うーん。元手がないとキツイなぁ。

最初はやっぱり魔物退治から?魔物の部位を売ればそれなりのお金になると聞いたけど。


私が首を捻っていると、


ドンドン。

ドアをノックする音がした。


「はい、どうぞ」

ガチャリと音を立ててドアが開く。


「あのぉ……ヘル?少しいいかしら?」

聞こえてきたのは艶のある上品な声だった。

部屋に一人の淑女がゆっくりと入ってくる。

サラサラの茶髪を背中で一つにまとめた細身の女性。

私の二つ上の姉、次女のヘレン・レンドルシーだ。


おお、予想外の来客……。

素早くベッドから起き上がり、服装を整える。


「ヘレンお姉様、私に御用でしょうか?」

私がニコリとして尋ねると、


「ええ、そうよ。あなたに頼み事があるの」

ヘレンも満面の笑みで頷いた。


ヘレンと人生初の会話。

……なんか笑顔が怖いなぁ。


『ヘレン様はとても厳しい』『少しのミスも許してくれない』。

使用人達がぼやいていたのを思い出す。


「ヘレンお姉様が頼み事?私にですか?」

私が笑顔を崩さずに尋ねると、


「ええ、あなたにしか頼めないことなの……」

大きく頷いたヘレンが私の元にズンズンと近づいて来た。

ガシリと私の両肩に手を置いて言う。


「明日からの後継者選び……私と手を組みましょう?」

真っ直ぐに私の瞳を覗き込んでくるヘレン。


……え?手を組む?……私と?


てっきり『諦めて手を引け』と言われると思っていた私は、予想外の提案に黙り込んだ。


「ネイル姉様とジョンが既に手を組んでいるのよ。私達だけ一人一人で戦っていたら部が悪いでしょう?」

その間もペラペラと喋り続けたヘレン。


「取り敢えず、これに詳しいことが書いてあるから。明日からよろしくね」

私の右手に二つ折りの用紙をねじ込むと、足早に部屋を出て行った。


バタン。

ドアの閉まる音を聞き、ハッと我に帰る。


「私まだ協力するとは言ってないんだけど……」

私の口から漏れた小さな言葉。


『ヘル様、ドンマイ!』

頭上を舞う藍色チョウが元気よく答えた。


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