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決戦の火蓋

森の真ん中。

一人の少女が魔法の訓練をしていた。指先に明かりを灯しては消す。灯しては消すを繰り返す。


呪文を唱えたのは最初の一度だけ。

その後は一切口を開かない。


黙々と作業を続ける少女。


神創魔法の魔力の流れを捻じ曲げて、新たな魔法を生み出そうとしているのだ。


人造魔法。

神への冒涜として忌み嫌われる力で、使用する者はかなり少ない。

そもそも、人造魔法では神創魔法を超えられない。これが一般的な見解だ。


神創魔法の調節は精密にして完璧で、僅かに魔力の流れを弄るだけでも、その威力がガタ落ちしてしまう。


絶妙なバランスの上に成り立った芸術品。既に完成したものなのだ。


人造魔法では神創魔法を超えられない。これは紛れもない事実だ。


もし、この世に価値のある人造魔法が存在するとしたら、それはきっとこの世界の常識に捕らわれない全く新しいものだろう。


森の中を照らす魔法の光。

その色が少しずつ変化していた。


波長の長い光が弱まり、短い光が強まっている。

最初は真っ白だった光が、気づけば鮮やかな紫色だ。


更に魔法の改良を続ける少女。

フッと手元の光が突然見えなくなった。


「……私に全ての理を見せよ、アイナ!」

森に少女の声が響く。


真っ赤に輝いた少女の瞳。

その目には、見えないはずの光が確かに映っていた。


◇◆◇◆


ジジッ、ジジジジッ。

私の指先から青白い稲妻が迸った。


目の前の大木が一瞬で燃え上がり、あっという間に黒焦げになる。


ヘル・レンドルシー、10歳。

四年をかけて私が完成させられた人造魔法は僅かに三つだけだった。

その一つがこの電撃魔法。


私の最高傑作だ。

元々この世界には電気を生み出す魔法が一つも存在せず、魔力から電気を生み出すという感覚がまるで分からなかった。


熱や光から間接的に生み出すのではなく、魔力から直接生み出す方法。


答えは以外な所にあり、私をとても驚かせた。


アミル。

虫魔法三大秘術の一つで、指定した虫を呼び出すことができるというもの。


この場合の『呼び出す』というのはどこからか連れてくるという意味ではなく、自らの魔力を消費して無から生み出すということだ。


熱。水。命。

生命体は多くの要素を含んでいる。


その中には当然、電気もあった。


『魔法を使う上で一番大切なのは、魔力の流れを感じることです』

始めて魔法を教わった際に藍色チョウが言っていた言葉だ。


アミルを使用する際の魔力の流れを探り、電気を生み出す部分だけを抽出する。


小さな電流を流すだけのところから、時間をかけて攻撃魔法まで昇華させた。


超高速で目標を奇襲する、私だけの魔法。

それが電撃魔法だ。


「うん。威力も申し分なしね」

焼け焦げた大木を見て何度も頷く。


その場で踵を返した私は、屋敷への道を引き返した。


「あっ、ヘルお嬢様!捜しましたよ?一体どこに行ってたんですかぁ?」

私が自室に戻ると、慌てた様子のメイドが駆け寄ってきた。


「先程、ケインズ様からの使いがありました!大切な話があるから、すぐに書斎を訪れるようにとのことです!」

メイドの話を聞いた私は、ゆっくりと鏡の前に腰掛けた。


……お父様が私に大切な話?一体なんだろう?


ヘアブラシを使って髪を溶かす。

父・ケインズは完璧主義者で、少しの乱れも許してくれない。


まだあどけなさの残る端正な顔立ち。

鏡の中の少女を見据えた。


四年前と同じ、ショートボブにゴスロリ。

何年経っても私にこの良さは分かりそうにない。


「はぁ。あまり気が進まないけど、お父様に会いに行きますか」


大きな溜息を吐き、椅子から立ち上がった私は、自室を出て父の書斎へと向かった。


背の高い黒塗りの扉。

ドンドンと短くノックする。


「入れ」

中から野太い声が聞こえてきた。

扉を開け、書斎に足を踏み入れる。


真っ赤な絨毯に、壁を覆う複数の本棚。

部屋の中には既に四人の人間がいた。


豪華なデスクに腰掛けた髭面の紳士。

その前に三人の子供達が横並びで直立している。


……おお、レンドルシー姉弟勢揃い⁉


「ヘル。ジョンの隣に並べ」

髭面の紳士に命じられるまま、列の一番左端についた。


デスクの向こう川から私達一人一人の顔をゆっくりと見回す男。

レンドルシー家の当主、ケインズ・レンドルシーだ。


子供達は右端から、長女のネイル、二女のヘレン、長男のジョンと並んでおり、皆緊張した面持ちをしている。


私は常に屋敷の片隅に追いやられている為、今まで他の姉弟達と顔を合わせる機会が殆どなかった。

廊下ですれ違っても目すら合わせない。


あまり、姉弟って感じはしないよね……。


「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。私の後継者選びの為だ」

ゆっくりと椅子から立ち上がった父が、静かに口を開いた。


訪れる束の間の沈黙。

……ん?後継者選び?


「いいか?我々は貴族ではない。故に、生まれた順番で後継者を選ぶなどという愚かな真似はしない!」

きっぱりとした口調で父が言い切る。


一応、平民が貴族を侮辱することは重罪なんだけど。


「来年には一番年下のジョンとヘルも11歳になる。私が家出をし、商売を始めたのも丁度11歳の時だった」


11歳。日本でいえば小学五年生だ。

とても商売ができるとは思えない。


「私は商売の天才だった。故に僅か五年で、富と地位を築くことができた。私は特別だったし、今のお前達にそこまでは期待しない」


ふむ。どうやらお父様は常識には当てはまらないようだ。


「しかし、お前達には幼い頃から英才教育を施してきた。これは私にはなかったものだ。政治や経済、そして魔法。既にそこら辺の大人達よりも、遥かに優れた力を持っている筈だ」

大きな声で断言する父。


ふーん。そんなものかねぇ?

世間知らずの私には、その真偽は判断しかねる。


「そこでお前達には一から富と地位を築いてもらおうと思う。与える猶予は8年だ」


誰一人声を上げない。

父の話を遮ることは、レンドルシー家ではタブーだからだ。


「スタートは来年の春から。皆、同時に家を出て貰う。8年後、この家に帰ってきた時に最も成功を収めていた者がレンドルシー家の次期当主だ」


うーん。

父の言葉に頭を悩ませる。


ちょっと、急展開過ぎてついていけない。


「この件について話すことは以上だ。残り一年間、各自有意義に過ごすように」


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