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偏った知識

「いいですか?魔法には大まかに分けて二種類あります。神創魔法と人造魔法です」


私の魔法指導担当、デナ・ローセフが暖炉の前をうろついていた。


……神創魔法に人造魔法?聞いたことがない言葉だ。


「神創魔法は、神々が創ったと言われる強力な魔法です。呪文を唱え、それに応じた奇跡を起こします。

それに対して、人造魔法は我々人間が創り出したもの。神創魔法の魔力の流れを体内で捻じ曲げ、本来とは違った結果をもたらす。こちらには呪文の詠唱は必要ありませんが、とにかく難易度が高い。そして何よりも問題なのが……使った瞬間に他の魔導師に軽蔑されます」


他の魔導師に軽蔑される?

「一体何故ですか?」

私が尋ねると、老爺が穏やかに笑った。


「それを考ておくことを次回までの宿題としましょう。今日の授業はここまでです」


老爺が立ち去り、薄暗い部屋の中に取り残される。

瞼を閉じた私は、深々とため息をついた。

ヒラリヒラリと頭上を舞う藍色チョウと言葉を交わす。


「もしかして、神創魔法と人造魔法があるって知ってた?」

『勿論、知ってましたー!』


「それを私に教えなかった理由は?」

『その必要がなかったからです』


「そうよねー」

『エヘヘ、勿論ですー』


「だって?」

『虫魔法は天下最強なのですからー!』


「……」


……くそぉ。

天井を仰ぎ、自らの頭を抱えた。


よく考えるとこの三年間、虫魔法の勉強しかしてなかった。

魔法を学ぶ上での常識なんてまるで知らない。


分からないことがあればすぐに教えてくれる藍色チョウ。

しかし、与えられた知識は偏ったものだ。


だいたい、虫魔法が天下最強って……何であんなこと言っちゃったんだろう。


後悔と共に強く握る拳。


「私、独学で勉強する!」


◇◆◇◆

魔法とは奇跡を起こす力だ。

己の体内に宿った魔力を消費し、発動することができる。


体内に宿すことができる魔力量には、生まれつき個人差があり、それが魔法使いとしての才能だ。


魔力量はどんな人でも歳を取るごとに増加し、その増加率は魔法の試行回数に依存するらしい。


魔法を使って消費した魔力は、時間を置けば勝手に回復し、この回復量にも個人差がある。これもまた才能。


魔法使いとしての才能は全部で三つあり、魔力量と魔力回復量はその内の二つだ。


残り一つは魔力特性と合致する魔法との適合率。

魔法使いは必ず一人一つ得意な魔法属性を有するが、『得意』の度合いにも個人差があるということだ。

得意魔法との適合率が高ければ高いほど、その属性の魔法を使用する際の魔力消費量が少なくなる。



レンドルシー家の三女、ヘル・レンドルシー。

私の魔力量と回復量は、同年代間で比べた場合、上の下といったところだろう。


魔法使いとしての才能は申し分ない。

それどころか、かなり優秀な部類だ。


これらは本を通して得た知識で、私はその結果に大変満足していた。


調べる前から何となく分かってはいたが、私の虫魔法への適合率は異常に高い。

私が既に獲得した修得紋は、藍色チョウが言っていた通りのとても珍しいものだった。


天才と呼ばれる魔法使いが厳しい鍛錬を繰り返した末に、晩年に手に入れられれば幸運というもの。


炎の紋章持ちは森を焼き、水の紋章持ちは海を作る。風の紋章持ちは嵐を呼び、光の紋章持ちは命を弄ぶ。


手の甲に刻まれた紋章は、それを有しているだけで尊敬と恐怖の対象となる。

六歳にしてこれを有している私は、規格外と言って差し支えないだろう。


若くして一つの魔法を極めた天才。

そんな私にはとても大きな悩みがあった。


「虫魔法って……弱くない?」

ベッドの上に寝転がり、ペラペラと本をめくる。

そこには私の得意魔法、虫魔法について書かれていた。


・虫魔法

自然界魔法の一つ。主に虫達が使用するもので、人間の適合者は確認されていない。

起こせる奇跡はとても小さく、おまじない程度のものが殆どだ。

どれだけ極めても大した力は得られず、全ての魔法で最弱の部類と言える。


……んー。


「……ナニコレ?今まで聞かされてきた話と全然違うんだけど」

首を傾げた私は、パタリと本を閉じた。


そのままクローゼットへと近づき、真っ黒なコートを纏う。


『あれ?ヘル様?外出ですか?』

私の後を追いかけてくる藍色チョウ。


「うん。魔法について幾つか試してみたいことがあるの。実験よ」



◇◆◇◆


王族、貴族、平民。

この国は身分社会だ。


レンドルシー家は貴族ではない。

地方に屋敷を構えた金持ちの平民だ。


しかし、其の財力は王族も一目置くほどのもので、貴族達からは疎まれている。


平民が自分達より金を持っているということが、貴族達にとっては許せないことなのだ。



『あ、ヘル様だー』

『こんにちはー』

『今日は何をしにいらしたんですかぁ?』


私が屋敷裏の森に足を踏み入れると、周囲の虫達が話しかけてきた。


アリに、ムカデに、クワガタ虫。

……うわっ、虫が話すと気持ち悪さ倍増だ。


「魔法の実験をするから、少し向こうへ行ってて」

私の言葉を受けた虫達が多方へと散っていく。


よし、準備完了!

人払いならぬ、虫払いを終えた私は、手に持っていた本を開いた。


「指先に灯りを、フル」

そこに記された呪文を口に出す。

人差し指の先に灯る豆粒大の火玉。


私がフッと息を吹きかけると、一筋の煙を残して消えた。


虫魔法最大の弱点、炎。

虫は熱と衝撃にとにかく弱い。


それは虫の特徴を自らに反映させて戦う私にも同じことが言えるだろう。


私はレンドルシー家の娘だが、曰く付きの三女だ。

家徳を継げないのは勿論のこと、将来嫁に出されるということもないだろう。


私にとっての二度目の人生。

一生この屋敷に閉じ込められて暮らすわけにはいかない。


いずれは家を出て自力で生きていく。

これは決定事項だ。


「指先に明かりを、ラル」

私が呪文を唱えると、指先に明かりが灯った。

先程の様な火玉じゃない。純粋な眩い光。


将来の為に今必要なこと。

それは、己を研ぎ澄ますことだ。


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