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魔法授業

「……私に全ての理を見せよ、アイナ!」

ビリビリと体が震えた。

私の瞳の中心が真っ赤に輝く。


擬似複眼。

360度の視界を確保し、驚異的な動体視力を得ることができる。


「……無垢なる魂よ己の内に宿れ、レイバン!モード『クマムシ』」

再びビリビリと体が震えた。

体全体が一瞬、淡い光に包まれる。


これは指定した虫の特性を己の身に反映させる魔法だ。

今回私が指定したのは『クマムシ』。

今の私はクマムシ同様に、絶対零度にも耐えられるし、真空状態でも生きられる。


「……この手のひらから命の温みを、アミル!モード『キラービー』」

三度ビリビリと体が震えた。

宙空に真っ黒な球体が現れる。


一万を超える蜂の集団。

ブンブンと飛び回り、私の指示を待っている。

アミル。これは指定した虫を呼び出す魔法で、今回は猛毒を持つ蜂、キラービーの大群を召喚した。



……解除。

私が胸の中で念じると、全ての魔法が消え、部屋の中に静けさが戻った。


「アイナ、レイバン、アミル。これが、虫魔法の三大秘術ね?」

『そうです。どの魔法属性にも三つの秘術が存在し……』


「その全てを修得すると、手の甲に修得紋が現れ、神託が下る。でしょ?」

『そうです』

コクリコクリと藍色チョウが頷く。


……この話、何回するの?

自らの右手を見て、深い溜息を吐く。


クモの形の修得紋。

聞けば、水魔法や炎魔法の修得紋は丸やバツのような簡単なものらしい。


この紋章が手に刻まれた当初はそのおぞましさから、三日三晩吐き続けたものです。


ふと一人、遠い目をする。


私に神託が下ったのは、一年前の春。

気がつくと頭の中に見たことも聞いたこともない虫たちの情報が溢れかえっていた。


あれはこの世の生き地獄。例に漏れず、三日三晩吐き続けました。

……まあ、修得紋が刻まれたのと神託が下ったのは、全く同じタイミングだったのですが。


パタパタと羽をはばたかせる藍色チョウを見て、ハッと我に帰る。

六年前と変わらぬ姿。


……このチョウ、寿命ないのかな?


『神託を授かりし者は、秘術を極術へと昇華させ……』

「神をも恐れぬ力を得るでしょ?……はいはい」

藍色のチョウの言葉に何度も頷く。

この話も何度も聞いた。


『な、なんですかぁ?その反応は?』

ゆっくりと詰め寄ってくる藍色チョウ。


「……いやいやいや。こんな地味な魔法三つで神を恐れぬ人がいたら、それはただその人が馬鹿なだけだから」

自室の中央で肩をすくめた私は、距離を取るように一歩後ろに下がった。


『地味って……なぁにを言ってるんですか!虫魔法、めちゃくちゃカッコいいじゃないですか!威力も申し分ないですし、きっと天下最強ですよ!』


興奮気味にまくし立て、更に近づいてくる藍色チョウ。

……ああ、もう。キンキンうるさい。


私が耳を塞いでいると、ドンドンとドアを叩く音が聞こえてきた。


「ヘルお嬢様、魔法指導の先生をお連れしました」

続いて部屋の外からメイドの声が聞こえてくる。

ガチャリと開かれたドア。


部屋の中に二つの人影が入ってきた。


一人は私専属のメイド。

もう一人は、初めて見る顔だ。


青いローブを身に纏った優しげな雰囲気のお爺さん。


「ほほ、あなたがヘルお嬢様ですか?お会いできるのを楽しみにしておりました」

静かに右手を伸ばしてきた老爺。


「ヘル・レンドルシーです。ご指導よろしくお願いします」

その手に自分の右手を重ねた。


目に飛び込んで来る丸型の紋章。

……ん?この人も神を恐れぬ人?


「ヘルお嬢様はとても賢いお方だと、ケインズ様から伺いました」


ケインズ・レンドルシー。

一代にして巨万の富を築いた大富豪にして私の父。


「お父様が本当にそんなことを?」

「ええ。何をやらせても人並み以上にこなし、とても要領がいいと」


ふーん。

老爺の言葉にゆっくりと頷く。


おかしいなぁ。自分の知っている父は、

『金は力だ!』

『使われる側にはなるな!』

以外の言葉は話せない筈だが。


燃え盛る暖炉の前に移動した私は、ソファに座って老爺と向かい合った。


「ヘルお嬢様は六歳でしたね。魔法について何か知っていることはありますか?」

静かな声で投げかけられた質問。


魔法について知っていること?

自らの右手を見つめて、思考を巡らす。


手の甲に刻まれたクモ型の修得紋。

藍色チョウの話では、これを見た人は皆、腰を抜かす筈だった。


しかし、目の前の老爺は全くの無反応。

……これは一体、どういうこと?


私が黙り込んでいると、

「どんな些細なことでもいいですよ?あくまで現状の知識確認なので」

老爺が優しく瞳を覗き込んできた。


ふむ。よく考えると私の魔法に関する知識は、全て藍色チョウから教わったものだ。

他には何一つ知らないし、老爺に話せることもない。


「ええっと、そうですねぇ……例えば……虫魔法は天下最強とか?」


「……」

「……」


「……成る程。六歳児とは思えない、素晴らしいギャグセンスだ」


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