魔性の女
「私の手札はフルハウスです!フフ、どうですか?ヘルお嬢様?」
「ああ、それは残念。私の手札は……ストレートフラッシュでしたぁ」
「そんなぁぁぁ⁉︎」
部屋中に悲鳴が響いた。
頭を抱えたメイドが、床に倒れ込む。
まだ23歳の若い女性だ。
「それじゃあ約束通り、給料を半分没収しまーす」
机の上の給料袋に手を伸ばした私は、
そこから札束を抜き取った。
強く燃え盛る自室の暖炉前。
専属のメイドと賭け事に勤しむ。
トランプを使った一対一のポーカーゲーム。
私に勝てれば給料を倍額、負ければ半額にするというものだ。
トランプカード自体はこの世界に存在しなかったので私が特別に作らせた。
一見、平等に思えるこのゲームだが、実際は違う。
幸せのおまじない。リアルバージョン。
私は自らの運気を高める魔法を使えるからね。
ヘル・レンドルシー、六歳。
イカサマを使い、メイドから一方的に金を巻き上げていた。
今の私は金持ちの娘。
多少、心が歪むくらいは仕方がないと思うんです。
……だって、本物の魔力が存在するこの世界においてもお金の持つ魔力は半端ないんですもの。
「ほら。可哀想だから半分返してあげるっ」
私が持っていた札束の半分を手渡すと、
「ありがとうございますぅぅぅ!ヘルお嬢様ぁぁ!やっぱり大好きですぅぅぅ!」
大声を発したメイドが思い切り抱きついてきた。
フフフ、このメイドちょろすぎぃぃぁうぇがぁ……や、やめて!首が閉まる。
バタバタ。
遊戯の後、私はメイドによって寝巻きから絹の服に着替えさせられた。そのまま、鏡の前に座らせられる。
「今日は午後から、魔法指導の先生との初顔合わせです。しっかり髪を整えないと」
そう言って髪をとかし出すメイド。
鏡の中に映った幼い少女が、真っ直ぐに私を見つめていた。
サラサラの銀髪に澄んだ空色の瞳。
クリッとしたまん丸の目がとても可愛らしい。
レンドルシー家の人々は皆、糸目だ。
私がこのぱっちりお目目を手に入れられたのはきっと昆虫神様のお陰に違いない。
ありがとうございます!昆虫神様!あなたの慈悲に感謝を!……と本気で思っていた時期が私にもありました。
実際は違い、私は父の愛人の子供だった。
金持ちの浮気相手は美人だと相場が決まっている。
この目はきっと母のものだろう。
私がこの家であまりよく扱われないのは、存在自体がレンドルシー家の汚点だからだ。
……まあ、これだけいい暮らしをさせてもらっては、文句も言えないが。
鏡を見てニコリと笑う。
私は服装も髪型も完全にメイド任せ。
ゴスロリにショートボブという自らの趣味とはかけ離れた格好をさせられていた。
「はい、セットできましたぁ!お嬢様は今日も可愛いですねぇぇぇ!将来は私と結婚しましょうぅぅ!」
再び抱きついてきたメイドが、私の髪の毛をクシャクシャにする。
ちょっ、今まさに髪をセットしたばかりでしょう!このメイドどんだけ使えないの!
心の中で激しく悪態をついた。
私は同性すら魅力する魔性の女。
多少、心が歪むくらいは仕方がないと思うんです。