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魔物討伐??

リンドール家。

辺境の街、ケムルスに屋敷を構える四貴族の一つ。

当主のヘイガス・リンドールは気性が激しいことで有名で、その住居は北の山の麓にある。


『これが貴族の屋敷ですかぁ。大きいですねー』

頭上を舞う藍色チョウが呆けたような声を出した。


今現在、私の眼前には巨大な鉄柵が張られており、その向こう側には城と呼んでも差し支えないほどに立派な建物が鎮座している。


⁃ 今日の正午までにリンドール家の裏門に集合。

⁃ 報酬は各々が退治した魔物の数に応じて支払われ、オーラを纏える剣士、中級以上の魔法使いには追加で銀貨二枚が配られる。


人員募集の広告にはこのように記されていた。


神創魔法は使用難度によって七段階に分けられ、この区分けが魔法使いとしての優秀さを判断する尺度としても用いられる。


生活魔法、初級魔法、中級魔法、上級魔法、超級魔法、そして秘術に極術だ。


私は文句なしの中級以上。

虫魔法を極術まで扱えるだけでなく、火、水、風の主要三属性も中級まで扱うことができるのだ。


つまり、現時点で私は大金を手にすることが約束されている。


フフフ。上手くサボって、楽して大金ゲットよ!


口元を隠し、静かに笑う。


リンドール家の裏門には既に50を超える男女が集まっており、その殆どが屈強な肉体に革鎧を纏っていた。


……私以外に魔法使いはいないのかな?みんな剣士みたいだけど。


集団から少し離れた場所に位置取り、全体の様子を静かに見回す。


私がその場にしばらく立っていると、

突然、足元から元気な声が聞こえてきた。


『ヘル様っ!こんちわっす!』


声の主を探して土の地面に視線を走らせる。

すると、すぐ近くに30対ほどの足を持ったムカデがいた。

上体を起こし私の方を真っ直ぐに見つめている。


よし、これは……見なかったことにしよう。


すーっと、ムカデから視線を逸らし、再び鉄の門を見つめる。


『今日は雲一つない快晴で、とってもいい天気ですねぇ』

「……」


私がそのままの姿勢でしばらく待っていると、やがて、裏門がゆっくりと開き、中から二人の男性が現れた。


黒のタキシードを身に纏った初老の男と、黄金の鎧を身に纏った筋肉質の男。


どうやら彼らはリンドール家に仕える者らしく、筋肉男の方が魔物退治についての説明を始めた。


「皆の者!よくぞ集まってくれた!そして、これからの話をよーく聞いてくれ!」


この世界の階級制度では基本的に、一般の平民より、貴族に仕える平民の方が立場が上だ。

我唯我独尊といった態度で筋肉男が話を続ける。


「ここ最近、この屋敷の周辺で魔物による被害が多発している!奴らはどうやら裏山から降りてきているらしく、屋敷周辺の魔物をどれだけ退治しても一向に被害がなくならない!そこで今回、貴様らには直接山に入り、その全てを駆逐してもらう!」


一人一人の表情をゆっくりと眺め、言い聞かせるようにして話す筋肉男。

しかし、私の耳はその内容の殆どを聞き漏らしていた。


『いやぁ、今日は本当にいい天気ですねぇ!雲一つない快晴ですよ!』

足元のムカデは永遠と喋り続け、休むことを知らない。


「今回の駆逐作戦において、貴様らには四人グループを作って……」

『今年の春は暖かいですねぇ!畑も田圃も豊作の予感です!』


「それぞれのグループに番号を付け、山全域をカバーできるように……」

『美味しいご飯を食べては寝る。いやはや、最高ですなぁ!』


「それでは、これよりグループ作りを始め……」

『ご飯っ。ご飯。美味しいご飯〜♪ポカポカ日向でお昼寝だ〜♪ルンルンル〜ン♪』


ブチリ。

私の中で何かが切れる音がした。


「さっきから、ごちゃごちゃ煩い!少し黙ってなさい!!!」

思わず口から飛び出した言葉。


叫んだ後にハッとする。

気づくと辺りが沈黙に包まれていた。


「おい、そこのお前……誰が煩いって?」

筋肉男がギロリと睨みつけてくる。


「いやぁ、それはそのぉ……このムカデが……」

私が足元をそーっと指差すと、筋肉男がニヤリと笑った。


「そうか。そのムカデが煩かったのか」

「……ええ、まぁ。そうですね。アハハッ」

男に合わせて引きつった笑みを浮かべる。


次の瞬間、笑顔のままの男が腰の鞘から素早く短剣を引き抜くと、物凄い勢いで投擲した。


私の耳元スレスレを短剣が通り過ぎて行く。


うひゃー!

一瞬で青ざめた私に、男が冷たく言い放った。


「そんな説明で納得するわけねーだろ!今度舐めた真似をしたら首を飛ばすぞ!」

「ず、ずびません……」


震えた声で謝罪を口にする。


「よーし。それでは、皆四人ずつでグループを作れ!」

筋肉男が気を取り直したように言った。

その後のグループ作りで私が最後まで残ったのは言うまでもない。


『ヘル様、ドンマイ!』

足元のムカデが励ますように元気に笑った。


◇◆◇◆


「ワシの名はザック・アルバーンという。お嬢ちゃんの名前は?」


緩やかな傾斜が続く山道。

前を歩くお爺さんが、背後を振り返って尋ねてきた。


「私の名前は……ヘル・メイルズです」

偽名を使って、笑顔で答える。


辺りいるのは私とお爺さんの二人だけだ。

リンドール家による魔物退治に参加したのは、ぴったり50人。


四人ごとにグループを作っていったら、私とお爺さんだけが余った。


それ故の二人組なのだが、私は内心に不満しかなかった。


「……もう少しなんとかできなかったのかしら?五人グループを二つ作るとか、他にもやりようは幾らでもあったと思うけど」

小声でブツブツと文句を言いながら木々の合間を進む。


周囲には中背の木々が乱立しており、いつ近くの繁みから魔物が飛び出してきてもおかしくない状況だ。


しかし、前を歩く老爺からは緊張感のカケラも感じられなかった。


「さぁ、ムカデさん。私にも話しかけてごらん?ほーら、怖くないよぉ〜」

手のひらに載せたムカデにひたすら話しかけている。


ちょっとぉ……魔物と出会う前にムカデに噛まれたりしないでよ?


自らの手元に夢中な老爺を横目に、周囲に視線を走らせる。

森の中は明るく、穏やかな雰囲気が漂っていた。

頭上では鳥達が煩く鳴いている。


……本当に魔物なんているのかしら?


私がそう思った直後だった。


ガサリ。

手前の茂みが僅かに動いた。


「アルバーンさん」

「ああ、分かっておる」


前を歩く老爺が腰の鞘からナイフを抜き放つ。

私も息を殺し、茂みを凝視した。


少しずつ揺れが大きくなっていく草々。

やがて、その陰から一匹の獣がゆっくりと現れる。


まず私の目に飛び込んできたのは、鋭い牙が並ぶ大きな口だ。

それから艶のある真っ黒な毛並みに、尖った耳。

狼のような容姿のその四足獣は、本来白眼である筈の部分が、血で染められたように真っ赤に光っていた。


これは……多分、魔物よねぇ。


「うむ。これはワシの手に負えるような相手じゃないのぉ」

魔物を前にした老爺が、のんびりと呟く。


「嬢ちゃん、任せたぞい」

「……はぁ」

老爺の言葉に静かに頷いた私は、右手を胸の前に掲げ、呪文を唱えた。


「小さき者よ真の力を示せ、エイセント!」

老爺の手の中のムカデが青白い輝きに包まれる。


「おお⁉︎ 」

突然のことに驚き、ムカデを取り落とした老爺。

その眼前で爆発的な変化が起こった。


『グギァァァ!!』

奇声を発すると共に、ムカデのシルエットが何倍にも膨れ上がる。

周囲の木々がムカデの体に押し潰され、音を立てて倒れた。


舞い上がる砂煙に、魔法で生まれた新たな怪物。

数瞬後、私達の眼前には体長五メートルを超す巨大なムカデが横たわっていた。


「喰い殺しなさい!」

『グギヤァァァ!』


私の声に呼応し、巨大ムカデが動き出す。


エイセント。

自然界に存在する虫達のサイズ、質量、それぞれの特性を何倍にも強めることができる虫属性超級魔法。


「ヌハハッ、とんでもない魔法を使うのぉ」

巻き込まれないよう、私の隣まで避難してきた老爺が、楽しげにカタカタと笑った。


「そうですか?」

静かに首を傾げ、目の前の捕食風景からゆっくりと目を逸らす。


毒顎で漆黒の狼の頭に喰らいついた巨大ムカデ。

ぐったりとした状態の相手をあっという間に丸呑みにしていた。


魔法の効果でその毒性も高まり、かなり凶悪な怪物へと変貌を遂げている。


うーん、視覚情報がヤバい。

よく考えると巨大化した虫に獣が食べられるシーンってグロテスクの極みよね。


気持ち悪くて普通に吐きそうなんだけど……。


「この魔法を使うのはこれで最後にしよ」

頭の上に右手を掲げ、パチリと指を鳴らす。

再び青白い輝きに包まれたムカデがあっという間に縮小し、元のサイズに戻った。


『ぐがぁぁぁ!……ってあれ?元に戻ってる 』

素っ頓狂な声を上げるムカデ元に、


「ほーら、ムカデさん。こっちにおいで〜」

老爺が再び拾い上げようと駆け寄っていく。

その後ろ姿を見てふと思った。


「アルバーンさんって魔物退治の経験あります?」

私からの質問に、振り返った老爺が笑顔で答える。


「ん?ワシか?一度もないぞ。それどころか、剣も魔法も全く使えん」


んー。

老爺からの返答を聞き、しばらく固まる。


「じゃあ、なんで今回の討伐作戦に参加したんです?」

「フフフ。ワシは強いおなごが大好きじゃからのぉ」


んー。

再び固まる。


「つまり……出会い目的?」

「ホホホ、そうじゃ。今回の作戦で美人剣士さんをゲットするのじゃ!」


清々しい声で、ハツラツと答える老爺。

その姿を見て静かに毒づいた。


「ケッ。エロじじいか……」


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