ペトラの冒険 3 ペトラの実力
ペトラです。すっかりデリアさん達と仲良くなってしまい、時間のたつのを忘れて話し込んでしまいました。ここにいる方のお話はみな面白く、そしてデリアさんをいかに慕ってここに集まっているのかを話してくれました。
基本的にゴーストは決してこの世界の理から外れた存在ではありません。自分がゴーストになってはじめてわかったことですが、周りを見渡せば驚くほど多種多様な霊体を見かけることができます。
その大半は何の力も持たない、また生きている人には視認どころか気配さえ感知してもらえない微小な存在です。犬や猫とかの霊ですね。
しかしこのお屋敷には何か霊的な要素があり、集まった霊たちの力が増幅されている気がします。かくいうわたしも存在自体が強くなったような気がしますし、魔力が増幅されているようです。心霊学は学んだことがないのでよくわかんないけど。
さて、みなさんと楽しく過ごしているところにまた不埒な乱入者がやって来たみたい。
「みんな!またあたし達をここから追い出そうとする奴らがやって来たわ!ここはあたしの家なのに!」
そう言うとデリアさんはクマのフォルクマーさんを背にして右手を振り上げました。
そんなデリアさんに猫の霊体が近づいて何か報告しています。
「そうなのね。今回は9人も来たみたい!神官戦士7人に助祭まで二人もいるみたいよ!いつものように私とフォルクマーで正面玄関に出るからみんなは一緒に威圧をかけてね!」
今までの襲撃で彼らにはすでにフォーメーションが出来ているようで各々持ち場に散っていきました。
「ペトラさんも手伝ってくれるかしら?」
「もちろんよ!こう見えても元は魔術師だから役に立つよ!」
あたしたちが玄関ホールに駆け付けるとすぐに7人の神官戦士が扉を蹴破るような勢いで侵入してきました。後ろに控える助祭はすぐに祈りの態勢に入っているようです。
神官戦士は祈りなどせず、すぐに剣を抜くと一直線にフォルクマーさんめがけて突進してきました。
どうやら7人の神官戦士は最初からフォルクマーさんを狙っているようで、助祭たちは聖句を唱えながら神官戦士を強化しているような感じです。
それにしてもなんて乱暴な人たちなの!人んちの玄関をけ飛ばすなんて神官とは思えないわ。
フォルクマーさんと神官戦士の戦いは驚くべきものでした。なんといってもフォルクマーさんは包丁一本で戦っているのです。
その包丁で7人に及ぶ神官戦士の剣戟を巧みにかわし、その短い腕に盛った包丁で反撃をしています。
神官たちの使う剣は助祭たちの聖句でエンチャントされているようで、ほのかに白い光を放っています。通常であれば霊体に傷を与えることはできませんが、聖なる加護を得た剣でなら霊体を斬ることも出来るのです。
実際、フォルクマーさんには浅くはない傷が刻まれています。さすがに7人による攻撃はかわし切ることが出来ないみたい。
ところがそのクマのぬいぐるみはどれだけ傷付けられてもたちどころに回復していくのです。その回復スピードもトロールもかくやといった速さです。さらに包丁の一振りはたやすくチェインメイルを斬り割くんです。
「く、くそ!この化け物!」
とても神官とは思えないきたない言葉を発しながら戦う神官戦士はそれでもフォルクマーさんを押していました。このままではいずれフォルクマーさんもバラバラにされてしまいそうです!ここは私の出番かも!
私は威圧を全開にしてフォルクマーさんの前に出ました。
わたしが前に出ると神官戦士たちは何かひきつったような顔をして4人が私に斬り掛かってきます。しかしなぜでしょう?全く怖くありませんしそんななまくら剣が私に傷を付けられる気がしません。
神官たちの振るう剣は私の体を素通りします。予想通り全く痛くないです。なんだか楽しくなってきたかも。
私はつい声をあげて笑ってしまいました。
「あははははははははははははは!!!」
その瞬間、神戦士官たちは泡を吹いて倒れてしまいました。あれ何でかな?
助祭たちは何とか耐えたようで、私に向かって退魔の聖句を唱えました。わたしには何も感じませんでしたが、周りにいた動物霊たちは何匹か巻き添えを食って除霊されてしまいました!
なんてことを!あんな無害でかわいい子たちを強制除霊するなんてそれでも聖職者なのですか!
怒りがこみ上げてきます。
「クライオブバンシー!」
どうしてそんな魔術を知っているのかわかりませんが、とっさにそんな魔術を私は放っていました。これって結構高位魔術のような?
っていうかバンシーってその叫び声を聞いたら死んじゃうような恐ろしいアンデッドよね?神官さん死んじゃった?
二人の助祭は目と耳と鼻と口から血を吹き出してその場に崩れ落ちました。これはマジでやっちゃったかも?
とりあえず私の魔術で侵入してきた9人はその場に昏倒しました。調べてみると全員気を失っているだけでなんとか生きてはいるようです。ちょっとほっとしました。とはいえ、このまま放置しておくと少なくとも助祭の二人は間違いなく死んじゃう気がします。これ、命助かっても後遺症残るような気がするなあ。
でもあっちが悪いんだし、生かしてあげるだけわたしやさしいかも!
「すごいわ!ペトラさん強いのね!」
デリアさんが私に抱きついてきました。
「え、えへへ。でもどうしてあんな魔術使えたんだろ?」
「ペトラさんがすごいからに決まってるじゃない!これからもあたしを守ってくれる?」
そう言って上目使いにわたしを見るデリアさんはとてもかわいくつい抱きしめてしまいました。
「まかせてよ!あんな奴らいくら来てもわたしが追い返してあげる!」
なんだか私の居場所ってここなのかも!
その夜、リコリス魔法商会にて
「ゴーストの退治…ですか?しかしそれは失礼ながらそちらにいらっしゃる神官様方の領分では?」
アインフォードの疑問はもっともな事であり、ハインリヒは神官に目を向けながら詳しい話をしてよいか確認をとった。
神官は見習いのようであり教会内で大きな権限を持っているはずがないのだが、この神官はそのハインリヒの問いをうけ口を開いた。
「はい。それではここからは私から説明させていただきます。まずはこのような夜分に突然の訪問お詫びいたします。私は大天主教正教会ヘルツォーゲン支部所属、助祭のヴィリ・タイレと申します。」
助祭…?アインフォードは大天主教会に詳しくはなかったが、それでも助祭というものはそれなりに立場が上の神職ではないかと現代知識から推測した。
では見習い神官の衣装は身分を偽るためのものなのだろうか?ヴィリ・タイレと名乗った男性は年齢は40歳頃であろうかと思われるが、完全に剃髪し見事にツルツルとした頭部にうっすらと汗をにじませていた。この世界の神職に剃髪の習慣はなかったはずだが、決してそういった人がいないわけではない。
「タイレ助祭様ですね。ご丁寧な挨拶恐れ入ります。すでにご存知かもしれませんが、私はアインフォード、こちらの女性がキャロット、そして彼女がリコリス魔法商会店主リコリスです。」
アインフォードは二人を店の中に招き話を聞くこととした。リコリス魔法商会に応接間などといった部屋は存在しない。最近貴族の訪問も多くなってきたことでそういった部屋が必要なのかもしれないとなんとなくそう思ったりもした。
「それでは詳しい話をさせて戴きます。」
住居スペースのリビングにアインフォード達3人と1匹とハインリヒとタイレ助祭が席に着くとそう前置きしてタイレ助祭が話し始めた。
タイレ助祭の話をまとめると、今から10日前にとある無人の屋敷に住み着いたゴーストを除霊するために一人の神官が向かったらしい。ところが当初はすぐに終わると思われていた除霊は失敗し、その神官は右腕に重傷を負って帰ってきたというのだ。
これを受け、教会は戦闘経験のある神官を5名選抜しその屋敷に向かわせた。それが今から7日前の事である。
結果から言うとこの5名も命からがら逃げかえってくることになった。
前回、右腕に重傷を負った神官からの情報で巨大なクマのぬいぐるみが包丁を振り回して襲ってくるという事が分っていた。そのため物理的な戦闘力を持たせ、チェインメイルを着込んだ神官戦士が向かったにもかかわらずである。
しかもゴーストの力は想像していたよりも強大で、神官戦士5人のターニングアンデッドもあまり効果がなかったらしい。
その上でそのクマのぬいぐるみの猛攻に遭い5人の神官は手も足も出なかったというのだ。
そしてさらに神官戦士を増やして突入したのが今朝の事で、合計7名の神官戦士と助祭の二人が同行するという一般的な除霊の規模を超えた態勢で挑んだらしい。
さすがに過去2回の失敗から過剰ともいえる戦力を投入したにも関わらず、今回の討伐作戦も失敗した。恐ろしいことに悪霊側も戦力を増強していたらしい。
新たに加わった悪霊の力は今までにいたものよりはるかに強力で、相当に長い時間をかけて負のエネルギーをため込んだ、いわばエルダーゴーストともいうべき存在だという。
「エルダーゴースト?」
アインフォードは聞きなれないモンスター名にそれはどういった存在なのかをタイレ助祭に聞いてみた。
「通常ゴーストは5年から10年で自然と消滅してしまうのですが、まれに50年以上存在し続け負のエネルギーとため込んだ強力なゴーストが存在するのです。我々はそれをエルダーゴーストといい、通常は司祭様が対応することになっているのですが…。」
タイレ助祭は少し言い淀んだ後、現在司祭は重要な催事の最中で手が離せないという。
「それでこのところ聖女と名高いキャロット様のお力を貸していただけたらと…。」
ハインリヒとタイレ助祭が帰った後リコリス魔法商会ではこの奇妙な依頼について話し合いがもたれていた。もっとも騎士団長自らが来ての依頼であるため、断ることはできなかったのですでに了解の返事はしてあった。
「キャロットはどう思う?」
「そうですね。髪の毛が不自由なことについてはこのキャロットにも手の施しようがございません。」
そこじゃねーよ。なにその迂遠な表現。とアインフォードは心の中で突っ込みを入れつつ「そうだね。発毛や増毛の魔法を開発すればある意味教祖になれるかもね。」と返事した。
「リコリスはどうかな?」
「はい。錬金術界では発毛剤は長年のテーマとして研究者が多いと聞いています。しかし成功したという話は聞いたことがありませんわ。」
Ohリコリスお前もか。アインフォードは引きつった笑顔で「それは開発されると一財産作れそうだね。」と返した。
「というか、その新たに増えたエルダーゴーストってペトラさんじゃないよね?」
「話を聞いた時私も真っ先にそれを思いました。確かにあの子は長く存在しておりもともと魔術師であったことで通常のゴーストより強い力を持っています。」
「え?ペトラさん、ゴーストの中でも強力な個体なのか?」
「はい。助祭様がおっしゃっていたように実体を持たないゴーストやスペクターは通常10年もすればマナが霧散してしまい存在自体が難しくなります。高位の魔術師がゴーストやスペクターと化した場合など100年以上存在しているケースもありますが、それはもはやゴーストというより精霊と言ってしまっても良いような存在です。」
「アインフォード様、聞いたことがあります。動物や物品ですらゴースト化したその後、長い時間をかけて精霊化することがあると。」
付喪神のようなものか?アインフォードはそう思った。
「ゴーストの方はペトラさんの可能性が高いという事はわかるが、なんだか教会の態度も腑に落ちないね。何か隠していそうだね。」
そもそもなぜハインリヒがわざわざ一緒に来たのか。なぜタイレ助祭は見習い神官の衣装を着ていたのか。その屋敷は誰の持ち物なのか。わからないことがとにかく多い依頼であり、そこに裏があることが感じられて仕方のないアインフォードであった。
最近、シャンプーの後じっと手を見る…。




