表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リコリス魔法商会  作者: 慶天
1章 魔法屋の女主人
9/131

にんじん娘の日常 1

以前発表したお話の再録となります。背景説明のためにも必要かと思いここに挿入いたします。内容は全く同じになっております。

 ―それはまだこの世界が「ゲーム」だったころのお話―


「ねぇアイン。この間実装された従者NPCできた?」

 カタリナはつい先ほど完成した自分の従者NPCであるエイブラハムを自分の肩にとまらせてアインフォードの家に遊びに来ていた。

「カタリナはそのちびドラゴンを選んだんだ。どんな性能なんだい?」

 従者NPCは種族や職業などプレイヤーでは選択できない仕様が多く用意されていた。そのため、多くのプレイヤーは冒険そっちのけでNPCの作成にかかりきりになっていたのだ。

 アインフォードとカタリナも例外ではなく、リアルで二人でデートしていても話題はそれに集中していた。


「ちびとはいえドラゴンだからね。ちゃんとブレスは使えるし、格闘性能も今は1レベル戦士程度だけど持っているよ。何よりこいつは『魔法使いの弟子』にしてあるからいずれはあんたを超える魔法戦士になるかもね。」

「ドラゴンだと空中から魔法の絨毯爆撃とかできるわけだな。それは強力そうだな。」

「そういうこと。その分採取のサポートとか、家事のスキルは全く持ってないからね。アインがそっち系のNPCにするって言っていたから、お任せいたしますよ?」

「了解だ。もうすでに大体出来上がっている。やっぱりメイドさんはロマンだよなぁ。」

 アインフォードが製作中の従者NPCは『メイド』さんだった。サポートスキル系に特化しており、特に素材採取と料理によるステータスアップスキルはカタリナと相談したときに必ずつけると約束していた。


「その『メイドさんはロマン』ってのはちょっと引くんだけどねぇ。」

 まったく男ってのはみんなそうなんだろうかね?とカタリナは小さくため息をついた。

「で、どんな感じ?」

 カタリナはアインフォードのコンソールにデータリンクをして、作りかけのNPCをサブウィンドウに呼び出した。

「あいんさーん。何でこの娘全裸なの?ひくわーマジひくわー。」

「いやいやいや、あんたのエイブラハムだって全裸だろ?っていうかちゃんとインナー着ているでしょ?キャラメイクの仕様上それは仕方ないじゃん。装備だって変えられるわけなんだしさ。」

「まぁ仕様なら仕方ないか…。どれどれスキルは…。」

 採取、採掘、剥ぎ取り、料理、清掃、栽培、基礎剣術…なるほど確かにサポート特化だなとカタリナは納得した。


「ねぇ、なにこれ。『美人』?ばっかじゃない?NPCの見た目はあんたのセンスで作れるんだから特に美人とかつけなくても美人に作れるでしょ。しかも何この付与コスト!高!」

「その辺は気分の問題だよ。やっぱステータスに『美人』とあれば誰もが美人なんだって納得するじゃん。」

「まぁあんたのNPCだからあたしがとやかく言う事じゃないけど…。」

 カタリナはなぜかNPCに嫉妬している自分に気が付いて少し自己嫌悪に陥った。


 -------私は誰もが納得する美人なのね。うれしいわ。


「それで、この『美人』をつけるために付けたマイナス特性が『変わった性格』『食料消費1.5倍』っていうこと?」

「そのあたりなら特にゲーム上支障がないだろうしさ。個性だと思えば愛着も沸くじゃん?」


 -------私大食漢なんだ。それはちょっと嫌かも。

 -------でも私はアインフォード様に愛されているのですね。


「それで名前はなんて付けたの?」

「キャロット!」

「ニンジンですか…。『アインフォード』っていう名前はかっこいいのに、そのほかのネーミングセンスはあんた壊滅的だよね。…まぁ、かわいいけど。」

 カタリナはアインフォードとリアルで婚約している。もし子供ができたら絶対に自分が名前を付けようとこの時心に誓った。


 -------私の名前は「キャロット」なのですね。私もかわいい名前だと思います。ありがとうございます。


「よし!では起動しますよ。」

 アインフォードの声で作成用カプセルのドアがスライドして下着姿の美少女が現れた。

 金髪碧眼、髪の長さは背中にかかるほどの長さでサラサラとしたストレート。スタイルも抜群でまさに完璧な美少女だった。これが『美人』の効果なのかとカタリナも瞠目した。

「か、かわいい…。」

 何この可愛さ。反則じゃないの?ちょっと!運営!プレイヤーにも『美人』のキャラクター特徴追加しなさいよ!これのためなら食料消費1.5倍も耐えられるわ!カタリナは心の中で運営に力いっぱい要求した。

「って、アイン!早く服持ってきなさいよっ!」

 こんなものを恋人に与えていいのか?カタリナは再びNPCに嫉妬している自分に気が付くのだった。


 出来上がった従者NPC「キャロット」にはアインフォードがあらかじめ用意してあったメイドコスが着せられた。メイドさんが人気になることはプレイヤー内でも話題になっており、そのため多くのプレイヤーがメイドコスを自作して販売などもしていたのだ。

 アインフォードは服飾のスキルは持っていないし、リアルでも裁縫などほとんどしたことがなく、売り出されているメイドコスの中で気にったものを何着か購入していた。

 キャロットに着せられたのはロングスカートのビクトリアンスタイルだった。

「おや?ミニスカメイドさんじゃないの?」

「んーそれも買っているけど、やっぱメイドさんていうのはこういうオールドスタイルが好きだなぁ。」

 メイドと言って現代日本人が思い浮かべるのはメイド喫茶などで働いている少女ではないだろうか。実際日本にはお手伝いさんという住み込みの家政婦は存在するが、職業メイドは存在しない。

 メイド服にしてもいわゆる改造フレンチスタイルといわれるミニスカタイプだと実務的ではない。しかしそんなことは関係なくアインフォードにしてもかわいいは正義である。基本的にオールドスタイルが好きなアインフォードだったが、せっかくのNPCにかわいい服を着せてあげたいと思うのは親心ではないだろうか。


「何かちょっとだけほっとしたよ。」

 カタリナはこれでミニスカメイドだったら自分もそれを着てやろうかとちょっとマジで考えていた。ビクトリアンメイドのキャロットを見てようやくカタリナも落ち着いてじっくりとキャロットを観察することができた。


 ****


 こうして私はアインフォード様の専属メイドとしてこの世界に誕生しました。

 カタリナ様はアインフォード様の婚約者という事でした。少しばかりカタリナ様がうらやましいとも思いましたが、私ごときがそれに意見を言うのはおこがましいと思いますし、カタリナ様も私に良くしていただけました。


 カタリナ様の弟子、エイブラハムさんとも仲良くなりましたよ。エイブラハムさんは言葉を話しませんが、どういうわけか私はエイブラハムさんと会話を行うことができました。エイブラハムさんもカタリナ様を敬愛しておられるようで、二人よく自分のご主人様についてお話ししました。

 カタリナ様は魔術を最高レベルまで極め、今は『賢者』というクラスをしておられました。魔術師とプリーステスを併せ持った魔法職の究極という事です。

「それじゃ、ちょっと仲間を集めてみんなの従者NPCのお披露目会を開こうか。」

 アインフォード様の提案で普段アインフォード様がパーティを組んでいらっしゃるメンバーが集まることとなりました。どのような方がこられるのでしょう。当然そこで振舞うお料理は私が担当することになります。アインフォード様は持っておられる素材の中からいくつかを私に渡してくれました。はい、この素材を利用して最高のお料理を作りますね。アインフォード様のお仲間に下手なものはお出しできません。そのためにアインフォード様は私にスキルをお与えになってくれたのですから。


 次の日アインフォード様の自宅に5名の方がいらっしゃいました。

 最初にいらしたのはカタリナ様。美しいドレスをお召しです。黒髪のカタリナ様に白いドレスは大層似合っておられました。エイブラハムさんもかわいらしい蝶ネクタイをしておられました。エイブラハムさんはちょっと照れたようにこれ似合うかな?と聞いてきましたので、大層お似合いであるとお伝えしました。


 次にいらしたのは軽戦士であるみぃ様です。かわいらしい女性で双剣を使われる方の様です。小さな猫のような獣人を連れておいででした。採取系に特化したスキルをお持ちの様で種族特性もあり、私よりもその方面では優秀です。ちょっとうらやましいです。


 続いてお越しになったのはエルフのアーチャー、ルシア様とプリーストのゴジ様です。ルシア様はエルフのメイドをお連れしていました。初めてお会いする同職の方です。仲良くできたらいいのですが。

 ゴジ様は大きな犬を連れていらっしゃいました。格闘性能に特化した戦闘サポート職という事です。噛みつかないでくださいね。


 最後に現れた女性は重戦士のドリーム様。巨大な大剣を背中に背負い登場です。ドリーム様とみぃ様はとても仲が良いらしく、従者も同じ小さな猫の獣人を連れておいででした。ただ、みぃ様の従者は白色の獣人なのに対しドリーム様の従者は黒色でした。お話してみたところ、近親種ではあるけれど少しだけステータスなどにも違いがあるとのことでした。面白いことにこの猫の獣人さんは料理のスキルなども持っており、今度一緒になるときには振舞っていただける約束をしてくれました。


 皆さんにお料理をお出ししたのですが…どうだったでしょうか。アインフォード様の顔に泥を塗るようなことになっていなければよいのですが。皆さんがお食事をされている間私たちは厨房で少しお話をすることができました。


 私達従者はまだ生まれたばかりです。もうすでに何回か冒険に同行させていただいた方もいらっしゃいましたが、まだまだ低レベルなのでご主人の足を引っ張ることしかできないという事でした。でもそれは仕方ないですよね。皆ご主人に愛されている実感はおもちでしたし、きっとそのうちご主人のパートナーを立派にこなせる日が来ると思います。

 かくいう私はちゃんとお役に立てるでしょうか。でもアインフォード様のパートナーはカタリナ様だし、少し微妙です。


 あ、お料理はそれなりに評判良かったようです。今回お出しした料理の効果はHP増大(大)MP増大(中)です。食材としての効果ですとHP増大(中)なのですが、そこは私のスキルが発動です!もっとお料理のスキルが上がれば効果も大きくなるのでしょうが、今はこれが精一杯です。

 それにしてもアインフォード様がお持ちの食材が素晴らしいです。これだけの食材を使ったら組み合わせを間違えない限り、大体の方はおいしい料理を作れるような気がします。


 私達は給仕が終わると自らのご主人様の後ろに立つよう指示されました。これからこのメンバーで狩りに出かけるので、その打ち合わせが行われました。私はまだ外に出たことがありません。いったい外はどのようなところなのでしょうか。足を引っ張らずに頑張りたいなぁと思います。


 あ、もう出発なのですか?はい直ちに準備いたします。さぁ!頑張りますよー。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ