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リコリス魔法商会  作者: 慶天
4章 ヘルツォーゲンの日常
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ペトラの冒険 1 ペトラの観光

 皆さんおはようございます。ペトラです。

 今日はわたしがヘルツォーゲンの街を皆さんに案内したいと思います。

 といっても私もヘルツォーゲンは50年ぶりですので実はわたしが一番楽しみにしているのですけど。


 まずはそうですね、普段はなかなか入ることのできないところに行きたいですね。領主様のお城など行ってみたいところですが、さすがにお城には神官もいるので私の存在がばれてしまうかもしれません。やはり危険なところにはいかないほうが良いかな。


 うーん。では何処がいいかなあ。とりあえず貴族街には行ってみたいですね。一般の人には縁のない場所ですし、生前のわたしも行ったことがないので興味があります。お貴族様はいったいどういう暮らしをしているのでしょう。


 ところでわたしはゴーストなので普段は透明化していると誰にも見とがめられることはありません。しかし透明化していても神官や神官でなくとも霊感の強い人には姿が見えてしまうらしいです。


 しかも基本的に何かオーラ的なものを常に放出しているらしく、姿が見えなくともそこにいる人に何か違和感のようなものを与えてしまうとか。

 ほら、洗髪しているとき、妙に首筋がチリチリするような感覚を味わったことはありませんか?そう、それです。「そういう時」は近くにいると思ってくださって結構ですよ。


 さらに迂闊に姿を見せてしまうと、人によってはその場で発狂してしまいます。こんなかわいい女の子を見て発狂するとはいささか納得いきませんが、悲しいかなアンデッドの宿命のようなものみたいです。


 しかしこれはまずいのです。この街にはたくさんの神官もいますので、下手をすると問答無用で浄化されてしまうかもしれないのです。もっともそんなちゃんとした能力を持った神官はそれほどいないとは思うのですが、それなりに高位の神官ならそれも可能だと思います。

 あのキャロットさんほどの実力者はそういないと思うのですが…。


 そこでリコリスさんが私の為にお札を作ってくださいました。負のオーラを抑えるものという事で、これを身に付けていると放出される負のオーラが抑えられ、たとえ姿を見られても相手が発狂するといった事は防げるらしいです。霊体である私にいったいどうやってお札を張り付けるのかと思いましたが、どういう理屈かリコリスさんはそのようなアイテムも作成できるようでした。


 ただ、額にペタっと貼り付けるのはやめてほしいかな。それをみたアインフォードさんは「うわー。まるでキョンシーだね。もうちょっと何とかならないものかな。」と、とても残念な子を見るような目で見てきました。いっている意味はよくわかりませんが、なんだか馬鹿にされたような気がしました。

 アインフォードさんには恩もありますし、カッコいいから許しますがもう少しデリカシーを持っていただきたいものです。


 という訳でわたしはリコリスさんが作ってくれたお札を腕に巻き付け優雅に空のお散歩です。50年ぶりのヘルツォーゲンはどう変わっているのかな。

 まずは噂になっている東門を見に行きます。なんでもアーマードタートル・グレイターという化け物亀の甲羅が城門として使われているという事で、ヘルツォーゲンの新たな名所になっているというのです。


 しかもその大亀を退治したのはリコリスさんだというではありませんか。驚いたことにリコリスさんキャロットさん、アインフォードさんのお三方はその時の功で名誉貴族の称号を持っているとか。

 リコリスさんのお店に来る方々の話をこそっと聞いているとその時の戦いがいかに激しかったかがうかがえます。やはりあの方々は只者ではないようです。


 東門に着きました。驚きました。何ですかこの巨大な甲羅は。

 全長で50mはあるかもしれない巨大な甲羅はそのまま城門になっており、甲羅の上には柵まで取り付けられ立派な城壁となっています。

 こんな化け物サイズのモンスターを良く倒せたものね。

 しかもその時にはヘルツォーゲンではある意味おとぎ話にまでなっているオークの狂化が100年ぶりに起こっており、5万匹に及ぶオークまで押し寄せていたというのですからこの街が存続していることが奇跡に感じられます。


 その巨大な甲羅に圧倒された後は予定通り生前には行ったことのない貴族街に行ってみることにしました。

 最近リコリスさんのお店に居候させてもらっていますので、騎士様やまさかの領主様のお嬢様などが来店されることもあり、なんとなくお貴様も身近に感じられるようになってきました。しかしお貴族様にかかわることなどド平民のわたしにはあり得なかったので、貴族街がどういったところなのか非常に興味があります。


 ヘルツォーゲンの街は北から南にライン川が縦断しており、街の規模は東側の方が大きくなっています。西側は主に農地が広がっていますが、今でも北街の復興が終わっていないため難民キャンプの様相を呈しています。

 そのライン川からは水路がいくつも引かれ水運や防火、汚物処理などに使用されています。

 そして貴族街は街の中央部にあり、貴族街を覆う城壁に囲まれ賊の侵入などに備えているのです。

 もちろん各通用門には上級の衛兵さんがいらっしゃいますので、怪しいものは即座につまみ出されてしまいます。ただ、商人さんなどの出入りも激しいのでちゃんとした要件があれば普通に入ることはできる様です。


 ふよふよと貴族街の城壁を飛び越えていきますが、見とがめられることはありません。ゴーストって便利ですね。

 初めてみる貴族街はわたしたちが住んでいる下町と比べて、とても清潔な印象を持ちました。アインフォードさんやキャロットさんが下水道の整備を、という話をしているところを見た事がありますが、こういう事なのかな。


 ヘルツォーゲンの市街地の大半は石畳が敷かれ、雨が降ってもぬかるんだりはしませんが、ところどころ石畳が劣化して穴が開いたりしているところもあります。

 そういったところは近くの人が土を入れたり、石を入れたりと対処していることも多く意外と道路も荒れているのです。


 しかしさすがにお貴族様の住まわれているこのあたりにそのような個所はなく、道路もきっちり整備がされているようですね。

 またお家も大きく、私のかつての家とは比べ物になりません。大体平民は集合住宅の1フロアを住処としています。一軒家に住んでいるのは平民の中でもそれなりに裕福な平民なのです。


 かつてのわたしは集合住宅の5階に住んでいましたので、毎日の水汲みが大変でした。

 ちなみに水は共同の井戸で汲むか、水屋といわれる魔術師から買う事になります。

 共同井戸の使用料は毎月きめられた額を支払っているので、いつでも水汲みはできるのですが、飲用に使う水は水屋さんから買っていました。

 あまり井戸水を飲んでいるとお腹を壊すのよね。


 貴族街はとても静かで、物売りの呼び込みの声もなければ買い物客の姿も見かけません。まるで違う街に来たような気になりました。お貴族の方々はお買い物などどうするのでしょうか。きっとハウスメイドさんがいるのだと思うのですが、そもそもお店らしきものをあまり見かけません。

 あれは…ひょっとしてお食事処かな?一見して宝飾店かと思いましたが、どうにもそうではないようです。私の知っているお店とは違う様な気がします。


 よく見てみるとどうやら商店であるらしい建物が分かってきました。どのお店もあまりにも建物が立派で外から見ただけでは何を扱っているのかすらわからないのです。

 しかし、どのお店もそんなにお客が入っているようには見えません。経営は大丈夫なのかな。


 そんな事を考えながら空中を漂っていると下町から身なりの良い商人さんが入ってこられました。どういったものを運んでいるのか気になったので、少し近づいて衛兵さんとの会話を聞いてみました。


「メンテルス商会のクルトです。トラウトマン子爵邸に納品があります。これが納品リストになります。ご確認いただけますでしょうか。」

 そう言って見た目はずいぶんと若い商人さんが割符のようなものを衛兵さんに見せていました。お若いようですのできっと使いのものだと思いますが、とてもきれいな身なりの上言葉使いも上品です。やはりお貴族様のお屋敷に行くには平民といえ教養が求められるのね。


「食材の納品か。ご苦労。通って良し!」

 衛兵さんがそう言うと若い商人さんは衛兵さんの手に何かを握り込ませてから頭を下げて通っていきました。


 心付けかな。きっと挨拶のようなものですね。こういったやり取りは下町でも普通に見かけますし。

 そして先ほどの謎がなんとなく解けました。お貴族様は食材もすべて必要なものは商人に運ばせるのですね。この発想はなかったです。




 それにしても静かです。下町は今も工事の音が結構やましいですが、ここまではその音もあまり聞こえてきません。

 時折通る馬車の音くらいしか聞こえてこない中、不思議な一団を発見しました。


 その一団は見たところ神官様の様です。5人います。

 何をしているのかな。


 見つかると面倒なことになりそうですが、好奇心に負け距離を取って後をつけてみました。

 彼らはこのあたりでは比較的こじんまりしたお屋敷の前まで来ると、入念に装備品のチェックを始めました。こじんまりしたといってもそれはこのあたりにしてはという事です。十分立派なお屋敷ですが。


 それにしても5人の神官様はまるでこれからダンジョンにでも向かうかのようなそんな雰囲気です。

 今からこのお屋敷に入っていくのかと思い、お屋敷をよく見てみますと窓はすべて固く閉ざされています。

 しかもずいぶんと年季の入ったお屋敷みたいで、庭の手入れもされていないようです。


 おそらく永らくだれも住んでいないのかな。そんなお屋敷に5人もの神官様が装備を整え踏み込む…。

 もうその状況だけで何があるのかわかりますね。きっとこのお屋敷はいわゆる「事故物件」に違いないです。


 冒険者に依頼するとかしないのかな、とも思いましたが考えてみると冒険者に聖職者はいません。

 癒しや神の奇跡を扱えるものはすべて教会の管轄になりますので、表向き聖職者は冒険者にいないのです。

 もっとも表向きですので幾人かはいることを知っています。キャロットさんなどがその最たるものです。…どうしてキャロットさんは教会の所属ではないのかな。考えてみれば不思議ですね。


 それにしてもこのお屋敷には何があるのですかね。わたしのようなゴーストが住み着いているのかな。んー強制除霊されるのはかわいそうだなぁ。


 とはいっても迂闊に近づいて私まで一緒に除霊されてしまっても困ります。中にどんな方がいるのか知りませんが、ごめんなさいね。


 なんとなくその場を立ち去るのも見捨ててしまう様で申し訳なく思ってしまい、そのまま遠くからそのお屋敷を見守っていました。

 しばらくすると中に入っていった神官と思しき人たちが転がるように屋敷から出てきました。除霊は失敗かな?


 5人ともに非常におびえた様子で、後ろを振り返ることなく一目散に逃げて行ってしまいました。よほど恐ろしい目に遭ったのでしょう。

 ひょっとしたら私なんかよりもっと恐ろしいゴーストがいるかも。ちょっと見に行こうかな。


 好奇心に駆られてわたしはそのお屋敷の玄関から中を覗いてみることにしました。

 ゴーストですので壁をすり抜けるくらい訳ないのですが、きっとこの館の主は玄関に居るような気がしたのです。先ほどの神官様たちは玄関から転がり出てきましたので、ドアは開けっ放しです。どんな人が主なのかな。


「こんにちはー。」

 何も声をかけずに入っていくのはマナーとしてよくないと思ったので、一応挨拶をしながら覗いてみました。


 そしてそこにいたのは包丁を持った大きなクマのぬいぐるみと、そのぬいぐるみに守られるように後ろに立つ5歳くらいの少女でした。


 少女は肩を怒らせ、眼に涙を浮かべて玄関を睨みつけていました。


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