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リコリス魔法商会  作者: 慶天
3章 スタンピード
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アインフォードの独白 4 カタリナとジャクリーヌ

 アインフォードの独白


 オークの狂化が起こり、ヘルツォーゲンを襲ったスタンピード事件から2カ月がたちました。まだまだ復興の工事は続いていますが、そろそろ街も落ち着きを取り戻しつつあります。


 そして一カ月前に行われた論功行賞により私達の生活は大きく変わり…ませんでした。

 確かにリコリス魔法商会に辺境伯家御用達の看板が与えられたことにより、貴族のお客さんも増えましたが、直接店に来るのは使用人の方々ですので対応に苦慮するといった事はありません。


 冒険者の多くも今は人足としての仕事が多く、城壁の修理などの仕事をしています。そのためリコリス魔法商会の売り上げは芳しくありません。日用雑貨はよく出るのですが主力商品であるポーション系があまり出ないためです。


 とはいっても生活に困窮するようなこともないので、私達も復興の仕事をしながら各自やりたいことを行っています。


 ただ、勳士爵位をもらったことでエーデルトラウトさんが言っていた通り、私とキャロット、そしてリコリスに対する貴族からの求婚が殺到するという事態になりました。中には何をトチ狂ったのかスピネルとラピスラズリを養子にしたいという話までありました。


 しかも求婚者の中にはリーベルト辺境伯の第3子、エルヴィン様といった大物もいたため対応には苦慮しました。キャロットに任せておくと何を言い出すかわからないため、貴族相手の話はすべて私がすることにしたのです。


 といっても私だって日本のサラリーマンだった一般人ですので正しい対応が出来ているのかなどわかるはずがありません。ましてや上位貴族のマナーやルールなどわかるはずもなくビジネススキルで何とかごまかしているような状態でした。


 今まで貴族がらみの事はフランツ男爵によく相談させていただいていたのですが、今回に限っては男爵の嫡男ライナーさんもキャロットに求婚している立場ですので頼るわけにはいかないのです。


 今のところすべてお断りさせていただいているのですが、まれにお見合いだけはしなくてはならないケースもあります。

 例えば私に対することなのですが、ヒューグラー男爵家のメルヒルデさんから話が来た時はさすがに無下にすることも出来ず1週間後に一度お会いすることになっています。

 彼女には色々お世話になっているのでそのお礼も兼ねてお話をさせて戴こうかと思います。


 同じくキャロットもライナーさんとは一度会う事になりました。今から不安でなりません。絶対まともなお見合いになるはずがありません。


 リコリスにも多くの縁談が舞い込んできますが、こちらも私が主に仲介をしてお断りさせていただいています。

 以前、冒険者や市民の皆さんから私がリコリスとキャロットのヒモであるかのような扱いを受けたことがあるのですが、あまりにもキャロットとリコリスの縁談を断っていると今度は貴族からそのような目で見られてしまいそうで不安ではあります。


 またリコリスとキャロットには貴族女性たちの集まりにも呼ばれることがあり、お茶会というものに参加したこともありました。

 これについては話すと長くなるので機会があればその時にします。まあ色々やらかしてくれたので。

 リコリスはとてもしっかり者のように思えますが、ああ見えて時々とんでもないポンコツぶりを発揮するうえ、基本的にアンデッドなのが原因なのか発想が割と物騒なのです。


 というわけで私たちは基本的には以前と変わらずにリコリス魔法商会に住んでいるのです。

 あと変わったことといえば武器屋のリーフマンさんが勲章を受けたことで大人気となり、お店の方も繁盛しているようです。もとより腕の良い鍛冶職人でもあるリーフマンさんは冒険者の方々の武器だけでなく、土木工事用の鶴嘴やシャベルなども今は臨時で作っているようです。


 それとリコリスがエーデルトラウトさんにお願いしたことの件ですが、リコリスは北街の再開発に自分に与えられる報奨金を利用することを提案したのです。

 しかもその際に下水道の整備を提案していました。


 ヘルツォーゲンは人口10万人に及ぶ巨大都市ではあるのですが、下水道の整備はお粗末と言わざるを得ません。かつてリコリスはラケルス師と流行り病から村を救ったことがあるといった話をしていました。


 その時の原因が不衛生からくる伝染病であったため、リコリスはこの街の防疫体制に大きな危機感を持っていたのでした。

 これについては私も大いに同意します。リコリスがその話をエーデルトラウトさんにした時、彼女はあまりその重要性を理解していないようでしたが衛生環境と伝染病の話を詳しくすると徐々に彼女の顔つきが変わってきました。


 最終的にヘルツォーゲンを武力的な危機から救っただけでなく、内部における脅威まで気にかけているリコリスの心に彼女は感動し再開発の際の下水道整備を必ず辺境伯に進言すると約束してくれました。


 そうなると私達も報奨金を辞退し、その大事業に協力する必要があるでしょう。私達も報奨金を辞退し復興支援金にしていただくことにしました。


 エーデルトラウトさんは感動して涙を流していましたが、リコリスがそう言った以上私達だけお金下さいと言えるような太い神経を私は持っていませんでしたし、復興に使っていただけるなら私としてもこちらからお願いしたいところです。




 さて、今まであまり触れませんでしたが大事なことを考えなくてはなりません。


 まず1つ目はあのスタンピードを終結させた謎の大魔術についてです。


 突然空から地面に突き刺さった光の柱は合計で4本。その直径は100mはあろうかという巨大な光の塊でした。

 私は魔術師魔法九位階とエクストラ第一〇位階魔術を幾つか修めています。その他使えないまでも「ソウル・ワールド」に存在したほぼすべての魔術は見た事があります。


 しかし、私が知っている中にあのような大魔術は存在しないのです。可能性として第一〇位階魔術は特別なクエストをクリアして得られるものなので、私の知らないエクストラクエストがあったという可能性も否定できません。

 もしあの大魔術が「ソウル・ワールド」当時から存在していたのなら、あれを使用した高レベル魔術師である転移者があの時近くにいたことになります。


 まさかあのダーク・アポストルにあれを使用することができたとは思えません。マルチクラスで魔術師を選択していなければニンジャに第一〇位階魔術を使用することはできないのです。ニンジャはただでさえ経験値を非常に必要とするクラスですのでマルチクラスを選択するものは非常に少なかったはずなのです。


 ではいったい誰があれを使用したのか。私の知らない転移者がまだこの世界にいるという可能性は十分にあり得ます。

 ただ、最も可能性が高いのは「ジャクリーヌ」と呼ばれる女性ではないかという事です。

 彼女は「狂騒の使者」という二つ名で呼ばれており500年前から歴史の転換期には必ずその名が現れるというのです。


 ダーク・アポストルの口からもジャクリーヌの名は出ており、彼がジャクリーヌと何らかのつながりがあることは確実だと思われます。そういう事からもあの場にその「狂騒の使者」が居たとしても不思議はないと思うのです。


 ただ件のジャクリーヌという女性についてはほとんど情報がありません。そもそも500年もの間同じ人物が生き続けるのは、エルフでもない限り不可能な事です。エルフでも500歳を超えるものは稀だと聞いています。


 もしその人物が本当に500年間生きていると考えるなら、相当に高位の魔術師であることは間違いないでしょう。非常に邪悪な方法になりますが第九位階魔術「マジック・ジャー」を利用して他人に憑依し続けることで理論的には永遠に生き続けることも可能なはずです。


 もしこの方法で500年に渡り生き続けているのなら、少なくともまともな感性ではないと考えられます。私達とは相容れられないでしょう。もっとも今は私がそう思っているだけで死を迎える直前までそのような正義感を持っていられるかどうかはわかりませんが。


 少し話がそれました。謎の極大魔術の件ですが、「ソウル・ワールド」準拠の魔術でないという可能性も考えられます。

 先ほどから名前の出ているジャクリーヌがもし本当に500年も生き続けているのなら、何らかのオリジナル魔術を開発している可能性もあるのです。


 ゲームの世界ではオリジナル魔術の作成は認められていませんでした。アップデートのたびに魔法作成ツールの要望はありましたが、最後までそれは認められませんでした。

 自分だけのオリジナル魔術を作成するというのは魔術師にとって非常にロマンあふれる魅力的な案件なのですが、ゲームバランスと容量を理由として実装されることはありませんでした。


 ではこの世界でそれは可能なのでしょうか。今までそれを考えなかったわけではありません。実際、ソウル・ワールドには存在していなかった第0位階魔術が存在するのですから、可能であろうとは思います。いったいどういう手順を踏めば新たな魔術を作ることができるのか私には想像もつきませんが、おそらくカタリナあたりであればそう言った研究を行い可能としたことでしょう。


「狂騒の使者」ジャクリーヌがカタリナに匹敵する魔術師であるなら500年の時間をかけてそれを可能にしていた可能性は十分にあります。

 ダーク・アポストルはヘルツォーゲンが崩壊することを望んでいたわけではなさそうなので、彼の仲間であると思われるジャクリーヌが、アーマードタートルの排除に協力したとも考えられるのです。


「狂騒の使者」ジャクリーヌと「暗黒神の使徒」ダーク・アポストル、いったい彼らの目的は何なのでしょう。ダーク・アポストルもただの中二病患者だと思っていましたが、高レベルニンジャだと実力的に侮ることが出来ません。


 明確にこちらに対して殺意を持って対応していることは間違いないので、今後は排除の方向で動いた方がよさそうです。

 それにしても、転移者であるなら彼らは元の世界に帰る方法とか考えていないのでしょうか。そもそもどこか考え方が日本人らしくありません。この世界に染まっただけなのかそれとも元々そう言う人格だったのか…。


 リコリスには最初仲間になることを誘ってきたという事ですが、拒否されると即座に命を狙いに来るというのはやはり命の値段が安いこの世界ならではの考え方であると思うのです。日本人はそんな物騒な発想になりませんからね。


 いずれにせよ、彼らの動向には注意が必要です。きっと彼らとはこれからも顔を合わすことがあるでしょうから。




 2つ目はリーベルト辺境伯からリコリスが与えられた「時の魔術書」についてです。

 これは辺境伯の言によれば魔女カタリナが残したヘルツォーゲンの至宝であるとのことです。

 私もカタリナの残したものと聞いて非常に興味を惹かれました。しかも「時の魔術書」などという思わず中二病を発症しそうになるほど魅力的なタイトルがついているのです。


 カタリナとは元の世界ではゲームで知り合いになり、その後リアルに結婚していました。事情があり二年ほどで離婚しましたがお互い嫌になっての事ではなかったため、今でも思いはあります。

 ただ、離婚後はカタリナのログイン率も下がり、なんとなく気まずいのもあり一緒に遊ぶことも少なくなっていました。


「ソウル・ワールド」サービス最終日はさすがにカタリナが会いに来たため一緒に居たのですが、その時に私がプレイしていたネットカフェが火災に遭い私はこの世界に転移してしまいました。


 カタリナがこちらに転移した理由は不明ですが彼女は私より500年も前に転移し、なぜか彼女の従者NPCであるエイブラハムだけが私と同じところに転移していました。


 カタリナはゲームの中のキャラクターだけではなく、彼女自身も凝り性なうえ冒険心溢れる女性であったためこのような状況で大人しくしていたとは考えられません。

 実際数々の伝説を残しており、おとぎ話や訓話の中にも登場するほど活躍したようで、「魔女カタリナ」を知らぬものはこの世界にはいないのではないかと思われるほどです。


 そんな彼女が残した魔術書です。しかも「時の」とついていることから、この世界から元の世界に帰ることを研究したものではないかと想像できたのです。ひょっとして彼女はその方法を確立して現実世界に帰ったのではないか?そういう期待すら持ってしまいました。


 そのような期待を持ってリコリスとキャロットと共に魔術書を開いたのですが、残念ながら現実世界に帰るための方法が書かれているようなものではありませんでした。


 ただ、間違いなくその方法を模索したことはこの魔術書からもうかがえました。

 この魔術書はこの世界の言葉と日本語が混ざっており、重要な考察程日本語が使われていました。おそらくリーベルト辺境伯では日本語の部分が解読できなかったので、その解読を私達にさせようとしたのではないかと辺境伯の意図が読み取れました。


 もっともこれはあくまで研究書というべきもので、結論は出ていませんでした。おそらくこの続きを書かれたものが存在しているのでしょう。


「時の魔術書」と言われている通り、時間に関する考察が多く一応「タイムストップ」といった魔術も参考として載せてありました。ただ、タイムストップは第九位階の魔術であり使用できるものはこの世界にいるのかどうか疑問ではあります。


 一つ言えることは少なくともリーベルト辺境伯と彼に近しいものは第六位階が最高レベルと思われているこの世界の中にあって、第九位階の存在を理解している人物であるという事です。


 日本語で記載された中に先ほど述べた「マジック・ジャー」による延命についても書かれていました。さすがに彼女もその方法を思いついたようですが、あまりにも邪悪な方法であるためあえて日本語で記載したのでしょう。


 カタリナが転移したのが500年前。「狂騒の使者」ジャクリーヌが現れたのも500年前。この符合は偶然のものなのでしょうか。

 そしておそらくカタリナであるならあの大魔術を開発していてもおかしくはない…。


 ジャクリーヌとカタリナは同一人物の可能性…。

 そんなことはないと私は頭を振りその考えを打ち消しました。


 そして魔術書の最後のページに日本語で書かれた落書きのような一文を発見し、思わず目頭が熱くなってしまいました。




「どんなに時間がかかろうと私はあなたのもとに辿り着きます。覚悟しておけ。」


 うわー。こえー。




 しかし、なんとなくわかってきたんですよ?カタリナさん。


ようやく第3章が完結しました。ここまでお読みくださりありがとうございます。

次回より新章です!ちょっと魔法屋らしいお話にしたいなぁと思います。

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