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リコリス魔法商会  作者: 慶天
3章 スタンピード
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スタンピード 14 城壁崩壊

 この日朝から始まった戦闘は昼を過ぎた辺りでその混迷の度合いを強めていた。

 ロックジャイアントの体当たりで城壁と城門は大きく破壊され、ついにはオークキングとハイオークの一団が城壁内になだれ込んだ。

 オークキングの武力は強大であり、迎撃に当たった第1騎士団が決死の防衛戦を展開していたが、その被害は甚大であった。第1騎士団長ハインリヒのまさに獅子奮迅の戦いで戦線が維持できているものの、いつそれが崩壊してもおかしくない状況であった。


 時を同じくして崩れ出した城壁をオークが乗り越え始めていた。壁を乗り越えてきたオークと義勇市民団が市街戦を繰り広げる事態となり、多くの死傷者が出始めていた。


 また期待された諸侯連合軍は昼過ぎには潰走状態に追い込まれており、とてもではないが援軍と呼べるような状態ではなくなっていた。それでも数多くのオークを道連れにしてくれたことは評価できるかもしれない。


 そしてついにアーマードタートルが城壁に肉薄したのである。


 城壁上ではAクラス冒険者であるマクガイヤーが指揮を執りアーマードタートルにあらん限りに矢を射かけていたが、それがどれほど効果があるのかははなはだ疑問であった。


 すでにガトリングガンの弾丸を撃ち尽くしていたスピネルとラピスラズリは城壁を飛び降り、地上でロックジャイアントと白兵戦を繰り広げていたためアーマードタートルに対する効果的な手が打てずにいた。

 今この状況でも鍛冶師たちはガトリングガンの弾丸を作っていたが、選別を行っている余裕がないためこれ以上ガトリングガンの火力には頼ることができなかった。


「リコリスがなんか手を考えているらしいぞ!野郎ども!ここは俺たちが何としても死守するんだ!」

 マクガイヤーは城壁の上で群がるハーピィを斬り伏せながら怒鳴るが、あの大亀がここまで来てしまったなら自分達では打つ手がないことは十分に承知していた。


 マクガイヤーはどこまでここで粘るかという極めて難しい判断を任されていた。あの大亀が城壁に体当たりをするような事態になればここにいることは極めて危険である。何といても城壁をはるかに上回る体躯を誇るアーマードタートルである。城壁など牧場の柵ほどの効果もないだろう。


 迫りくる巨大なアーマードタートルを睨みながらマクガイヤーは撤退のタイミングを計っていた。


 その時である。突如上空に黒い人影が現れた。

「暗黒の刃をその身に受けるがよい!ブラック砕波!」

 その男は空中に現れたかと思うと落下の勢いを得てアーマードタートルの左目を切りつけ、そしてまた空中で消え失せた。


 左目の上を大きく切られたアーマードタートルはその痛みに足を踏み鳴らし、尻尾を振り回し大暴れをした。その尻尾に巻き込まれたオークはどれほどいただろうか。少なくはない数のオークが尻尾に弾き飛ばされ、またその巨大な脚によって踏みつぶされることになった。


 黒衣の男は再び空中に現れ、今度はアーマードタートルの頭の上に飛び乗った。そしてその刃を幾度か足元に突き刺したが、アーマードタートルがその頭を城壁に打ち付けようとしたため、再び姿を消していなくなった。


 泡を喰ったのはマクガイヤーたち城壁上にいた者たちである。

「な、何だあいつは!あの黒ずくめは例のダーク・アポストルか?あいつ味方なのか?って!…うお!」

 突然暴れ始めたアーマードタートルが城壁に頭突きを敢行しようとしたため、マクガイヤーたちは慌てて退避することになった。

「退避!退避だ!巻き込まれるぞ!」


 マクガイヤーたちが大慌てでその場から退避するとアーマードタートルはその巨大な頭部を城壁に打ち付けた。その衝撃はすさまじく、轟音と共にまるで地震のように街を揺らした。

 城壁はもはやただの瓦礫の山と化してしまったのである。


「畜生!やっぱりあの野郎は俺たちの敵だったのか!」

 マクガイヤーは轟音とともに崩れ落ちる城壁を見ながらそう喚いた。


 ダーク・アポストルとしてはヘルツォーゲンが壊滅してしまわないように手助けをしたつもりであったのだが、誰一人としてそのように受け取る者はこの場にいなかった。

 しかも結果として城壁の崩壊を早めることになってしまったのだ。はっきり言って大迷惑である。


 そのアーマードタートルのはるか上空では小さな龍が呆れたようにダーク・アポストルと破壊された城壁を見守っていた。




 ハインリヒ率いる第1騎士団はオークキングと死闘を繰り広げていた。オークキングの武威は圧倒的で、配下の騎士が次々と斬り伏せられていく。

 鉈のような巨大な剣を振り回すオークキングに騎士たちは勇敢に立ち向かった。しかし、オークキングは大森林最強の存在の一角である。ハインリヒを含め、有効なダメージを与えることができずに、じりじりと後退をせざるを得ない状況であった。


 ハインリヒ自身も多くの傷を負い、すでに右目は深い傷で失明していた。

 それでもハインリヒは決して引かなかった。この化け物をこれより先に進ませるわけにはいかない。自分達より優秀な戦力は今のヘルツォーゲンにはないのだ。

 騎士の名誉にかけて引くことはできない。


 しかし、騎士団はすでに壊滅状態である。ハインリヒの体力もすでに限界が近かった。

 そんなハインリヒにオークキングの大鉈が迫る。右からくる攻撃は両手持ちの大剣、オーガ―キラーで防ぐことができたが、同時に左から横なぎに襲い掛かってくるもう一本の大鉈に対してはもはや防ぎようがなかった。

「くっ!ここまでか!」


 ハインリヒがいよいよここまでかと覚悟を決めたが、その横なぎの一撃がハインリヒの命を奪うことはなかった。

 突然疾風のように飛び込んできた小さな人影が二人、その大鉈を持っている刀で受け止めたのだ。


 スピネルとラピスラズリである。彼らは二人横に並ぶ形で真横から襲い掛かってくるオークキングの大鉈を受け止めていた。


 ハインリヒは眼をむいた。この小さな体であの強大な攻撃を受け止めたのだ。しかも彼らは戦士ではなく、錬金術師の弟子ではなかったのか。

 ハインリヒはここまでオークキングと死闘を繰り広げてきただけに、スピネルたちの格闘能力が尋常ではないことをすぐに理解したのだ。


 彼らはすぐに態勢を整え、オークキングに襲い掛かる。そのまさに二人の息の合った連携攻撃に、膝をついたハインリヒは思わず目を奪われた。

 一撃でも貰えばバラバラにされてしまいそうなオークキングの大鉈を器用にかいくぐり、確実に有効打を与え続けているのだ。


「ハイオークどもを彼らに近づけさせるな!」

 周りにいるハイオークもオークキングの周りには近づけない。ハインリヒはすかさず騎士団と近くにいる兵士団にハイオークの排除を命令した。


 騎士たちは即座に対応した。兵士たちも負けてはいない。騎士と兵士が連携してハイオークを討ち取っていく。普段合同で訓練などしたことがない騎士団と兵士団がこれほど息の合った連携を行えるなど誰が想像しただろうか。

 それほどまでにこの戦いは過酷であり、自然と彼らの間に連帯感を生みだしていたのだ。


 スピネルとラピスラズリは舞うように攻撃を繰り出す。いらだったオークキングは大鉈を振り回し彼らを排除しようとするが、そのたびに体のどこかに傷を負っていく。

 しかし、オークキングは受けた傷をたちどころに回復してしまう。多少のダメージなどものともしないその回復力はトロールもかくやといった速度であり、スピネルとラピスラズリの攻撃も足止めをする以上の効果は得られていない。


「くそ!せめて魔術師がいれば!」

 ハインリヒも気力を振り絞り、周りに押し寄せてくるオークやハイオークを斬りながら魔術師の不足が深刻であると痛感していた。


 魔術師といっても、このような状況で一発逆転を行えるような便利な存在ではない。規格外の化け物であるオークキングに対して、例えば筆頭魔術師であるコンラートですら効果的な魔術など持ち合わせていないのだ。


 それでも身体強化の一つでもあればと願ってしまうほどにオークキングの力は強大であったのだ。


 スピネルとラピスラズリはよく戦っていた。

 彼らはオートマタである。魔力リアクターが十全に動いている限り、彼らは疲れ知らずで動くことができる。通常の人間では疲労で動きが悪くなるところであるが、彼らにはそれがない。またもとより連携に定評がある双子のオートマタは、オークキングを倒せないまでもその足を止めることには確実に成功していた。


 オートマタ達とオークキングの戦いはまだ始まったばかりであった。




 リコリスはコンラートと共に出来上がったばかりの対大亀用兵器を抱えて東門に向かっていた。

 すでに市街地においてはオークと義勇市民の戦いが始まっており、リコリス自身もオークを排除しながらの移動である。


「リコリス殿!こちらでござる!」

 そんなリコリスを先導するのはシロウだ。彼はオークが市街地に侵入したのを見て即座にその対応に当たっていた。

「シロウさん!アーマードタートルは?」

「もうすぐそこまで来ているでござる!対処できるでござるか?」

「はい。対アーマードタートル用の武器は作ることができました。」

「家宝のオリハルコンの盾を使った武器だぞ。効果がなかったでは済ませられんぞ。」

 コンラートがリコリスに並走しながらそう答えた。

 コンラートには悪いが、リコリスにしてもこれがどこまで有効であるのかは使ってみないことにはわからない。

 少なくともオリハルコンのジャベリンを弱点に撃ち込むことができるなら、それなりに効果はあるはずである。

 かつての戦士は伝説級の武器でアーマードタートルを倒しているのだから。


 リコリスたちが城壁に辿り着く少し前、ヘルツォーゲンの街に轟音と地響きが響き渡った。まさにその時、アーマードタートルがダーク・アポストルを振り払おうと城壁に頭突きを行ったのである。

「今の地響きは!」

「いよいよ不味いことになっているかもしれないでござるな。」

「急ぎましょう。」


 アーマードタートルにはそれほど大きなリジェネレイト能力はない。ヘルツォーゲンの城壁を大破壊するという非常に迷惑な結果にはなったが、ダーク・アポストルが行った攻撃はそれなりのダメージを与えていた。


 彼は極めて重篤な中二病患者ではあったが、彼が望むような世界に転移したことで元の日本では痛々しいその振る舞いもこの世界では割と受け入れられていた。

 しかもそれなりに強い。いやそれなりどころかこの世界基準であるなら無双レベルである。


 そもそもがダーク・アポストルも転生者である。彼の持つ武器は神話級でこそなかったが、伝説級の武器の中でも最も神話級に近いと言われている短剣「ジャックザリッパー」である。

 極めて不吉な名を持つその短剣は使用者にクリティカルヒットと回避、そして逃走のボーナスを与える。まさに暗殺者垂涎の武器なのだ。


 もちろんこの武器はダーク・アポストルにとって大のお気に入りであった。なんといっても名前がカッコいい。かつてロンドンを震撼させた伝説の殺人鬼の名を冠したその短剣は性能だけでなく、見た目、そして名前的に彼の中二心を十分に満足させてくれていた。


 アーマードタートルの頭上からショートテレポートした彼は、フライでアーマードタートルの頭付近を飛んでいた。彼はまだ攻撃を続けるつもりでいたが、連続してテレポートを使用した為そろそろMPが心もとなくなってきた。少なくとも最後にはテレポートでこの場を離れないことにはいろいろ面倒なことになることくらい彼も理解していた。


 リコリスたちは城壁付近に辿り着いてそして唖然とした。

 完全に城壁は破壊され、巨大な亀の頭が城壁内に入り込んでいたのだ。

 その大亀は頭を大きく振り廻し、そのたびに城壁を削り取るように破壊していく。そして一歩ずつ元の城壁を超える高さの脚で城壁内にその歩みを進めてくるのである。


「こ、これは!」

 コンラートは言葉を失った。こんな化け物どうやって倒すのだ。


「あれは…?ダーク・アポストル?」

 リコリスはその大亀の頭の周りを飛び回る黒ずくめの男に気が付いた。

「ダーク・アポストル!何をしているの?!というか、まだいたの?」

 リコリスは大声でダーク・アポストルに問いかけた。


「まだいたの?とはまたずいぶんな言い草だな。こいつは予定外だから手伝ってやっているのだ。この俺様に感謝するがよい。」

 そう言いながらダーク・アポストルはリコリスのところまで下りてきた。

「私達を助ける気?あなたが?訳が分からないわね。」


 会話を聞いていたシロウも驚いた。

「ダーク・アポストル!?あのマーキナ事件の時の男でござるか!」

「ほう。サムライか。ほうほう。これは初めて見た。興味深い。」

 ダーク・アポストルとてもとは日本人である。サムライであるシロウを見て目を輝かせていた。きっと中二病魂を大きく刺激されたのであろう。


「手伝ってくれるというなら何でもよいわ。あの大亀の首を動かないように固定しなさいよ。」

「はあ?何言ってんだおまえ。何でそんな無茶ぶりを俺に言う?」

「誰かがそれしてくれなくちゃ、この武器うまく当てられないじゃない。そんな役目、あなたしかできないでしょ?」

 リコリスの無茶ぶりにダーク・アポストルは呆れた半面、なんとなく頼りにされているような口ぶりにうれしく思ってしまうのであった。


「仕方がない。そこまでこの俺様を頼るというなら今回だけは力を貸してやろう。ふっ。幸運に思うがよい。この暗黒神の使徒たるこの俺が助けてやるのだ。感謝するがよい!」

 そう彼はニヒルに言い放つとフライで飛び上がった。ちなみに彼はニヒルに言い放ったつもりであったが、周りの人間には頼られているのがうれしい子供のような良い笑顔に見えていた。


 案外良い奴かも知れぬな。シロウは何となくそんな風に思った。


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