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リコリス魔法商会  作者: 慶天
1章 魔法屋の女主人
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とある冒険者の証言2 アルベルトさんの話

 私達はヘルツォーゲンの冒険者ギルドに登録するチーム「魔女の銀時計」です。こう見えてもチームとしてのランクをつい最近「C」に認定していただきました。シルバータグの中堅の上位とみなされる位置付けです。

 まずは私のパーティを紹介しましょう。

 私の名前はアルベルト。チームのリーダーで戦士をしております。冒険者歴は10年以上になり、個人ランクは「C」です。


 ドワーフのバルドル。両手持ちのハンマーを操る重戦士です。歴戦の戦士であり、年齢も経歴も不明ですが、ドワーフ特有の頑丈な体と不屈の精神を持つ頼りになる存在です。個人ランクは「C」です。


 そしてレンジャーのドーリス。森での移動に長けたパーティの目です。またシーフスキルも持っているので、潜入や罠の解除などもできるチームには不可欠な女性です。いつも明るいブラウンの髪の毛をポニーテールにした美人さんです。ランクは彼女も「C」です。


 私たちのパーティには他のパーティにはない強みが2つあります。それが今から紹介する二人の存在です。

 一人目は魔術師エリーザ。エリーザは17歳にして第三位階の魔法を使いこなす若き天才なのです。少し癖のある金髪を肩まで伸ばしたまだ少し幼さが残る女性です。

 通常魔術師は第三位階が扱えるようになると一流と言われ、無条件に冒険者ランクは「B」になります。当然エリーザもランク「B」ゴールドタグ持ちです。

 エリーザの才能からすればもっと上の位階も扱えるようになるのではないかと思いますし、そうなると宮廷魔術師という道も開けてきます。まだ17歳という若さなので将来は魔女カタリナに匹敵する魔術師になるのではないかと噂する者もいるほどです。


 もう一つの強みは治癒術師クラーラの存在です。

 治癒術師は冒険者にほとんどいません。なぜなら教会がすべての治癒術師を囲ってしまうからです。教会は怪我の治療を行ってくれますが、その際には必ず「浄財」を要求します。

 これは教会の言い分によると、神の奇跡を濫用するのは神を冒涜する行為になるため、できるだけ奇跡に頼らない生活を心がける必要があるからだ、だそうです。


 教会の言い分もわかりますが、冒険者家業に怪我は付き物です。危険な魔獣討伐などを行うときは教会に人材の派遣をお願いするのですが、派遣料としてお金を取られてしまいます。だから、教会はフリーな治癒術師を見つけると多少強引な方法ででもその人物を教会組織に取り込んでしまうのです。


 クラーラは私たちのチーム「魔女の銀時計」のレンジャー、ドーリスの妹さんです。以前はシュライブベルグの街でシスターをしていたのですが、リコリスさんの一件でヘルツォーゲンに一緒に移住しました。そこで彼女も冒険者として登録をし、表向きは「バード」としてパーティに付いてきているという事にしました。

 実際クラーラは竪琴を得意としており、また歌もうまかったため誰も疑問には思わなかったようです。ただ、「おまえたちの冒険を歌にするのか?」と周りの同業からからかわれることになりましたが。


 私達には目標があります。それは「伝説の大魔女カタリナ」の遺産を探し出すという、ロマンあふれる目標なのです。

「魔女カタリナ」は500年前に実在した大魔術師で、おとぎ話にも出てくることからこの国で知らない人はいないほどの有名人です。実際この国で流通している紙はカタリナの発明品と言われ、その他にも各地に魔獣討伐の伝説が残されています。


 そして私達には魔女カタリナにつながる特別なアイテムがあります。私達のチーム名「魔女の銀時計」はそのまま魔女カタリナが使っていたといわれる銀時計から名前を頂いたものなのですが、魔術師エリーザはその銀時計を所持しているのです。もちろんこれはパーティだけの秘密です。


 エリーザが持っている銀時計は一般的に使われる時間の数え方とは全く異なっており、1日を24等分し、それをさらに60等分するという時間の数え方をします。もっと細かく時間を数えることもできます。


 一般的な時間の数え方ではそんな細かく時間を区切ってもあまり意味がないので1日を12等分することしか行われていません。

 大体日の出を朝1つ、1刻ごとに朝2つ朝3つと数え昼1つが正午になります。そしてまた1刻ごとに昼2つ、昼3つと数え、夜1つが日の入りです。夜の間は1刻ごとに夜2つ、3つと数え夜6つの次が朝1つになります。


 私達も当然そういう時間の数え方で育ってきたのですが、この魔女の銀時計を見てから時間に対する考え方が一変してしまいました。季節により昼と夜の長さが違うのですから、従来の方法だと1刻の長さが季節によって変わってしまいます。それでは正確な労働時間の測定などもできないのではないでしょうか。

 もっとも、「そういうもの」として誰もが暮らしていますので、魔女の銀時計を見てしまった私たちが異質なのかもしれません。


 私達は今、大森林の調査に赴いています。大森林とはヘルツォーゲンから徒歩で5日ほどの所から東に広がる人跡未踏のジャングル地帯のことです。いったいどれだけの広さがあるのか全く分かっていません。少なくともこの国3つ分以上の広さがあるのではないかと言われています。


 その大森林の調査とは何をするのかと言えば、大森林の中にある湖のそこにしかない花を一輪摘んでくるという事です。もちろんそれは調査をしたという証拠に持ち帰るだけであって、本当の目的はオークが増えすぎていないかの調査なのです。もちろんオークを討伐して耳を切り取って帰れば報酬がいただけますので倒してしまってもかまいません。


 オークは稀に恐ろしい現象を引き起こします。今から100年前、「オークの狂化」という現象が起きました。なんと10万匹以上のオークの大軍がヘルツォーゲンに押し寄せるという未曽有の大災害が起きたのです。その時は近隣の街や王都から騎士や戦士が派遣されヘルツオーゲンの冒険者も迎撃に当たったということです。

 大規模野戦の末オークキングを討ち取り、オークの狂化は収まったのですが人類の受けた被害も甚大で、シャルフェン王国の国力は一気に下がってしまいました。多くの騎士や戦士を失ってしまったのです。


 そこをつくようにジークルーン帝国がアウレール平原に侵攻を始めたのです。それが王国と帝国の100年に渡る戦争の発端と言われています。

 それからヘルツォーゲンには10メートルを超える城壁が作られ、年に数度大森林の調査が行われることになったのです。


 この調査に抜擢されるのはヘルツォーゲンの冒険者として名誉なこととされています。この依頼はギルドから直接名指しでされるのですが、少なくともランクC以上でなければ依頼されることはありません。私達も今回初めて調査依頼を受け、大変喜んだものです。

 もちろんそれだけ危険が伴う調査だという事が言えます。実際、大森林は地図も満足に無く、オークのみならずオーガやトロールといった凶悪なヒューマノイドモンスターやバジリスクなどの危険極まりない魔獣も存在しているのです。

 前回調査に赴いたオイゲンさんはヒュドラを見かけたと報告しています。そのような恐ろしいモンスターに遭遇しないことを祈るのみです。


「だぁあああ、走れー!」

「なんでトロールなんているのよー!」

「しゃべっとらんと走らんと舌をかむぞい!」

「ク、クラーラ!リコリスから何か買ってないのかい!?」

「えと、えっと!」

 オークの集落を見つけたので少し間引いておこうという事で戦闘を開始したところ、突然トロールが奥から現れました。以前、アインさん達と一度倒したことがありますが、今回はアインさんもいません。私達もあれから少しは強くなったと思いますが、やはりトロールはやばいです。即時撤退を選択しました。が、そうやすやすと逃がしてくれるわけもなく、現在絶賛逃走中です。


「えっと、これだ!」

 クラーラが何か後方に撒き散らかしました。なにやら4本の親指ほどの長さの針を組み合わせたアイテムです。このアイテムは地面に落ちるとどの様に落ちても1本の針が上に向くようになっているようです。

 追いかけてきたオークの一団がこの針を踏むと足の甲を貫通したらしく、悲鳴と共に追撃の速度が緩みました。これは逃走に良いアイテムです!


 しかしトロールは怯みません。驚異的な回復力を誇るトロールにとってそのような針など歯牙にもかけないようで、どんどん追いかけてきます。

「今度はこれよっ!」

 クラーラはトロールに向かって何かボールのようなものを投げつけました。

「みんな前を向いて!」

 クラーラが叫ぶと我々はその通り前方を向いて一心に走り出しました。

 その瞬間後方で爆発的な光が炸裂したのが分かりました。

 以前はエリーザのライトの魔法で目くらましをしたのですが、この光はライトよりもはるかに大きく明るく感じました。ただ、ライトと違い一瞬だけの光の様ですが、逃走するにはこれで十分です。トロールが目をかきむしっている間にどうやら逃げることができたようです。


 一応今回の調査は成功となりました。ギルドに証拠となる「湖水蓮」を収めて報酬をもらうことができました。オークの集落も一つつぶすことができましたのでそれなりの評価を受けることができたと思います。報酬はパーティで銀貨50枚です。それにオークの耳を幾つか納品し、その他の採取品と合わせて全部で銀貨60枚といったところです。

 それにしても今回はリコリスさんの作ったアイテムがなければトロールにやられていたかもしれませんでした。今まではこのようなアイテムを売っているお店がなかったのでこういった使い方を知ることもなかったのですが、これからはもっとアイテムを駆使した冒険のやり方を考えなければなりません。


 さて、とりあえず消費したアイテムの補充とクエストの報告を兼ねてリコリス魔法商会に行きますか。うまくいけばキャロットさんの手料理に在りつけるかもしれませんしね。


 リコリス魔法商会アイテムNO.11

「まきびし」

 お値段一個銅貨7枚(10個セット大銅貨5枚)。

 4本の針を組み合わせ、設置時常に一本の針が上を向くようになっています。

 針の長さは親指ほどですが、踏み抜くと足の甲を貫通します。

 危険なモンスターから撤退するとき、後方にばらまくと効果的です。


 リコリス魔法商会アイテムNO.12

「閃光玉」

 お値段一個銀貨1枚。

 投げてからすぐに強烈な閃光を放ちます。

 直接見ると目を傷めますので絶対に閃光を直視しないでください。

 戦闘時や撤退時の目くらましに使用します。


 リコリス魔法商会アイテムNO.13

「爆音玉」

 お値段一個銀貨1枚。

 閃光玉は光を発するのに対し、こちらは高周波の爆音を発します。

 モンスターの中には音に敏感に反応するものもあります。彼らの聴覚を狂わします。

 使用するときは耳をふさいでください。


 リコリス魔法商会アイテムNO.14

「超匂い玉」

 お値段一個銀貨1枚。

 とてつもない悪臭を発します。取り扱いは特に注意してください。

 モンスターの中にはにおいに敏感なものも多くいます。彼らの嗅覚を狂わせます。

 本当に取り扱いには注意してください。くれぐれもです。お願いしますね。


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