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リコリス魔法商会  作者: 慶天
1章 魔法屋の女主人
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アインフォードの独白

 えーと。はい、アインフォードです。

 リコリス魔法商会はシュライブベルグでリコリスを保護した後、リーベルト辺境伯領都ヘルツォーゲンにリコリスが開いた店です。錬金術師であるリコリスは冒険者登録を済ませたのですが、研究の方を中心にしたいという事なので、いっそ魔法屋を開きそこで作ったアイテムを販売してはどうかという事になったのです。


 これには私の意図も少しあります。リコリスは200年引きこもっていた筋金入りのニートです。やはり誰でも一人でうじうじ考え込んでいると発想はマイナスな方向に行ってしまいがちです。なので、リコリスには多くの人と交流を持ってもらおうと思ったわけです。

 死にたがりのリコリスがいつか本当に人とのつながりを大切に思える日が来れば、それこそがリコリスのお父さま、大錬金術師ラケルス師の願いではないかと思います。


 ただ問題はお店を開く場所の確保であったのですが、それは意外なほどあっさり解決しました。

 ちょうど良い物件はないかと商業区を歩いていると運よくというか悪くというか、騎士フランツに見つかってしまったのです。騎士フランツは齢60歳の高齢ですが、以前『ヴァルト村盗賊事件』の時に共闘した関係で、私たちの事をずいぶんと買ってくれています。早速屋敷に連れていかれて私、キャロット、リコリス、エイブラハムの3人と一匹は御馳走を振舞っていただけました。


 さすが騎士様、非常に美味しい料理を食べさせてくれました。この世界では香辛料は貴重なようで、なかなか口にすることができません。貴族や豪商など一部のお金持ちでないと口にすることができない高級品なのです。


 その場でリコリスは腕の良い錬金術師でこの街で魔法屋を開きたいという話をすると、騎士フランツは現在空き家になっている元商店をあっという間に見つけてくれたのです。さすが騎士様、貴族様です。

 それにしても初めて会ったリコリスの事をそんな簡単に信用してよいのかと思いましたが、アインフォード殿が推薦する人物なら問題なかろう!と豪快に返されてしまいました。このおっさんどこまで私の事を買ってくれているのでしょうか。


 ところで私ことアインフォードはいわゆる異世界転移者です。西暦2030年の日本で暮らすバツイチサラリーマンです。いや、でした。

「ソウル・ワールド」というVRMMOゲームのサービス終了日をネットカフェでプレイ中、火事に巻き込まれた挙句気がついたらその「ソウル・ワールド」に酷似した世界にアバターの姿と能力で転移していました。


 幸いなことにレベルカンストまで遊んだゲームでしたので、即座に死につながるといったこともなく生活できるようになりましたが、この世界の力ある者の強さのレベルが分らなかったので、できるだけ目立たないようにここまで過ごしてきたのです。

 ですが、どうやら強者と言われる戦士でもレベル30もなさそうです。このアバターのレベルは99ですのではっきり言って無双できるレベルと言えそうです。その気になれば国盗りまでできそうな気もしますが、今のところそんなことをする気もありませんし、国を治めるなど出来る気がしません。

 しかし言葉が通じなかった時は焦りました。この世界に来て半年ほどでようやく不自由ない程度には喋れるようになりましたが、文字はまだ少しだけしか書けません。


 そして、私と一緒に転移したのが「従者NPC」であるキャロットとちびドラゴン、エイブラハムです。エイブラハムは私の従者NPCではなく、リアル元嫁であるカタリナのNPCなのですが、なぜか私と同じ所に転移してしまったようです。そのカタリナはこの時代より500年も前に転移していたようで、もう会う事すらかなわぬ存在になってしまいました。

 その事実を知ったときはさすがに凹みましたよ…。


 異世界転移者がどれくらいいるのか今のところ不明です。ひょっとしたら隠しているだけで大量に存在するかもしれませんし、今わかっている人物だけしかいないのかもしれません。なにせ転移した時代がバラバラなのですから、この時代にまとまって転移しているとも考えにくいのです。


 異世界転移者にとって最大の懸念は元の世界に戻れるのか?という事なのですが、これが全く分かりません。そもそも私の最後の記憶は火事による爆発に巻き込まれたというところです。果たして生きているのかどうかも不明なのです。


 そしてさらに問題なのは「ソウル・ワールド」はサービスが終了しているはずだという事です。万が一、私が元の世界に戻れたとしてキャロットやエイブラハムはどうなるのでしょう。彼女らに帰る世界はないはずです。たかがNPCのことだと切り捨ててしまうことができるほど私はドライではなかったようです。キャロットとエイブラハムはこの世界における大切な相棒なのです。


 リコリスはとある依頼で隣領シュライブベルグに行ったとき、その事件の首謀者として出会うことになりました。真祖ヴァンパイアであるリコリスはキャロットと同じく、錬金術師ラケルスという人物の従者NPCでした。


 このラケルスという錬金術師は私と同じく異世界転移した人物だと思われるのですが、今より約200年以上前に転移していたようなのです。賢者の石とパラケルススの外套を持つ本当に最高レベルの錬金術師だったようです。


 リコリスは錬金術師ラケルスを「お父さま」と呼び敬愛していました。ところがラケルスはヒト種だったためおそらく寿命でこの世を去ってしまったようなのです。真祖ヴァンパイアであるリコリスはその後200年、どうやったら自分は死ねるのかのみを考え暮らしていました。

 そうしてリコリスが出した結論は「自分より上位のアンデッドを召喚し、自分もろとも消滅させる」というとんでもない手法だったのです。

 200年考えて編み出した方法ですので、リコリスなりに勝算があったのではないかと思います。


 ですが、結果としてリコリスは消滅せず呼び出したエルダーリッチが暴走するという最悪の事態になってしまったのです。冒険者チーム「魔女の銀時計」と協力してこのエルダーリッチを倒すことができましたが、下手をすればシュライブベルグは死の街に変貌してしまうところでした。

 その後リコリスを後見人という形で私が引き取ることになり、シュライブベルグからヘルツォーゲンに移り住むことになりました。


 リコリスはラケルス師より、「錬金術師の弟子」というクラスを与えられていました。弟子とはいえこの世界の錬金術師など全く相手にならないくらいの高レベル術師です。おまけにラケルスが所持していた賢者の石とパラケルススの外套を装備し、真祖ヴァンパイアの能力を持つのです。まともに戦うことになったら私ですら苦戦するでしょう。


 それほどまでに高い戦闘力を持つリコリスが、まさかチンピラからレイプ被害を受ける直前まで追い込まれていたというのは想像もできないことでした。


 たしかに、リコリスはもともと従者NPCですので少々一般常識に疎い面が見られます。これは同じ従者NPCであるキャロットにも当てはまりますが、もともとゲームのNPCなのですから日常生活の常識に疎いのはある意味仕方のないことでしょうか。


 それにしても服を破られるまでしても危機感を持たなかったというのは、やはりちょっと問題ですね…。


 えっと、武器屋のリーフマンさん、そろそろ勘弁してください。もう1刻以上正座していますので足が限界です。


 リコリス親衛隊なる組織がいつの間にかできていたことを知ったのはもう少し後になってからでした。


 リコリス魔法商会アイテムNO.08

「賢者の石」

 製作不能。

 錬金術で作りえる最高のアイテムです。

 鉛を金に錬金、死者の復活、人工生命体の作成など出来るといわれています。

 残念ならが店主の能力では作成不能です。


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