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リコリス魔法商会  作者: 慶天
2章 領都祭
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領都祭 5 喫茶リコリス

 領都祭も中盤に差し掛かってきたある日、合同結婚式が執り行われました。

 ヘルツォーゲンではその年一年間で結婚したカップルはこの領都祭の中で神殿長より祝福を授けられ、晴れて夫婦と認められるという慣習があります。

 もっとも、それはあくまで貴族階級の話であり、一般庶民は家族間で結婚をお互いに認め合ったならすぐに同居を行いますので、あくまでもケジメという意味合いが強いようです。

 そのため、この日は新郎新婦を祝うお祭りといった要素が強く、神殿で祝福を受けた後は街中で披露宴ともいうべき宴会がそこかしこで行われることになるのです。

 当然、新郎新婦はこの日の主役ですので、目いっぱい着飾って友人知人の、またはなかなか結婚できない者たちから手荒に祝福されるのです。

 次の日には酔っ払った、主に結婚できない男たちの屍のような姿を見かけることも珍しくないという事です。

 今日は領都祭の日程の中でも街中が最も賑やかになる一日でしょう。


 そう言う事もあり、今日はお店もあまりお客様がいらっしゃいません。皆さん知り合いに結婚される方がいらっしゃる場合、宴会をはしごして御馳走やお酒を楽しんでいるのでしょう。

 あらかじめ今日は暇になるだろうと言われていたので、店番は私一人です。


 …そのはずだったのですが…。なぜか店の一角にテーブルが設置され、3人の男たちが顔を突き合わせています。仕方ないのでお茶だけは淹れて差し上げました。


「やっぱり俺はアインさんだと思いますね。」

「うむ、拙者もアインフォード殿が最有力であると思う。」

「おめーら、ずいぶんあいつ贔屓じゃねーか。俺はマクガイヤーに賭けるがなぁ。」

 順にアルベルトさん、シロウさん、ギルド職員のウドさんです。そう言ったお話ならギルドの談話スペースでやっていただきたいものなのですが…。

「リコリスさんはやっぱりアインさんに賭けるんだろう?」

 アルベルトさんが私に話を振ってきました。まあ、お店も暇なのでよいのですが…。

「そうですわね。私としましては恩人であるアインフォード様を押したいところですわ。」


 何の話かと言えば領都祭のメインイベントの一つ、闘技大会決勝のトトカルチョについてなのです。


 アインフォード様は順当に予選決勝も勝ち上がり、決勝トーナメントにコマを進められました。昨日までで予選会場すべてで決勝進出者が出そろいましたので、優勝者の予想もあちこちで行われているのです。

 それにしても今日は合同結婚式なのですのに、この方たちはこんなところでくすぶっていていいのかしら。というか、ここは喫茶店ではありませんでしてよ?


「しかし、あのマクガイヤーの実力は本物だぞ?伊達にAランク戦士はやってねーぞ。」

 ウドさんはマクガイヤーさん押しであるようです。

 マクガイヤーさんはAランクチーム「金杯」のリーダーで巨大なハルバードを扱う戦士と聞いています。一度このお店に来て「鳥寄せのオカリナ」を売ってくれました。


「っていうか、ウドさんギルドはいいんですか?」

「ああ、今日は非番だぜ。俺だってたまには羽を伸ばさねーとな。」

 このウドさんというギルド職員、見た目はどう考えてもまっとうな職に就いているとは思えない強面の悪人面です。しかもスキンヘッドです。しかし、ぶっきらぼうで口も悪いですが意外と仕事は丁寧で、面倒見も良いとアインフォード様はおっしゃっていました。

 なんでもアインフォード様たちがこの街に初めて来たとき、色々お世話になったらしいです。


 で、なぜこの3人が私の店でたむろしているかというと…たまたまと言うしかありません。

 最初アルベルトさんが折り紙を買いに来てくれたのですが、次に現れたシロウさんがそれを見て大層興味を示されました。なんでも故郷のジパンの国に同じようなものがあるとかで、大層懐かしいとおっしゃっていました。

 アルベルトさんはクラーラと一緒に孤児院に差し入れを持っていこうと折り紙を買いに来てくれたらしいです。


 そこに現れたのがウドさんです。ウドさんがこのお店に来てくれたのは初めてなのですが、何か必要なものがあるのかと思えば、まだ来たことがなかったので一度どういう店なのか見ておきたかったという事でした。

 ウドさんの眼鏡にかなえばギルドで紹介してくれるかもしれませんので、それはそれでうれしい話なのですが。


「でな、今回の闘技会、一人やばいのがいるって話だぜ。」

「やばいの、でござるか?」

「ああ、予選大会で今回死者が二人出てるんだが、両方ともそのやばい奴が相手だったらしいんだ。」

 予選大会は木剣で行われると聞いています。確かに打ちどころが悪ければ命にかかわることもあるでしょうが、それでも同じ選手が行ったとあれば注目されますわね。

「え?同じ人が死亡事故を起こしたってことですか?」

「ああ、そうだ。そいつは予選大会からフルプレートにフルフェイスのヘルムで登場して木剣で相手ののどを突きつぶしたらしい。確かに反則ではないが、そこまで危険なことを狙う奴は珍しい。」


「ギルドに登録のある者でござるか?」

 なんとなく私も気になってお話を聞いておくことにしました。アインフォード様と当たるかもしれませんし。

「いや登録はない。名前はたしか、マーキナだったと思う。俺も聞いたことがない名だ。名前の響き的には聖国あたりの名前なんじゃないかと思うんだが…。」

「あの、聖国って大天主教の総本山と言われるあのアルメンダリス聖国ですか?」

 アルベルトさんが聖国と聞いて不思議そうな顔をしていらっしゃいます。確かにアルメンダリス聖国はこのヘルツォーゲンの地からはるか遠くの国です。ちょっと行ってくるというような距離ではありません。


「いや、そのマーキナっていうのが聖国出身かどうかは知らねぇがな。このあたりの名前じゃねぇだろ?」

「確かにあまり聞かぬ響きでござるな。」

 まあ、「シロウ」という名前はさらに聞きませんけれどね。

「それにしてもそんな危険な奴が参加してるのか。アインさん大丈夫かな?」


「それにな、そいつ変わってるのはその凶悪な戦い方もなんだが、装備もちょっと独特でな。なんか背中にでっかい箱みたいなのを背負ってやがんだ。それが何なのかはわからねけどよ。普通そんな邪魔になりそうなもの担いで戦うとかねぇだろ?」

「そうでござるな。何か意味があるのであろうな。」

「それとよ。なんか貧相な小男がセコンドについているらしい。どうにも戦いの指示を出しているのはそいつじゃないかって噂だぜ。」

 背中に箱を背負った戦士に小男のセコンドですか…。


 そんな話を聞いていると入口からカランカランと音が聞こえお客様がいらっしゃったようです。

「いらっしゃいませ…。あ、フランツ様、良くお越しくださいました。」

「おお、リコリス君相変わらずきれいだの。」

「あら、フランツ様、褒めても何も出ませんわよ。」


 そのような軽い挨拶をかわしているとフランツ卿は闘技会の話をしている3人に目を移しました。

「なんじゃ、ウドじゃないか。お前さんギルドの仕事はどうしたのじゃ。」

「お?おお!クンツの親父じゃねーか。おっと今はフランツ卿と呼ばないとまずいか。」

「ふん、お前さんからそんな風に言われると気色悪いわい。」

 どうやらフランツ様とウドさんはお知り合いの様です。

「こんなところで何を油売っとんじゃ。こやつらはお前んとこの若手かの?ああ、リコリス君わしにもお茶を入れてくれんかの。」

 …だからここは喫茶店ではないとあれほど…まあいいですわ。フランツ様はがたがたと椅子を引っ張って3人のテーブルに合流しました。


「ウドさんはフランツ卿とお知り合いなので?」

 アルベルトさんは意外なものを見るようにウドさんに尋ねられましたが、答えたのはフランツ卿でした。

「おお、ウドとわしは昔を共に戦った事もあるのじゃ。まだ騎士になったばかりの事じゃがな。」

 フランツ様は今回男爵になられましたが、騎士時代にウドさんとモンスター討伐などを行ったことがあるという事でした。


「で、何の話をしておったのじゃ?」

 フランツ様は私が入れたお茶をすすりながらウドさんに今までしていたお話を聞いています。

「ああ、今回の闘技会、ちょっとやばい奴がいるという話をしとったんだ。」

 そういうとフランツ様は表情を少し厳しくされておっしゃいました。

「マーキナ、という奴の事か?」

「フランツ卿、知っているのでござるか?」

「いや、そのことでわしもアイン殿に話をしようと思ってここに来たのじゃ。」

 どうやらだいぶ噂になっているようですね。そのマーキナという人物は。


「それで、アイン殿は今日は居らんのかの?」

「はい、アインフォード様はキャロットさんと図書館に行ってらっしゃいます。お帰りは夕方になるかと。」

「ふむ…。ではリコリス殿わしの話を聞いておいてくれぬか。わしもライナーが今回決勝に出るのでそのマーキナという人物が気になってな。ちょっと調べたんじゃが不気味なほど何も出てこんのじゃ。わかったのは締切り直前に登録がされたという事と流れの武芸者を名乗ったという事だけじゃ。」


「フランツ卿が気にするほどその人物は強いのでござるか?」

 シロウさんも気になるようです。

「うむ。対戦した者から聞いたところでは強いのは間違いないらしいのじゃが、なんというか初めから殺す気でかかってきているという話じゃ。実際それで死者も出とるしな。」

「なんですかそれ、めちゃめちゃやばい奴じゃないですか。」

「そうなんじゃが、そのマーキナには小男の主人がいるようでな。その主人がそのように指示を出しているらしいという話じゃ。むしろ問題なのはその主人かも知れん。」

 セコンドにいるという小男の事でしょうか。


 カランカランと音がし、また誰かいらっしゃったようです。なんとなくお客様ではないような予感がしましたが、基本通り「いらっしゃいませ」といいながら玄関を見ました。

 するとそこにいらしたのは騎士ホルスト様です。ということはヘルミーナ様が来たのかしら?

「いらっしゃいませ、ホルスト様。今日もヘルミーナ様のお供でしょうか?」

 いつもはきちんと騎士鎧を身に着けていらっしゃるホルスト様ですが、今日は鎧ではなく私服のようです。しかも、貴族的な華美な服装ではなくどこかの商家の跡取りという感じの、少しラフな格好をしておいでです。

「いや、今日は別件で来させてもらった。…こちらにアインフォードという名の冒険者は居られるだろうか?」

 やはりお客様ではなかったようです。

「アインフォード様は本日外出されており、お帰りは夕方になる予定です。」

「そうなのか…。ん?フランツ卿ではありませんか。このようなところでお会いすることができるとは思いませんでした。」

「おお、そなたは騎士ホルストじゃったな。ヘルミーナ様付きだったかの。アイン殿に用があった様じゃが、もしかして闘技大会の事か?」

 ホルスト様は少し驚いて頷きました。

「ということはこちらに居られる皆さんもその件で?」

「まあ、今はそう言う話をしておったのじゃ。」

「なるほど…。リコリス殿、私にもお茶を入れていただけぬであろうか。」

 そう言ってホルスト様も椅子を引っ張ってすでにいっぱいになっているテーブルに無理矢理入り込みました。だからここは喫茶店ではないと…。


 さすがにフランツ卿と騎士ホルスト様がテーブルに入ってくるとアルベルトさんは戸惑ったようです。眼を白黒されて口をパクパクしています。

 シロウさんやウドさんにしても型破りで有名なフランツ卿はまだしもホルスト様の行動には驚いたようです。

「ああ、私のことは気にしないでおいてくれたまえ。今日はこのような格好だし、その辺の商人の息子とでも思ってくれれば十分だ。」

「ホルスト殿が一人で下町に来ることは珍しいことでもないんじゃ。なにせ、ヘルミーナ様も変わっておるからの。」

 フランツ卿に言われてその場の平民三人はぎこちなく笑顔を浮かべ、アルベルトさんなどはすぐにでも逃げ出したそうにしていらっしゃいました。


「フランツ卿がここにいらして闘技大会の話をされているとなると、やはりマーキナの件でしょうね。ですが…。」

「わかっておる。これ以上は今は言えぬわ。」

「なんだ?またなんかきな臭い話があるのか?」

 ウドさんが二人の会話になにか思うところがあるようで割り込みました。

「今回の闘技大会、話題になっているマーキナには十分注意という事だ。それ以上今は詮索せぬように。フランツ卿も気持ちはわかるが、市井の冒険者を巻き込むのはいかがなものかと。」

「その割にはおぬしもアイン殿に会いに来たのじゃろう?」

 フランツ卿の目が厳しくホルスト様を見つめます。

「私はアインフォード殿宛に手紙を預かってきただけです。」

 そういってホルスト様はお茶を一気に飲むと席を立たれ、私のほうに歩いてこられました。

「店主邪魔をしたな。なかなかに美味しいお茶であった。これは代金だ。」

 そう言って大銅貨1枚とアインフォード様宛だという手紙をカウンターに置くと颯爽と店を出ていかれました。

 皆さん呆気に取られて彼を見送りました。


 だからここは喫茶店ではないと小一時間問い詰めたいところです。




 夕方になり、アインフォード様とキャロットさん、エイブラハムさんが帰ってこられました。図書館では何かわかったことがあったのでしょうか。

「リコリス、ちょっと面白い本を借りてきた。たぶん情報魔術の参考になると思うから読んでみるといいと思うよ。」

 そう言ってアインフォード様が取り出されたのは「情報伝達論」という論文です。魔法書関係は貸し出しできないとのことでしたが、こう言った論文は持ち出しができるようでした。ただし、本は高価ですので保証金として金貨1枚を図書館に預けてこなければいけないらしいです。


「アインフォード様、昼に騎士ホルスト様がお越しになってアインフォード様宛にお手紙を置いていかれました。こちらですわ。」

 そう言って私は預かった手紙をお渡ししました。

「騎士ホルスト?いや知らない人だけど…?キャロット、知っているかい?」

「はい。ヘルミーナ様お付きの騎士の方ですね。という事は今日ヘルミーナ様が来られたのでしょうか?」

「いえ、今日は珍しくホルスト様だけでしたわ。」

「えっと、ごめん。二人は知っているようだから私が店にいないときに来られたお客様という事かな?どういった人なんだい?」

 あら?ヘルミーナ様の事は言ってなかったかしら?

「ヘルミーナ様はこの街の領主の娘でやがります。ホルストという騎士はその護衛です。」

「は?この街の領主の娘?何でそんな大層な方がここに来ているのかな?って、マジそれ?」


 私はヘルミーナ様が来られた時のことを説明することにしました。ヘルミーナ様も変わったお方ですが、少なくとも私達を平民などと馬鹿にするようなお方ではなく、騎士ホルスト様も同じく立派なお方です。


「なるほど、大体わかったよ。それにしても領主令嬢がそんな頻繁に来ていたのか…。」

「ちゃんと報告していなかった私のミスですわね。申し訳ございません。」

「いや、それはまあいいよ。それより、その手紙を見せてくれるかな?面識のない私に手紙というのが良く分からないね。」


 そう言ってアインフォード様は手紙を開き、首をかしげながら私にその手紙を見せてくれました。


「ライトウーンズ級ヒーリングポーション 10個。 期日、明後日の午前中。 ヘルミーナ・ボルト・リーベルト」


 これ注文書ですわよね。なぜ私宛ではなく、面識のないアインフォード様なのでしょう。

 というか、なぜヘルミーナ様はアインフォード様の事を知っているのでしょうか。

 アインフォード様は少し考えながら私に騎士ホルストがどういった話をしながらこれを渡してきたのかを聞いてきたのでした。


 ヘルミーナ様は意外に達筆でいらっしゃいました。


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[一言] 「いや登録はない。名前はたしか、マーキナだったと思う。 ↑ ちょっと前に戦ったマシーナリーを思い浮かべても良さそうだけどさてはて?(´・ω・`)
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