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リコリス魔法商会  作者: 慶天
2章 領都祭
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Aクラス冒険者

 領都祭まであと10日となりました。アインフォード様のグラスファイバー軽鎧も無事完成しましたので、今はキャロットさんの分を作成しています。

 シロウさんがこの鎧についてはとても興味を持っていましたので、ひょっとしたらご自分のサムライアーマーも作成を依頼してくるかもしれません。


 しかし、鎧の類はその人のサイズに合わせて細かく調整して作り上げなくてはなりません。いかに錬金術で素材が作れ、形が形成できても個人個人に合わせた調整は熟練の技が必要です。私は革鎧職人になるつもりはないので、これをお店の商品として売り出すことはしないつもりです。性能は良いのですが、常にオーダーメイドを受け付けなくてはいけない商品を扱えるほどの余裕はないのです。いっそグラスファイバーの板を革鎧屋さんに卸そうかしら。グラスファイバー繊維を高質化、高密度化を行うことによって革鎧よりも硬度があり、高靭性を保っているので熟練の革鎧職人なら加工は可能だと思います。


 ちなみにアインフォード様のグラスファイバー鎧はカーボンファイバーを多めに混入して硬度を高めてあります。カーボンを多めに使ったことで黒い鎧になりました。

 アインフォード様は普段から黒の衣装を好まれているようですし、本来の鎧も黒ですので、気にいって頂けたようです。キャロットさんには白いものを作りたいと思うのですが、カーボンを使用するとどうしても黒くなってしまいます。塗装をして白くするにしても塗装割れなどでみすぼらしくなってしまうのではないかと心配です。それならば顔料を素材作成段階で投入しておけばそれなりに白くできるとは思ったのですが、カーボンを使う以上真っ白にはならないでしょうね。

 当面はキャロットさんにはアインフォード様とおそろいですから、と言って納得してもらいましょう。たぶんそう言うと喜ぶような気がします。


 私が工房でキャロットさんの軽鎧を作成している間のお店番は、いつも魔女の銀時計の皆さんがローテーションで手伝ってくれています。今日の当番はアルベルトさんです。

 アルベルトさんはウルフカットの赤毛が印象的な精悍な男性です。私の知る限り性格は温厚で情に厚く、いつも穏やかな笑みを浮かべていますが、魔女の銀時計の中では貴重な「ツッコミ役」だったと思います。かのチームのリーダーでお年は20代半ばだったでしょうか。

 アインフォード様は、魔女の銀時計の皆さんはどの方も才能にあふれ、将来は一流の冒険者になるだろうとおっしゃっていました。アルベルトさんもリーダーシップに優れ、状況を見極めることができる方で、戦士としても優秀だとのことです。


 ちなみにアルベルトさんは私がなんとなく持っていたロングソード+2を使っています。私には使えないものですし、ちょうどアルベルトさんの剣が折れてしまったところだったので差し上げたのです。

 アルベルトさんはこのロングソード+2をいたく気に入っていただいたようで、以前はワイトなど上位アンデッドが現れた時は逃げるしかなかったのに、今では戦えるようになったと言っていました。世の中には魔力を帯びた武器でしか傷付けられないモンスターもたくさんいますからね。

 魔力を帯びた武器と言えば、この間作ったセラミックダガーは製作段階で多量の魔力を強化に使うので一応魔力を帯びた武器になっているようです。私でも使うことができる武器ですので、護身用には良いかもしれませんね。


 作業に集中していたところお客様が入ってこられたようで、アルベルトさんの「いらっしゃいませ」が聞こえてきました。

「おお?お前アルベルトか?何だ冒険者廃業しちまったのか?まぁ実力ない奴は怪我せんうちに引退するほうが賢いがな。わはははは。」

「マクガイヤーさん、お久しぶりです。戻ってらしたのですね。」

「ああ、3日位前にな。で、お前はここで何やってんだ?」

「俺は依頼を受けて店番のお手伝いですよ。とはいっても個人依頼ですけどね。冒険者廃業したわけじゃないですから。」


 どうやらお店に来られたのはAランク冒険者で今度の武闘大会に出ると噂の戦士、マクガイヤーさんの様です。

 アルベルトさんとは知り合いの様ですね。さすがにAランクの方はこの街で「金杯」1チームしかいないので、知らない人はいないのでしょう。


「ギルドで話してたらよ、この店が最近ずいぶん人気らしいじゃないか。俺達が北方調査に出た2か月前には聞いたことがなかったんだが、最近できた店なのか?」

「その頃だったらもうお店はあったと思うけど、まだあまり知られていなかったんじゃないかな。店主を呼んでこようか?」

「おお、店主がいるなら会わせろよ。なにせ、絶世の美女って噂を聞いたからな。」

「それは間違っちゃいないけど、手は出さないほうがいいと思うよ。」

「ほう?それはお前さんが狙ってるってことか?」

「いやいや、抜け駆けすると各方面から恨みを買いますよ?リコリスさんがOKするとも思えないけど。」


 どうやら呼ばれそうですね。Aランク冒険者さんですか…アルベルトさんに対しずいぶん上からな話し方ですが、キャリアも実力もある先輩格なのでそういったものなのかもしれません。


「じゃ、店主を呼んでくるから少し待っていてくれよ。マクガイヤーさんに限って大丈夫だと思うけど、誰もいないからって商品触らないでくれよ。」

「んなことするかい!こう見えても信用第1の金杯さまだぜ?!」


 アルベルトさんが肩をすくめながら工房にやってきました。話は聞こえていたので私も表に出られるように調合を中断してありました。

「リコリスさん、悪いんだけどちょっとお店来てもらっていいかな?先輩冒険者でね、ちょっとめんどくさい人が来てるんだ。」

「はい、お話は聞こえていましたので大体状況はわかります。すぐ行きますね。」

 私は手早く身支度し、お店に向かいました。


 そこにいらしたのは身長2メートルを超えようかという大きな体躯をした戦士でした。背が高いだけでなく、恰幅もあり丸太のような腕にはいくつもの古傷が見えます。金髪を角刈りにし、大剣を背負ったいかにも強そうな方です。

「いらっしゃいませ。店主のリコリスと申します。マクガイヤー様でいらっしゃいますね?」

 私がそう言って挨拶するとマクガイヤーさんは軽く息をのみ、ヒューと小さく口笛を吹きました。

「これはご丁寧に。いや、噂通りの別嬪さんだ。あんたがリコリスか。最近この界隈で評判の錬金術師と聞いたのだが、まさかほんとにこんなきれいなお嬢さんだとはな。ああ、そうだ、まずはヒーリングポーションを見せてくれないか。」

「ヒーリングポーションですか?はい、こちらがライトウーンズ級で銀貨3枚、こちらがシリアスウーンズ級、銀貨15枚です。」

 そう言って2本のポーションを差し出しました。マクガイヤーさんは少し驚いたような顔でそれを受け取り、ちょうど店に入ってきた魔法使い風の男性を呼び寄せました。


「オズワルド!ちょっと見てもらっていいか。あ、嬢ちゃん気を悪くしないでくれよ。冒険者にとってポーションは命綱みたいなもんだ。だから俺たちは新しい店のものを買うときは必ず自分たちで鑑定させてもらっている。特にあんたみたいな年若い娘さんが作ったとなればちょっと警戒しちまうのさ。」

 さすがにAランク冒険者さんは色々しっかりしているのですね。今までそういったことを言ってきた人はいませんでした。

「こいつはうちの魔術師でオズワルドっていう。ちょっと無口なやつだが腕は確かなのさ。」

 ローブを深めにかぶっているためよく顔はわかりません。ただ、枯れ木のように細い腕としわの多い指から結構なお歳なのではないかと想像しました。


「…アイデンティファイアイテム…」

 アイテム鑑定の呪文をオズワルドさんは唱え、しばしポーションを見つめていました。

 その後、マクガイヤーさんに向き直りぼそぼそと結果を報告始めました。


「ふむ、オズワルドが言うには値段相応のポーションだという事だが、わずかに教会で扱っているポーションよりも品質は良いようだな。しかしこの店はシリアスウーンズ級も扱っているようだから、俺達も時には利用させてもらうことになるかもしれん。リコリスとやら、よろしく頼むぜ。」

「はい。どうぞご贔屓に。私も珍しいアイテムなど冒険者さんが持ち込む面白いものを買い取らせていただきますので、何かありましたら是非お売りくださいね。」

「ほう?ということはそれなりに鑑定にも自信があるという事か?…ふむ…オズワルド、例の笛持っているよな?」

 マクガイヤーさんがオズワルドさんになにやら取り出すよう指示なさいました。笛?ですか?私に鑑定しろという事なのでしょうか。


「すまんがこれを鑑定してくれないか。鑑定料はどうなっている?」

「鑑定料は相場通り一律銀貨3枚です。特殊なものや、呪いの類のかかったものは上乗せさせていただきます。可能な物であれば呪いの解除も受け賜ります。もちろん鑑定できなかった時は代金は頂きません。」

「ふむ。この笛は先の北方調査の際、廃棄された村落で発見した物なんだ。ヘルツォーゲンに帰ってから馴染みの鑑定屋に見てもらったんだが、魔法がかかっていることしかわからなかった。お嬢さん、これの詳細がわかるかい?」

 そういってマクガイヤーさんが私に差し出したのは、ずんぐりした陶器の笛らしきものでした。これは、形状的にオカリナの一種でしょうね。

「では鑑定させていただきます。」


 ディテクトマジック

 ディテクトカース

 アイデンティファイロウマテリアル

 アイデンティファイアイテム

 グレーターマジック・アイデンティファイマジック

 ・・・・・・・・


「はい、結果が出ました。これはまた面白いものですね。できれば当店で買い取らせていただきたいです。」

「ほう!いったいどんな魔法が?」

 そう言って食いついてきたのはマクガイヤーさんだけでなく、オズワルドさんも表情がよくわかりませんが先ほどよりは鋭い動きでこちらににじり寄ってきました。蚊帳の外に置かれていたアルベルトさんも興味があるようで後ろからのぞき込んできます。

「これはアイテム名『鳥寄せのオカリナ』と言います。」

「鳥寄せのオカリナ?その名の通りだと鳥を呼び寄せるものなのか?」

「ええ、その通りです。廃棄された村落、というのがどれほど昔のものかわかりませんが、おそらくその村のシャーマン的な人物が使用していたものだと思われます。ドルイドの魔術に同じ効果のものがありますし、上級魔術に『アニマルスピーキング』というものがあるので、この笛で鳥を呼び寄せて会話を行っていた者がいたのでしょう。この笛では鳥と会話はできませんし、今ではその魔術は失われているかもしれません。」


 マクガイヤーさんはかなり驚いたようで、魔術師のオズワルドさんと顔を見合わせておいででした。

「いや、驚いた。お嬢さんお若いのに素晴らしい鑑定眼だな。で、いくらで買い取ってくれるんだい?」

「そうですね。なかなか見かけない希少性のあるアイテムでもありますし、金貨2枚と銀貨10枚でいかがでしょう?」

 アルベルトさんが後ろで息をのみました。こんな薄汚れたオカリナに金貨2枚半も出すというのですから、冒険者としては見逃せないでしょうね。でもこういったアイテムはおそらく見え張りな貴族様に需要があると思うのです。野外パーティなどで鳥寄せを披露するときっと貴婦人方の注目の的になるでしょうから。いくらで売れるかしらね。


「ほう、金貨2枚半か…どうだオズワルド、売っちまっていいのか?」

 オズワルドさんは少し考えた風でしたが、どうやら売り払うことに同意されたようです。アニマルスピーキングの魔法はドルイド魔法です。おそらく使えないでしょうし、第四位階の魔術であったので果たしてどれほど使える人がいるでしょうか。

「オッケーだ。だが少しばかり色を付けてもらえるとこちらとしてもうれしいし、今後この店に拾ったものを持ち込みやすくなるのだが?」

 おや値段交渉ですか。

「そうですね、私としてもAランク冒険者の方々に贔屓にしてもらっているという看板は捨てがたいので、では鑑定料の銀貨3枚分はサービスにさせて戴きます。さらにこちらのヒール・シリアスウーンズ級のポーションをお付けいたします。いかがでしょう?」

 マクガイヤーさんはニヤリと笑うと右手を差し出してきました。

「よかろう。ではそれで買い取りをお願いする。ふっ楽しみにしてろよ、もっといろんなもの持ってきてやるからな。」


 私達は握手をしてこれで契約完了となりました。私は金貨2枚と銀貨10枚を支払いオカリナを購入いたしました。しかもAランク冒険者がこれからもアイテムを売りに来てくれるという伝手までできたのです。

 今後彼らがどのようなものを持ち込んでくれるのかが非常に楽しみです。その中にアインフォード様がお探しの魔女カタリナ関連のものがあるといいですね。


「ところでお嬢さんはどうすれば買い取れるのかな?できれば今夜の食事などで買い取らせていただけると嬉しいのだが?」

 アルベルトさんが「あちゃー」といった風に額に手を当てました。そう言えばめんどくさい人だとか言っていましたね。

「大変光栄なお申し出ですが、私は錬金術師でございますのでその価格は変幻自在でございます。しばらくの間はお値段も高騰しているかと思いますので…。」

「そうか。うむ、ますます気に入った。では値を釣り上げているという噂の男と今度の闘技大会で当たることを楽しみにすることとしよう。」

 あら?この方なかなか食えませんわね。ちゃんと調べてきているじゃないですか。

 でもまぁ、アインフォード様が負けることはないでしょうし、その辺は安心なのですけれどね。


 リコリス魔法商会アイテムNO.30


「鳥寄せのオカリナ」


 お値段金貨5枚

 野外で使用することで野鳥を呼び寄せることができます。

 呼び寄せられた野鳥はまるであなたの友人のように振舞います。

 野外パーティで使用すればきっとあなたはヒーローでしょう。

 発掘品ですので1点物となります。


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