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リコリス魔法商会  作者: 慶天
1章 魔法屋の女主人
23/131

にんじん娘の日常 2

以前投稿したお話の再投稿となります。

 -それはまだこの世界がゲームだったころのお話-


 今日は朝からアインフォード様にお弁当の支度を命じられました。とはいっても当日分だけです。今回のクエストは全行程で1週間かかる予定とのことなので残りは保存食だよりになります。


 なんだかアインフォード様は気合が入っているようで、いつもより入念に準備をしているようにお見受けできます。それが証拠に私にレジェンド級の武器であるルーンブレイドという小剣を装備させやがりました。私が前線に立つことも想定されているという事でしょう。基礎剣術のスキルは与えてもらっていますが、果たしてうまく使えるでしょうか。なんといっても普段の戦闘中は大体すみっこで待機しており、指示があればポーションを持っていくというのが仕事なのです。エイブラハムさんが魔法で戦闘の援護をしている間、私はひたすらポーションを持って走り回っています。


 巷には「戦闘メイド隊」なるチームも結成されていると聞きます。メイドも戦闘スキルを上げていけばそれなりに戦えるという事なのでしょうが、私の戦闘力はあまり期待できるようなものではありません。

 ところで私もレベルがずいぶん上がりました。ただいまレベル49です。もう少しで「メイド長」にクラスアップできるようです。メイド長になればちょっとした魔法が使えるようになるらしいので、その日を楽しみにしておきましょう。


 私達の準備が終わったころ、カタリナ様がエイブラハムさんを連れてやって着やがりました。カタリナ様は今日もお綺麗です。魔術師の外套を纏っているので、お召し物まではよくわからないのが残念です。おしゃれ好きなカタリナ様の事です。きっときれいなお召し物をしていらっしゃることでしょう。

 対して私のご主人様は白銀のプレートメイルにおそろいの盾と片手剣を装備されておいでです。この鎧は確か神器級の鎧と伺ったことがあります。なかなかに本気モードでいらっしゃるようです。


 アインフォード様とカタリナ様が私の作った料理を食べた後、ブリーフィングが始まりました。私とエイブラハムさんもちゃんと聞いておきます。ここで聞き逃して大切な役目をやり損ねたりしたら大きな迷惑をかけてしまいます。


 今回クエストに向かうのは「月の塔」と呼ばれる場所の様です。当然私はどのようなところか知りません。エイブラハムさんも知らないようです。ですが、それを聞いた瞬間カタリナ様の顔色が変わりました。なんというか、赤くなった?のでしょうか?何か嬉しそうです。そこにはカタリナ様が喜ぶようなアイテムがあるのでしょうか。

 たいしてアインフォード様も何か照れたようなそんな雰囲気です。なぜかお二人ともよそよそしいというか、私にはよくわかりませんがお二人には何か通じるものがあったようです。ちょっと悔しく思ったのは秘密です。


 その後、すぐにその「月の塔」目指して出発となりました。アインフォード様の自宅からそこまでは馬を使って2日の距離でしたので途中一泊です。お弁当はその日の晩御飯で食べることになりました。

 モンスターの襲撃もありましたが、アインフォード様もカタリナ様も相当の高レベルです。全く攻撃を寄せ付けない強さを見せてくれました。アインフォード様かっこいいです。私とエイブラハムさんは特に何もすることがなく、待機の命令を与えられたまま戦闘を見守っていました。


 カタリナ様はまだレベルの上限に達していないとのことですが、アインフォード様に至ってはこれ以上レベルが上がらないという事ですので経験値配分を私に多く入るようパーティ設定を変更してくれています。

 そのおかげで私はエイブラハムさんよりレベルが上になっています。私のレベルは49ですが、エイブラハムさんはまだ42だという事です。ですがすでに第四位階の魔法を使用可能という事ですので、「上空から絨毯爆撃」という戦法は可能になっているとのことです。ちくしょうめ。


「月の塔」についたのは次の日の夕方でした。今日はここで野営をして次の日の朝からアタックをかけるという事になりました。

「月の塔」はその名の通り月が照らすとたいそう美しく見えます。二つの月に照らされた「月の塔」はまさに幻想的な光景を作り出し、思わず私も見とれてしまいました。


 ふとアインフォード様とカタリナ様の姿が見えなくなりました。どこかに行かれたのでしょうか?エイブラハムさんがここにいることから、そう遠くに行っていないとは思うのですが…。

 エイブラハムさんはやれやれといった素振りで首を向け、ある方向を指し示しました。そちらに向かって少し歩くと、「月の塔」にかかる二つの月の下で寄り添う二つの人影を見つけました。逆光になってシルエットしかわかりませんでしたが、寄り添ってたたずむ二人はとても幻想的で、お邪魔してはいけないような気にさせられました。なぜだか心の奥がちくりと痛んだ気がします。

 エイブラハムさんのところに戻って、今見た光景をお話しすると、邪魔しちゃだめだよと言われました。

 こういう時はどういう反応をすればいいのか、アインフォード様のお仲間であるドリーム様がおっしゃっていました。

「リア充爆発しろ!」

 だったと思います。そういうとエイブラハムさんはふらふらと地面に落下し羽をばたつかせクエクエと唸っていました。どうやら爆笑しているようです。

 …使い方間違ったのかな?


 次の日の朝からいよいよ「月の塔」にアタックを開始することになりました。事前に知らされた内容では「月の塔」は全10層からなるダンジョンで、各階層には守護者がいるという事でした。ただ、1層自体は広くなく有名なダンジョンという事でマップ情報も広く知られているのでそんなに時間はかからないだろう、という予想です。

 出現するモンスターもアインフォード様たちのレベルからするとお二人でも十分太刀打ちできるはずという事でしたが、今までの経験上イレギュラーは十分考えられます。私も油断することなく取り組みたいところです。

 中でも強敵なのは8階層の守護者であるキマイラだという事です。9階層に守護者はおらずセーブポイントのみがあるという事でした。


 このクエストのストーリーは…。


 月の女神は2柱いらっしゃいます。姉の女神イーリス様、妹の女神サリア様です。夜空にある大きい月がイーリス様、小さい月がサリア様です。

 イーリス様は狩りと慈愛そして罰を司ります。多くの神殿がこの女神様を祀っていらっしゃいます。妹の女神サリア様は狩りと美そして罪の女神様でもあります。もちろん神殿もたくさんあります。

 サリア様はいつもイーリス様の後から追いかけてきて一生懸命姉に並ぼうとします。でもようやく並んだ頃には夜が明けてしまい、また次の日には追いかけっこが繰り返されるのです。いつの日か姉に嫉妬したサリア様は姉が大事にしていた鏡を月の塔に隠してしまったのです。

 怒ったイーリス様はサリア様を捕らえ、鏡を返すよう説得しましたがサリア様の下級神、弓の神と矢の神の2柱がそれを盗み出し月の塔に立てこもってしまいました。

 イーリス様に諭され反省したサリア様は2柱に鏡を返すように言いましたが、彼らはそれを聞き入れませんでした。困ったサリア様はあなたに神託を…。


 というようなストーリーだったと思います。


 サリア様も困った女神様ですね。


 月の塔下層は主に動物系のモンスターが現れます。狼や熊系の魔獣がほとんどですが、たまに気が付くと足元にネズミがかじりついており、様々なバッドステータスを撒き散らかしていくのが厄介です。

 私はこう見えてもメイドですのでネズミだけは見過ごすわけにはまいりません。気が付くと地面ばかりを見てしまい、エイブラハムさんにさりげなく注意されてしまいました。

 だって、ネズミだけは許すわけにはいかないのですもの。


 7階層のボスはオウルベアでした。通常ならもっと強いボスがいるはずなのですが、今回は運がいいとアインフォード様はおっしゃっていました。カタリナ様のコーンオブブリザードとエイブラハムさんのファイアボールであっさりオウルベアは倒されてしまいました。アインフォード様は出番すらありませんでした。

 これで9階層までで強敵は例のキマイラのみという事になります。キマイラとはライオン、ドラゴン、ヤギの3つの頭を持ち尻尾は蛇という色々ごちゃ混ぜになった魔獣です。蛇の尻尾は毒を持ち、ドラゴンの頭からは炎のブレスを吐き出すという恐ろしい相手です。

 とはいってもアインフォード様とカタリナ様なら余裕でございましょう。


 8階層守護者の部屋につきました。いよいよここを抜けキマイラを倒せばボスである矢と弓の神を残すのみです。ここではできるだけダメージを負わないように行きたいものです。

 私達は気合を入れて扉を蹴り開け、中に飛び込みました。

 待ち受けていたのは予定通りキマイラだったのですが…なぜか2体いました。これはアインフォード様にしても想定外だったようで、事前に話し合ったプランはご破算になってしまいました。でもそこはアインフォード様です。すかさず計画を修正してカタリナ様と私達に指示を出してくださいました。

 アインフォード様はヘイトコントロールでキマイラの攻撃を一手に引き受けます。カタリナ様は魔法職ですのでやはり直接物理攻撃を受けるわけにはまいりません。後方より強力な魔法を展開します。

 エイブラハムさんはデバフ魔法を中心にキマイラにかけていきます。私は相変わらずポーションもって走り回ることしかすることがありませんが、それでも回復職をカタリナ様が兼務しているこのパーティでは重要な役どころだと思っています。


 かなり長い時間の戦いとなりましたが、無事キマイラ2体を倒すことができました。攻撃を一手に引き受けていたアインフォード様は何度も大ダメージを受けていましたが、そのたびにカタリナ様と私で傷を癒し、行動不能に陥る事態だけは避けることができました。


 それから話し合いがもたれ、本来ならキマイラ1体の予定だったのでMPの残量や残りのポーション量など、この先の大ボスに通用するかという議論がなされました。

 こういう時、慎重派のアインフォード様はいつもならいったん撤退を提案するのですが、なぜか今日だけは強硬に進撃を提案なされました。カタリナ様もしかたないわね、といった顔で同意されていやがります。

 珍しいです。なにか、今日でないとダメな理由でもあるのでしょうか。クエストにそう言った条件はなかったと思うのですが…。


 9階層にあがり最終決戦に向けて準備を行います。まずはアインフォード様がバフ魔法をこれでもかというくらい重ね掛けしていきます。ここまで強化されると第5位階までの魔法はほぼ無効化できるらしいです。問題はここのボスがアーチャー×2体という事です。カタリナ様と私は物理防御力に劣ります。強力な弓矢攻撃はクリティカルヒットを誘発しやすくなっており、下手をすると一撃死すらあり得るというのです。もちろんカタリナ様もアインフォード様もそういった最悪の事態を想定し、エリキシル剤を持っていらっしゃいます。ですが蘇生にかかる1ターンが全滅につながるといったことはよくあることだとアインフォード様はおっしゃいました。


 さすがに私もここまでの戦いとは違うのだと理解できました。それはそうです。だって下級とはいえ神様を相手にするのです。アインフォード様が許してくださるなら今からでも引き返そうと進言したいところです。もちろん、私にそんなことを言うことは許されませんが。

 フォーメーションの確認を行い階段を上がります。いよいよ最終決戦に突入です!


 塔の頂上で繰り広げられた戦いは激烈を極めました。アインフォード様はいつものようにヘイトコントロールで相手の攻撃をひきつけます。その間にカタリナ様はお得意のコーンオブブリザードを放ちます。エイブラハムはデバフ担当です。私はこの戦いのために渡されたルーンブレイドを握りしめ、隙を伺い切りつけます。あまり役に立っていないような気もしますが、それでもないよりはましです。


 弓と矢の神はアーチャーです。2柱共に茶色いローブを頭からかぶり、なぜか顔には真っ白な仮面をつけています。確かそういう神話があったような気がします。

 そしてその手に持ったロングボウから無数の矢を高速で射出してくるのです。


 弓と矢の神は同時に魔法も放ってきますが、先ほどアインフォード様が重ね掛けしたバフ魔法のおかげでほとんどダメージになりません。バフ魔法って大切なんですね。


 アインフォード様はスキル・ラッシュを多用し、2体に対し満遍なくダメージを与えていきます。カタリナ様もできるだけ均等にダメージを与えるよう調整しているようです。通常ならまず1体を仕留めてからもう1体に対し全員でかかるのが正解なのでしょうが、この弓と矢の神は「同時に倒す」必要があるらしいのです。何とも面倒くさい話です。


 弓の神と矢の神は連携して攻撃を放ってきます。一度カタリナ様が同時に狙われました。いかにカタリナ様とは言え、同時に攻撃を受けると即死しかねません。

 その時のアインフォード様の行動は素晴らしかったです。通常剣士は魔法を使うとき、印をとる若干の隙ができます。0.5ターンにも満たない時間ですが、これが致命的になることが多いのです。ところがアインフォード様はこの隙をほぼ0にすることができるのです。アインフォード様は剣を振りながら同時にウォールオブストーンをカタリナ様の前に出現させるという離れ技をやってのけました。ああ、かっこいいです!


 その後も時に危険に陥りながら長い戦いは続きました。私に渡されていたポーションも残り2つしかありません。幸いなことに私自身は攻撃を受けることなく、ちまちまとルーンブレイドでダメージを与えていましたが、アインフォード様の総被ダメージ量は相当であったのではないかと思います。


 そんな時、弓の神の仮面にひびが入りました。これはあと一歩で倒せるというサイン!私はすかさず矢の神にルーンブレイドを突き刺しました。矢の神の仮面にもひびが入り、もう少しで倒せます。でもちょっと無理な攻撃をしてしまったようです。ヘイトが私に向いたのは気配で分かりました。

 私は矢の神にルーンブレイドを突き刺した瞬間、弓の神からスキル付きの狙撃を受けてしまったのです。矢は私の右腕に直撃し、肩から先を粉砕してしまいました。その衝撃で吹っ飛んでしまい、せっかく装備していただいたルーンブレイドもどこかに飛んで行ってしまいました。申し訳ございません…。でも大丈夫です!まだ生きています!


 私が生きていることをアピールすると、アインフォード様はラッシュを、カタリナ様はコーンオブブリザードを使用しました。お二人の最も得意とする攻撃です。仮面にひびが入っていた矢と弓の神の仮面ははじけ飛び、その顔があらわになります。そしてついにその場に崩れ落ち、光の粒子となって消え去ってしまいました。

 そしてそこには一枚の美しい鏡が残されていました。


 アインフォード様に助け起こされ治療をカタリナ様から受けます。なんだか私お姫様みたいじゃないですか?エイブラハムさんうらやましいですか?




 戦いの後始末が終わるとアインフォード様とカタリナ様は塔の一番上にあがって行かれました。ここで女神イーリスに鏡を返還する儀式をするという事です。

 その時空を見上げると、姉の月イーリス様と妹の月サリア様が一つに重なっていました。こんなことは初めて見ました。普通サリア様はイーリス様に追いつくことができない女神様なのに!ひょっとしてアインフォード様が今晩の決戦にこだわったのはこのためなのでしょうか。

 私とエイブラハムさんは頂上の広間で待機をするよう指示されたのでアインフォード様たちが何をしているのかはシルエットでしか知ることができません。ですがその神秘的な光景を私は一生忘れることができないでしょう。


 重なり合った二つの月イーリス様とサリア様にアインフォード様とカタリナ様が鏡を掲げました。すると二つの月が一瞬大きく輝き、世界が白くなってしまいました。一瞬目を閉じてしまい再び目を開いたとき、塔の上空には二柱の女神様、イーリス様とサリア様がいらっしゃいました。白い大きな翼をもち、白いドレスをはためかせた2柱の女神様は光り輝いていました。ああ、なんという神々しさでしょうか。なんと美しい女神様なのでしょうか。私のような矮小な存在が目にしてよい光景なのでしょうか。


 その美しい女神様たちとアインフォード様たちは何か話しておられるようでした。私には何を話しているのか聞こえません。ですがアインフォード様とカタリナ様はその場に跪き、何か祝福を受けているように思われました。そしてゆっくりと立ち上がり、アインフォード様とカタリナ様はしばらく見つめ合いました。そしてそのシルエットが静かに重なりました。

 私は知らず涙を流していました。なぜかはわかりません。そのあまりにも神々しい光景に心を奪われてしまったせいかもしれません。


 …でも本当は…




 このクエストの報酬は「上弦月弓」と「下弦月弓」という1対のレジェンド級の弓でした。アインフォード様が「上弦月弓」をカタリナ様が「下弦月弓」を受け取ったという事です。カタリナ様はハーフエルフですので種族特性で「機械式でない弓」はすべて使えるのです。

 そのほかにもキマイラのドロップ品でメイス+5などユニーク級の武器などもいくつか手に入ったという事です。

 でも私の心には、何か、何かが残りました。




 それからすぐに、アインフォード様とカタリナ様の結婚式が行われました。


 えっと

「リア充爆発しろ!」

 です!


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