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リコリス魔法商会  作者: 慶天
1章 魔法屋の女主人
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その後のお話

 私達がマシーナリーの工房を制圧してから1週間がたちました。

 その間に軍による遺跡の見分が行われ、私達も色々と事情聴取を受けました。

 結論から言うと、遺跡はヘルツォーゲンの地下にあるという事で街の一部とみなされ、領主の資産として管理されるということです。これは以前にライナー様たちが言っていたことがそのまま当たった形です。


 そしてあの日私達が倒したマシーナリーの素材などは私たちが好きにしてよいという事です。私達以前にマシーナリーのパーツを持ち帰った者がいる可能性も伝えましたが、それは別に犯罪ではないので問題ないとされました。

 マシーナリーを複製するという発想はないようです。確かに私でもあのマシーナリーを複製することは不可能です。できたとしても劣化版しか作ることはできないでしょう。


 まあでも、これであのオートマタの修理もできますし、ガトリング砲の製作もできそうです。

 アインフォード様は『ガトリング砲を構えた黒髪の美女ヴァンパイアか…捗るな…。』とか意味の良くわからないことをおっしゃっていましたが、問題はなさそうです。


 そして街での私たちの評価が大きく変わりました。アインフォード様は以前に少しだけ実力を示していこうという方針を出されましたので、特にシロウさんやライナー様に口留めはしませんでしたし、そもそも魔術にしても第三位階までしか使っていません。冒険者としてかなり優秀な部類に入るとは思いますが、規格外といったことはないはずです。


 まだその噂を信用していないものも多いようですが、なんといってもシロウさんはBランク冒険者です。Bランクというのはそれなりに尊敬を受けるレベルの冒険者ですので、シロウさんが言っていることならば信用できると思われているようです。


 それでアインフォード様のいわれのない悪評もマシになったかと言えば決してそんなことはなく、『イケメンで美女をはべらせ、剣の腕も立ち魔法も使えるけしからん奴』とやっかむ声が聞こえてきます。


 それと同時に幾人かの騎士爵家のものと思われる人がアインフォード様とキャロットさんをスカウトに現れていました。

 魔法使いは希少な存在です。さらに剣の腕も立つお二人を『従士に取り立ててあげるから、我が家に仕えたまえ』というような上からの物言いで勧誘に来ていました。

 もちろんそのような無礼な誘いに乗るはずもなく、アインフォード様は丁重にお断りされていました。身の程知らずとはこのことでしょう。殺しますわよ。


 あとはギルドでの扱いも大きく変わりました。あの事件の次の日にギルドにも報告に行ったのですが、そこでシロウさんの証言がありアインフォード様、キャロットさんと私が第三位階の魔術を使えることが認定されたのです。おかげで三人そろってBランク、ゴールドタグ認定です。第三位階の魔術が使えるだけでBランクに相当するので一気にランクアップとなりました。私なんて冒険者登録はしているものの、一度も依頼を受けたことがないのですが、よいのかしら。

 ちなみにキャロットさんが治癒魔法を扱えることは伏せられています。神聖魔法にも攻撃系の派手な魔法があり、それを見せることでアインフォード様と同じく魔法戦士として納得させました。


 その席でギルドのスキンヘッドマッチョのウドさんがアインフォード様になにやら食って掛かっていましたが、アインフォード様は苦笑いで対応されていました。

 なんでもアインフォード様たちはこの街で冒険者登録するときにこのウドさんにはずいぶんとお世話になったとあとで教えてくれました。


 当然今回はオープンクエストでしたので報酬も支払われました。銀貨で100枚です。結構な大金ですが、チームで100枚なので頭割り5人で分けると一人20枚となります。考えればうちのお店の売り上げもそれくらい売れる日もありますので、あまりお金にこだわることもないのかしら。


 ちなみにやはりエイブラハムさんは人数に入っていませんでした。うーん、エイブラハムさんはカタリナ様の従者と聞いています。立場的には私やキャロットさんと同じものなのですが、人の形をしていないと人扱いされないのは何とかならないものでしょうか。

 ちゃんと人数に入れてあげてほしいところなのですが、それを説明するわけにもいきません。アインフォード様はあとで私とキャロットさん、アインフォード様の取り分を合わせて4等分することにするとおっしゃいました。さすがはアインフォード様です。きっちりされています。「カタリナにばれたら命が危ないからな…」という呟きは聞かなかったことにします。

 …やはりアインフォード様は今でもカタリナ様の事を想っていらっしゃるのでしょうか。でもカタリナ様は500年も前に転移されています。いかにハーフエルフのカタリナ様でも存命であるとは思えません。アインフォード様、おいたわしや…。




 それで今アインフォード様たちはフランツ卿のお屋敷です。

 今回の功績をたたえ、私を含めた捜索メンバー全員が領主様より褒美を授かることになりました。そこで領主様主催の園遊会が催されるということなのです。

 ちょうど来月には建都祭が予定されています。それの前夜祭的なイベントとして今回の園遊会を位置付け、近隣の貴族や騎士を招待して行われるという事です。うがった見方をすれば、優秀な冒険者であるアインフォード様や私達がヘルツォーゲンの所属であることのアピールととらえることができます。あくまで冒険者は自由民なのでいつ出て行ってしまうのかわからないものなのですが、ここで褒賞を与えてこの街にしがらみを作ろうとしているのかもしれません。


 そして問題は園遊会です。さすがのアインフォード様もダンスの経験はなかったようで、大慌てで衣装をあつらえ、ダンスの練習をすることになったのです。

 実はこう見えて私はダンスのスキルを持っていますし、宮廷マナーもたしなんでおりますのよ。

 200年前お父さまと世界を回っていたころに、何回かそういった場に出くわすこともありましたのでお父さまと一緒に練習したことがあるのです。


 なんといってもお父さまは当代最高の錬金術師でした。当然貴族からの依頼も多く、そのたびに茶会だの園遊会だのに招待されたことがあるのです。

 ですので、少々時代遅れではあるかもしれませんが、そういった場にふさわしいドレスも持っているのですわよ。


 その表彰式と園遊会は今から2週間後です。アインフォード様とキャロットさんなら間違いなくダンスを習得していることでしょう。シロウさんは特に何も言ってはいませんでしたが、ダンスの経験などおありになるのでしょうか。

 でもフランツ卿の所にそのようなダンスや宮廷作法に詳しい方はいらっしゃるのでしょうか。ライナー様は王都で長年騎士をしていたという事なので、そのような作法にも詳しいかもしれませんが、ダンスは男女でするものです。キャロットさんを指導できる方はいらっしゃるのでしょうか。

 でもそこはきっとフランツ卿が知人を頼って何とかしてくれるのでしょうね。きっとそのような作法を教える専門の教師職のような方も貴族にはいらっしゃるでしょう。


 ちなみに、今回の勲功第1は騎士ライナー様になるということです。これには私も激しく納得いきません。ライナー様の最大の功績は『死ななかったこと』に尽きると私は思うのですが。

 しかしアインフォード様曰くこれは仕方がないというか、当然の事なのだそうです。世間的に騎士の位を持つライナー様が冒険者を率いて、街に潜む悪を討伐したとしなければ貴族としての体面上問題があるという事です。


 たしかに一冒険者が貴族を差し置いて勲功第一とするとまたいらぬ恨みを買ってしまいそうです。ライナー様やフランツ卿がそのようなくだらない見栄を張るような人物でないことは私も知っていますが、他の騎士家やその従士たちがいい顔をしないという事なのです。

 まあ貴族や騎士という人種がそのような見栄や体面を気にするというのは私もいくらか見てきましたので、理解はできるのですが、キャロットさんを納得させるのが大変ですわね。


 私は皆さんがフランツ卿の屋敷に行っている間は店番がありますのでずっとお店に出ていました。今回の事件の詳細が広まるにつけ、噂を確かめに来る人や、使用された魔道具に興味を持った人たちが結構訪れてくれるのです。夜間の人出が戻ったことで売り上げも元に戻ったことを感謝しに酒場や、飲食店関係の方も来られていました。

 おかげでお店は繁盛していますが、例のオートマタの修理やガトリングガンの製作はなかなか進んでいません。できればアインフォード様とキャロットさん用に普段使い用の革鎧をグラスファイバーで作ってみたいのですが、ちょっと今は時間が取れそうもないです。


「リコリス!ただいま!」

 クラーラ!依頼が終わったのですね。

「おかえりなさい、クラーラ。あら、魔女の銀時計の皆さんおそろいなのですわね。」

 クラーラと一緒にお店に来てくれたのは冒険者チーム『魔女の銀時計』のメンバー、アルベルトさん、バルドルさん、ドーリスさん、エリーザさんとクラーラの5人です。


「こんにちはリコリスさん。なんだか今回大活躍だったみたいだね。ギルドじゃ新しい冒険者チーム『ソウル・ワールド』のことで持ちきりだったよ。結構やらかしたみたいだね。」

 代表してリーダーのアルベルトさんがおっしゃいました。


『ソウル・ワールド』とはアインフォード様、キャロットさんとエイブラハムさん、そして私で登録したチーム名です。アインフォード様が提案されたチーム名なのですが、これに落ち着くまでには一晩4人で激論を繰り広げたものです。だって、アインフォード様、意外とネーミングセンスが残念なのですもの。


「それにしてもアインさんもキャロットさんも魔法解禁しちゃったんだねー。アインさん私の魔法の師匠なんだから、あまり他人にとられたくないし自重してほしいんだけどなー。」

 エリーザさん相変わらずな方ですね。ちょっと頬を膨らませて拗ねたような顔見せるのは17歳にして第三位階魔法を習得した若き天才魔術師です。第三位階魔法を使えるだけでも希少な存在なのにそれをこのお年で習得したエリーザさんは将来を嘱望されている天才なのだそうです。アインフォード様を師匠として慕っており、実際ファイアボールの魔法はアインフォード様から習ったとおっしゃっていました。


「あはは。エリーザ何言ってんだおまえは。でも確かにこれで気軽にクエスト誘いにくくなったのは確かだな。」

「でしょ!あーあ、やっぱり私の溢れんばかりの色香でアインさんを誘惑してお嫁さんにしてもらうしかないかなー。」

「溢れんばかりの色香?そんな奴どこにいるんだ?って、おいやめろ。杖をしまえ。」

 エリーザさんとアルベルトさんがコントをしているのを他のメンバーは笑いながら眺めていましたが、確かにエリーザさん、ええ、その表現は無理がありますわよ。どちらかと言えば慎ましい、いえ平均値よりもきっとかなり慎ましいエリーザさんの胸を見ながら私もそう感じました。

「リコリスさん?今何か考えました?」

 エリーザさん意外と鋭いですわね。

「いえいえ、何でもありませんわよ?あ、アインフォード様たちは今フランツ卿のお屋敷に行っていますので帰りは夕食後になると思います。」

 そう言ってアインフォード様がダンスとマナーの訓練にフランツ卿の所に行っていることを説明しました。


「へぇ、園遊会に招待か。さすがアインさんだねぇ。アルベルト、やっぱアインさんにくっついて冒険してたほうがあたしたちも良い目が見れるんじゃないか?」

 クラーラのお姉さんでレンジャーのドーリスさんがちょっといたずらっぽい顔でおっしゃいました。ドーリスさんは栗色の髪をポニーテールにしたちょっときつめの顔立ちの美人さんです。

「ドーリス、そうかもしれないけれど、それだとアインさんの足を引っ張るだけになっちゃうじゃないか。アインさんと常に肩を並べられるようにならないとそれはダメだよ。」

 アルベルトさん、カッコいいこと言うじゃないですか。実際このチーム『魔女の銀時計』は優秀なパーティだそうです。アインフォード様も将来が楽しみだとおっしゃっていましたもの。


「リコリスも園遊会に呼ばれているの?」

 クラーラは私にそう聞いてきました。

「ええ、私も呼ばれていますわ。私、こう見えてもダンスの心得はありますし、宮廷マナーも心得ていますのよ。」

「さすがリコリスね。伊達に長生きはしてないわね。」

 クラーラたちは私の正体を知っています。やっぱりクラーラたちと話していると楽しいわ。これが友達というものなのでしょうね。


「じゃ、リコリスさん、俺達も今日はこれで帰るけれど、また明日から店番で雇ってくれないかい?アインさん達いないんじゃリコリスさん一人で大変だろ?順番に来るからよろしく頼むよ。」

「はい!助かります。明日からお願いしますわね。」

 アルベルトさん達は明日からお手伝いに来てくれるという事で、正直助かります。これで色々作りたいものに手が出せそうです。何からやろうかなぁ。まずはオートマタの修理かな。でもあれ時間かかりそうだしな。どうしようかしら。

 早くこの子を直してあげたいな。なんという名前を付けようかな。アインフォード様に付けて…いえ、みんなで考えましょう。それがいいわ。


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