お嬢様来襲
次の日の朝からアインフォード様とキャロットさん、エイブラハムさんはギルドに今回の辻斬りについて情報を集めに行かれました。ギルドだけでなく事件現場なども回るつもりだという事で、お帰りは夕方になるとのことです。
昨日の狂騒が嘘のように今日は穏やかです。あの折り紙のサービスは昨日までだと宣伝してあったので、それがちゃんと伝わっていたおかげでしょう。
しばらくはお客様も来られなかったので、ゆっくりお茶を頂きながらアインフォード様のお言葉を書面にする作業を行います。今まとめているのは「アインフォード様流お商売の技法」です。今回の折り紙を皆さんに知ってもらうためにアインフォード様は二つの手法を教えてくださいました。「実演販売」「プレゼント宣伝」です。
アインフォード様は当たり前のようにこの手法をおっしゃいましたが、実演販売はまだしも、プレゼント宣伝などといった手法は初めて知りました。曰く、「損して得を取れ」だそうです。
アインフォード様は剣士として一流なだけでなく、第九位階のみならず第十位階の魔術もお使いになられます。聞いた話では「エンゲージ・イセリアルワールド」をお使いになったとか。正直言って一流どころか特級の魔術師です。でも普段は私にお商売のイロハを教えてくれるのですから、いったいどこまで幅広い知識を持っていらっしゃるのでしょうか。
カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「ごめんください。」
おや、こちらのお客様、昨日来られた方だとお見受けします。おそらくいずれかの騎士家のメイドさんではないかと思うのですが、上質なメイド服をお召しの年若いお嬢さんです。ショートヘアがお似合いです。
「昨日おいでになってくださった方ですね。いらっしゃいませ。本日はいかがなさいましたか?」
「あ、あの忙しそうな中、初めて来た私の事を覚えていてくださっているのですね。ありがとうございます。」
「いえいえ、お綺麗な方でしたので、印象に残っておりました。」
印象に残っていたのは、その上質な素材でできたメイド服の方なのですが、それは言わぬが花でしょう。
「ここがあなたの言っていた魔法屋なのね!」
ん?この方はどちら様でしょうか。思わず「おほほほほ」という笑い声を幻聴しました。
「お嬢様、はい、ここになります。」
「お邪魔するわよ!」
玄関から先ほどのメイドさんに連れられていかにもなお嬢様がいらっしゃいました。お年は12,3歳といったところでしょうか。金髪ツインドリルです。こちらの世界では初めて見ました、ツインドリル。実在したのですね。
そのお嬢様の後ろには甲冑を着た騎士様が付いておられます。間違いなくこのお嬢さまは貴族様でしょう。騎士爵家のお嬢様でしょうか。いえ…騎士爵家のお嬢様が騎士を連れているはずがありません。ということは、もっと上位の貴族様という事になります。まさか領主様のお嬢様なのでしょうか。それともたまたまヘルツォーゲンに遊びに来ていた他の貴族様なのかしら。
ともあれ、貴族様に失礼があってはいけません。丁重におもてなしせねば。
「このような粗末な魔法屋にようこそおいでくださいました。ご入用なものがございますれば、何なりとお申し付けくださいまし。」
「昨日ここで、これをもらったと聞いたのだけれども!」
そういってお嬢様が見せたのは昨日皆様にお配りした折り紙のバラです。
「はい、昨日は当店でお買い物をしてくださったお客様皆様にサービスとしてそちらのバラか鶴の折り紙をお渡しさせていただきました。」
あのメイドさん、お嬢様にバラの折り紙取り上げられちゃったのかな。
「お、同じものがほしいのだけれども!この者から無料で配るのは昨日だけだったと聞いているので、お金が必要なら払わせてもらうわ!」
あ、このお嬢様、かわいいかも。
「そういうことでございましたら、こちらのバラをどうぞお持ち帰りください。本来はおっしゃる通り昨日だけのサービスでしたので、他の方にはご内密にしていただけると助かります。」
「え、いいの!?ありがとう!」
ぱぁと音がしそうなほど華やかな笑顔になりました。やっぱり貴族様は華がありますね。
「そ、そうなるとやっぱり何か買わないとだめね!お買い物をした人だけの特典だったのでしょう?ねぇあなた!ここのおすすめは何かしら?」
おすすめと言われましても…。
「そうですね。それでは今お渡ししたバラをご自分で作れるようになるというのはいかがでしょうか?」
「ええ!?これを自分で作れるようになるの?そんな魔法を教えてもらうのってすごく高い授業料が必要なのじゃないの?」
「いえ、これは魔法ではありませんので誰にでもできますよ。お値段は大銅貨一枚ですの。」
「大銅貨一枚?たった?」
「はい、そうでございます。こちらをご覧ください。」
そう言って折り紙を紹介します。
「この紙を折り曲げて行ってバラや鶴を作るのですわ。」
早速実演してみます。お嬢様、食い入るようにご覧になっています。
「すごいわ!ほんと魔法じゃないのね!ちょっとやってみていい?あ、買うわ!大銅貨一枚ね!サラ!お金を払って!」
サラというのがこちらのメイドさんのお名前の様です。サラさんはにこにこしながらこちらにやってきてお金を支払ってくれました。
「お嬢様にバラを無料にしてくださってありがとうございます。」
それから声を潜めて、
「おかげで私の頂いたバラを取り上げられずに済みました。」
あはは。やっぱりそうなるところだったのね。
「いえいえ、ところでこちらのお嬢様はどちらの貴族様なのでしょう?」
「はい、この街の領主、リーベルト辺境伯様のご息女、ヘルミーナ様でございます。ご覧の通り大層活発なお嬢様でして…。」
ちょっと困ったように笑顔をお嬢様に向けられます。そのお嬢様は折り紙にすっかり夢中です。カウンターの隅に椅子を出してあげれば一所懸命折り紙と格闘を始めました。
そこでお付きの騎士の方がこちらに来られました。
「すまないが、私も少し買い物をしてもかまわないだろうか。」
「あ、はい結構ですよ。何かご入用なものがありますでしょうか。」
「うむ。傷薬となにか罪人を捕まえるのに適したアイテムなどないものだろうか?」
ぴーんときました。さては例の辻斬り事件に関りがありますね。
「傷薬はこちらです。ヒールライト級ポーションが銀貨2枚、ヒールシリアス級ポーションが銀貨15枚です。」
「なんと!ヒールシリアス級まで扱っているのか。いやこれはすごい魔法屋があったものだな。さすがにちょっと高いが、それくらいの値はするのだろうな…。ではライト級を2本貰えるだろうか。」
「ありがとうございます。それと…捕縛用アイテムとなりますと、こちらのロープなどがありますが、これは魔法の品でございますのでそれなりの値段になっております。」
「このロープはどういった魔法がかかっているのかね?」
「こちらは『バインドロープ』と申しまして、コマンドワードを唱えることで指定した物体に巻き付き、捕縛することができます。罪人を捕らえるなどの使い方が一般的でございます。こういう風に使います。」
そう言って手近にあった木箱に向けコマンドワードを唱えますと、ロープはするすると木箱に絡まりつきました。
「なんと!これは素晴らしい!まさに私が欲しているアイテムではないか!して値段はいかほどであろうか?」
「はい、こちらの『バインドロープ』お値段は銀貨30枚でございます。ですが使用回数に制限がございませんので、擦り切れたり断裂したりしてしまわない限り使用が可能です。」
「うむ…さすがに値が張るようだな。金貨1枚半か…。魔法のアイテムというだけはある。だがしかし、これほど有用なアイテムもないな。よし!買おう!」
「ありがとうございます。こちらの紙にコマンドワードを記してありますので、他の誰かに知られないようにお願いしますね。」
ちなみに銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨20枚で金貨1枚となります。アインフォード様曰く、銀貨1枚で1万円ほどだろうとおっしゃっていましたので、金貨1枚は20万円ほどとなるようです。もっと上の貨幣もあるらしいのですが、見たことがないです。プラチナ貨とミスリル貨だという事です。
「おお、ありがとう。しかし、ここの魔法屋はすごいな。このようなロープ、ほかで売っているところを知らないぞ。店主殿が作っているのか?」
「はい。ここのアイテムは私が錬成、作成したものが大半でございます。たまに冒険者さんが持ち込まれたアイテムも販売しておりますが、今のところはそう言ったアイテムはないです。」
騎士様とお話しているとお嬢様と折り紙をしていたメイドさんがこちらにやってきました。
「こちらの店主リコリス様は錬金術師としてこの界隈では有名なお方でございますのよ。私も昨日初めてお買い物をさせて戴いたのですが、昨日の繫盛ぶりは大変なものでございましたわ。お会計をすますのに四半時(30分)近くかかりましたもの。」
昨日はお客様にお待たせして申し訳ございませんでした。まさかあんなに来てくれるとは思わなかったのですもの。「接客の基本」にお客様をお待たせしないという項目があるのですが、これに関しては完全に失格ですわね。
「なるほど。しかしこのようなロープを普通に販売しているところからも店主殿の力量がうかがえるというものだな。いや、世話になった。また色々と利用させていただくよ。」
「はい、今後ともぜひご贔屓にお願いいたします。」
「できた!」
元気のいいお声が店内に響きました。
「サラ!見て!これでどうかな!」
ヘルミーナお嬢様がご自分で折られたバラを持ってサラさんに駆け寄ってこられました。
「お嬢様、さすがでございます。お上手に出来ていますよ。」
ヘルミーナお嬢様が持ってきたバラは少し歪ではございますが、初めてにしては上出来ではないでしょうか。そう思ってお嬢様が作業していらしたカウンターを見てみると、どうやら失敗したと思しき残骸が結構散らかっていました。意外と不器用なのでしょうか。…まぁ私もだいぶ失敗したので人の事は言えませんが。
「店主!この指南書にはバラとカブトというのが載っているけれど、他にも指南書があるの?」
「はい、ございますよ。鶴、セミ、カエルなど、全部で3セットございます。」
「じゃ、あと2セットあるのね。それも頂戴。帰ってお父さまに教えてあげるの!」
アインフォード様はこの世界の子供は労働力であり娯楽に割けるお金はあまりないだろうとおっしゃっていました。ですが、貴族様となるとやはり事情が違います。ある意味ここで折り紙を売り出してその意味を正確に理解されたのはロジーおばさまとこのヘルミーナお嬢様だけではないでしょうか。これからは貴族向けの商品も開発していったほうが良いのかもしれません。
「店主!非常に良い買い物をさせてもらったわ。また来るのでよろしくね!」
そういってお嬢様一行はお帰りになりました。折り紙を大層気に入ってもらえたのがうれしいです。ひょっとしたらお嬢様のお友達が買いに来てくれるかもしれませんね。
そしてバインドロープはアインフォード様たちもきっとお使いになるでしょうから、少しばかり量産しておきましょう。
リコリス魔法商会アイテムNO.21
「バインドロープ」
お値段銀貨30枚。
コマンドワードを唱えると対象に絡みつき、捕縛します。
使用回数制限はなく、破壊されるまで使用可能です。
罪人の捕縛や、獲物を生きたまま捕らえるなど使用は多岐にわたります。
人によっては趣味の品としての使用も可能です…わよ?
リコリス魔法商会アイテムNO.22
「クライミングロープ」
お値段銀貨20枚。
コマンドワードを唱えるとロープが上に上がっていきます。
人2人分ほどの重量を持ち上げることができます。
落とし穴の救出から引っ越しの荷揚げ作業など多くの用途があります。
「レッドスネーク・カモン!」などといった遊び方もできます。




