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リコリス魔法商会  作者: 慶天
1章 魔法屋の女主人
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方針変更

「と、いうことがあったんだ。」

 はぁ、なるほど。それはキャロットさんも怒りますね。私もそのライナーという騎士様には一言申し上げたいですわ。眷属にしてやろうかしら。でも、今日お店に来られた冒険者の方も同じようなことをおっしゃっていましたね。どうにもアインフォード様は男性受けが悪いようです。こんなに素晴らしいお方がどうしてそのような悪評を立てられてしまうのでしょうか。


「その、申し上げにくいですが、今日お店に来られた冒険者さんもそのようなことをおっしゃっていました。アインフォード様の魅力がわからないとは嘆かわしいことではありますが、私からもそれは間違いである旨を説明しましたわ。」

「うーん。たぶん、リコリスやキャロットが私の事を良く言ってくれるたびに状況が悪くなる気がするよ。あはは。」

 アインフォード様はそうおっしゃいますが、私達からすれば納得いきません。


「アインフォード様!なぜあのような依頼をお受けになったのですか!私はあのライナーという男と共に行動するなど勘弁なりません!」

 キャロットさんのお怒りはなかなか溶けそうにないですね。

「キャロットが私の事でそう言ってくれるのは素直に嬉しいよ。」

 そう言ってアインフォード様はキャロットさんの肩に手を置きました。キャロットさんどこか嬉しそうです。

「だが、そういう噂を立てられてしまう私にも問題があるんだ。考えてみればここはリコリスの店なんだし、私がここに住んでいるだけでやっかむような人もいるんだ。」

「それが理解できません。アインフォード様はリコリスさんの後見人なのですから、ここに住むのは当然のことでしょう?むしろ、リコリスさんを放置してどこかに行ってしまう事のほうが問題だと思います。」

 キャロットさん…ありがとうございます。アインフォード様の従者はキャロットさんです。後から割り込んだ形の私を気遣ってくれるなんて…。


「キャロットもリコリスも『美人』だろ?」

「はい。それはアインフォード様やラケルス師が設定してくださったからそうあろうと努力しております。」

 あ、すいません、私、お父さまが亡くなってからその努力は怠っておりました。

「冒険者は独身男性が多いからね。こういっちゃなんだが、キャロットやリコリスは『絶世の美女』とこのあたりの男性からはすごく人気があるんだよ。」

「人気がある?」

 どういう事でしょうか。

「簡単に言うとキャロットやリコリスと結婚したいと思っている男性が多いという事だよ。」

「え?」

「えっと。結婚ですか?私はアンデッドなので子供を産むことはできないですわよ?」

「結婚と子供がどう繋がるのかわかりませんが…。」

 あ、やはりキャロットさんはそのあたりの知識がないようですね。今度教えてあげましょう。


「うーん。つまりは私にちゃんとした稼ぎがないのに、この街のアイドルともいうべき二人と一緒に住んでいることを面白くないと思っている人が結構いるという事だね。」

「アインフォード様と私は『兄妹』という設定になっているはずですが…。」

「そうなんだけど、それを信じていない人も多いみたいだね。あの騎士ライナーもそうじゃないかなぁ。それと、リコリスがアンデッドだっていうことは、クラーラさんたち以外誰も知らないからね。」

 あ、そうでした。今のところまだ年を取らないことを不審に思う人はいないでしょうが、自らアンデッドであることを明かすこともないですしね。


「なので、ちょっとこのあたりで街のために働いて、二人と一緒にいるのにふさわしい男だと証明しようと思うわけだ。ついでに闘技大会とやらにも参加して実力を示すのも悪くないかなと思っている。」

「ですが、あまり目立ちすぎると思わぬ敵を作るかもしれないという理由で、控えめに活動していくという方針だったのではないですか?」

「その通りだ、キャロット。ここまで色々な人やモンスターと戦ってきた。レベルで言うとわかりやすいが、私のレベルは99だ。キャロットとリコリスは79だよね。」

 その通りです。私とキャロットさんは従者であるためレベル79が限界レベルです。

「では、この世界の強者のレベルはどれくらいだろうね。おそらく、そんなに高くないと思う。例えばアルベルトさんで15、6レベルだと思うよ。トロールがレベル25ほどのモンスターだから25レベルを超える人間はそういないだろうね。」


 たしかにお父さまと世界を回った時でも、お父さまを超える魔術師は見た事がありませんでした。

「さすがに第九位階の魔術、メテオ・スウォームやグラビティ・プレッシャーなどの戦術級魔術を使うつもりはないが、場合によっては第五位階までの魔術なら人前で使うつもりだ。」


 メテオなどアインフォード様がぶっ放せばこの街を破壊しつくすことも可能でしょう。

 あれ、ひょっとして私がアンデッド軍団を召喚し、アインフォード様が最大魔術を行使すればこの街を支配できるのではないでしょうか。キャロットさんとエイブラハムさんも相当な戦力です。…その気になれば国盗りすら…。

「アインフォード様。まさか国盗りをなさるおつもりですか?」

「アインフォード様の治める国!それは捗りますね!」

「いやいやいや、落ち着こう。少なくとも今はそんなことは考えてないよ。私も治世に関する知識は持っていないからね。」

 そうですか、キャロットさんじゃないですがアインフォード様の治める国というものを少し見たい気がします。きっと私のようなアンデッドも暮らせる世の中になりそうな気がします。


「社会的な地位を上げておくのは今後の活動においても役に立つと思うんだ。例えば冒険者ランクAのプラチナタグ持ちとかだと、貴族でしか利用できない魔術学院図書館に出入り出来たり、貴族主催の晩餐会に呼ばれたりすることもあるらしいよ。この世界は謎だらけだ。私達はもっと知識をつけなくてはならない。」

「冒険者ランクAですか。あの受付の禿親父の言う事にはこの街にAランクのチームは1チームだけだと言っていました。確か…チーム『金杯』とかいう名前だったかと。」

「キャロットよく覚えていたね。その通りだ。今そのチームは北方山脈に調査に行っているらしい。たぶん、建都祭の頃には戻ってくるだろうって、禿親父っていうかウドさんだな、そう言っていたね。」

「闘技大会にその中の誰かが出場するという事でしょうか。」

「それはわからないな。Aランクの者が闘技大会に出てくれると私も出場し甲斐があるのだけれどもね。」


「それならばアインフォード様、私のお店で扱う商品ももう少しレベルの高いものにシフトしてはいかがでしょうか。」

 高名な魔術師が通うような店になれば様々な情報も集まるでしょう。

「うーん、それはまだ早いかな。リコリスはそもそも誰でも気軽に利用できるような店にしたかったのだろう?そう言った高位アイテムはこの店がもっと知られるようになってから、受注製作でいいと思うんだ。常にエリキシル剤が置いてある店なんてこの世界のいろんなバランスを破壊しちゃうからね。」

 確かに私はロジーおばさまのような一般の方や、駆け出しの冒険者さんたちに利用してもらえるようなお店にしたいです。アインフォード様は私のそんな願いを覚えてくれていたのですね。


「ただまぁ、私たちが使うアイテムの錬成はしてくれると嬉しいけれど。」

「もちろん最優先で製作します!今何か必要なものがあるのかしら?」

「いま直ぐ必要というわけではないが、『飛行』の能力を使用者に与えるアイテムがほしい。できればフライングブーツよりもアミュレットや指輪などの装飾品で作ってくれると助かる。」

「キャロットさん用ですね。そうですね。ブーツにせよアミュレットにせよ『飛行』の魔術を封じるとなると、素材として『ワイバーンの翼』が必要になります。アインフォード様ならたやすく手に入れることができると思いますので、手に入りましたら直ぐにお作りいたします。」

「わかった。ワイバーンの翼だな。今度ギルドでそのようなクエストが貼りだされた時は最優先で受けるようにしよう。」


「それであのいけ好かない騎士の件ですが、やはり本当に共同で捜査を行うのですか?私、あの男をいつかきっと殴ってしまいそうです。」

 いやぁ、貴族様に手を上げるとあまりよろしくないことになると思いますが…。

「騎士フランツには色々お世話になっているし、無碍にもできないだろう。それにあの騎士ライナーもちょっと変わっているが、父親に似て正義感はあるようなので、妙な誤解が解ければいい付き合いができると思うよ。」

「そういうものなのでしょうか。」

「具体的な打ち合わせはさっきしてきたし、明日の夕方にはここに来ることになっている。明日の夜からは夜警に出ることになるだろうから、明日の昼の間にできるだけ情報を集めておこう。」

「わかりました。それでは私は今日商品がたくさん売れたので、ヒーリングポーションの調合をしますね。」

「ああ、わかった。ところで今日はすごい売り上げだね。いったい何があったんだい?」

「いえ、本来の趣旨とは違いますが、折り紙のサービスが思いのほか好評でして、それが目当てで色々買っていってくださったのです。今日一日で銀貨50枚ほど売り上げがあったと思います。」

「一日で銀貨50枚かい?それはすごいな!確かにこれならリコリスに養ってもらっても十分暮らしていけるな。」

「アインフォード様?」

「冗談だ、キャロット。落ち着きなさい。」


 リコリス魔法商会アイテムNO.20

「スタッフ・オブ・ファイアボール」

 お値段銀貨500枚。

 第三位階魔法「火球」を封じ込めた魔法の杖です。

 12回の「火球」を放つことができます。

 お試しに一本だけ製作してみましたが、皆さん性能を信じられないようで

 買ってみようという方はいらっしゃいません。

 お値段もお値段ですので、ほぼお店のオブジェです。


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