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リコリス魔法商会  作者: 慶天
5章 エルフの森
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閑話 ペトラの日記

 ペトラの日記


 10月某日


 昨日読んでた「モンスター図鑑」に面白い記述があったの。

「モンスターと動物の線引き」

 という項目なんだけれど、これは興味深いわね。


 そもそもモンスターとは何なのか?わたしは人に危害を加える存在をモンスターだって思ってたんだけど、よく考えたらそれって曖昧よね。例えば森でクマさんに出会ったら命の危険よね。でもクマさんは動物でモンスターじゃないでしょ?


 逆に森に行くと時々見かけるマン・トリュフっていうキノコなんだけど、この10cm程のキノコ、動き回るし動物なのか植物なのかよくわかんないけどモンスターって扱いになってる。

 でも全く無害だし薬の素材になるから見つけたら確保するようにしてるのよね。わたしでも簡単に確保できちゃうくらいに無害。


 そんな風に思っていたわたしにこの項目は答えをくれました!

 この本がいうには


「モンスターと生物に明確な線引きはない」

「あらゆる生物は生物であると同時にモンスターである」


 という事なのです。単純に経験則で見た目が恐ろしいものや、人に危害を加えた事例があるものをモンスターって言ってるだけなんだって。


 だから会ったことはもちろんないけどドラゴンだって動物なんだって!なんかそう考えたらドラゴンとも仲良くなれる気がしてくるわね。

 そう言えばアインフォードさん達といつも一緒のエイブラハムさんはミニドラゴンだったわね。なんだ、ドラゴンと仲良くしてる事例が超身近にあるじゃん!


 そう言えば「動物と話す」っていう魔術があるけど、これってさっきの定義だとあらゆるモンスターともお話しできるようになるのかな?でも上位呪文に「魔物と話す」ってのがあるしなぁ。うーん。今度偉い人に聞いてみよう!




 10月某日


 この間お店に来てわたしに着火の魔術を披露したヘルミーナお嬢様が今日も遊びに(?)きたの。

 この方、領主様のお嬢様なのにこんな頻繁に下町に来て大丈夫なのかしら。

 でもあの時は驚いたかも。通常魔術の才能がある人って10歳までに何らかの魔術的事象を引き起こすことがあるの。

 それから訓練をしてさらに才能がある人だけ魔術師を目指すものなんだけど、あのお嬢様12歳でいきなり魔術の才能を発現するなんてちょっと考えられないのよね。


 しかも驚いたことに今日来たときは最初わたしに見せた着火の魔術以外にクリエイトウォーターまで体得してたの!

 一緒に来たサラさんも驚いていたわ。サラさんが言うにはヘルミーナお嬢様には魔術の才はないって言われていたんだって!それがいきなり発現したんだからびっくりよね。

 何かきっかけがあったのかな。




 10月某日


 アインフォードさん達は今どのあたりにいるんだろうな。もう北の砦には着いているかも?

 わたしって昔は貧乏だったでしょ?だからってわけでもないんだけど他の街とか行ったことないのよね。もっとも大半の人はそうだと思うけど。


 北の砦に行く前にシュライブベルグに立ち寄るって話だし、一度行ってみたいかも。

 でもシュライブベルグは歓楽街が有名な街なのよね。どんなところなんだろ。治安も悪いっていうしやっぱりヘルツォーゲンが一番なのかな?


 何かお土産頼んでおけばよかったかも。やっぱりわたしも冒険者登録しておいた方がいいのかなあ。




 11月某日


 リコリスさんから出されてた宿題なんだけど、やっぱり難しい。広域化ってそもそもあまり例がないのよね。

 ポーションを気化させるって発想はリコリスさんやアインフォードさんも間違いないって言ってくれてたけど、ものすごく効力弱っちゃうのよね。


 それを初級の冒険者でも買えるくらいの値段にってむちゃぶりかも!


 でもわたしはちょっとだけ突破口を見つけたの。それはスリープの呪文。通常魔術っていうのは対象を決めてそこにマナを集中させることで発動するのよね。例えばファイヤーボールはエリアエフェクトの攻撃呪文だけど、爆発点を指定することでそこを中心に効果が発揮されるの。当然発動点から遠いところは効果が弱くなるわよね。


 ところがスリープの呪文は発動点を指定するのは同じだけれど、効果範囲に等しく効果が発揮されるのよね。

 この原理を利用すれば効果範囲内で等しく治療効果の得られる気化ポーションが作れる…かも?




 11月某日


 迷ってたんだけどわたしも今日冒険者登録してきちゃった!なんといってもわたしったら50年前には市民権もあったけど今は身分証明するものが何もないし。これじゃ他の街なんか行けないからね。


 もともと研究ばっかりやってたせいでモンスターと戦うなんてことはしたことなかったんだけど、この間ゴースト化してた時に得たマナ量はそのまま維持できているのよね。

 だから驚くべきことにわたしったら第四位階まで魔術使えちゃったりするの!


 冒険者に限らず魔術師は第三位階を使用できると一流って言われるのよね。実際ヘルツォーゲンにおいても第三位階を使用できる人は10人もいないのじゃないかしら。

 悲しいことにオークの狂化事件でそういった高レベルの魔術師の方が何人も亡くなっているのよね。


 それで第三位階を使用できると冒険者は無条件でBランクのゴールドタグ認定されるのよね。私も当然ゴールドタグ認定されるかって思っていたんだけど、ギルドのウドさんに呼ばれて「ちょっと隠しとけ」って言われちゃったよ。


 ウドさんが言うには、わたしはモンスターと戦った事なんかないのにいきなり第三位階の魔術師だって宣言しちゃうと強力なモンスターと戦う様なパーティに付いていかないといけなくなっちゃうかもしれないからって。


 確かにそんな恐ろしいことは勘弁かも!というわけでわたしは最低ランクのFからスタートです。

「命の危険を感じたらファイヤーボールでも何でも使ったらいいが、普段は駆け出しとして戦いになれることを優先しろ」ってウドさんは言ってた。ある程度戦い慣れたら改めてBランクにしてくれるって。見た目と違ってウドさんイイ人よね。


 そう言えば別にランクにかかわらずどんな依頼を受けてもいいんだって。Fランクでドラゴン退治を引き受けても問題ないらしいよ。

 一応ウドさんもそんな無茶なことをする人は止めるらしいけど、それでも聞かずに行っちゃって死んじゃう人もいるんだって。

 何考えてるんだろうね?




 11月某日


 今日はお店にシロウさんとオイゲンさんがやって来たの。オイゲンさんは顔中髭もじゃのおじさまでシロウさんと同じくBランクの冒険者さん。この間まで王都に行ってたんだって。

 なんでも面倒見の良い人でこの街の冒険者ギルドでは「アニキ」的存在らしいです。


 それで不穏な噂を教えてくれたの。

 4年前にジークルーン帝国と一応の停戦協定が結ばれて100年に及ぶ王国と帝国の戦争は収まってたのだけど、また再開するかも知れないって。


 戦争の舞台となっていたのは大体王国と帝国の間にある「アウレール平原」なんだけど、その真ん中にいくつかの岩塩鉱山があるの。


 そこの領有権をめぐっていつの時代も小競り合いがあったのよね。今は7割くらいを王国が領有しているみたい。帝国はそれが面白くないのじゃないかっていう噂。

 わたしが生きていた時代から50年経ってもまだ戦争してたのも驚いたけど、帝国も本当に迷惑な人たちよね。もともと件の岩塩鉱山は王国の領土だし3割も貰ったんだから大人しくしておいてほしいものだわ。


 それでもし戦争が再開されたら騎士団も参戦するし、冒険者ギルドにも傭兵募集がされるらしいわ。

 冒険者って市民権もないから徴兵されることはないのだけど、個々の戦闘技量は高い人ばかりなので傭兵としては重宝されるんだって。


 この間わたしも冒険者登録したけどもちろん戦争なんて恐ろしいところには行きたくないかも。っていうか絶対無理!




 ペトラは万年筆を置き窓から外を見やった。季節は晩秋である。ヘルツォーゲンの冬はもうそこまで来ており、窓から入り込む風も冷たさが感じられる。

 窓から空を見上げると大きな姉の月と小さな妹の月がともに半月で夜空に輝いていた。


 ペトラは思う。自分という不思議を。


 リコリス魔法商会に集うメンバーは不思議な人間ばかりだ。アインフォードやキャロットは常軌を逸した魔術の使い手であり強力な戦士でもある。他の冒険者や兵士、騎士と比べてもその実力は飛びぬけて強力である。


 リコリス自身も真祖ヴァンパイアなどという伝説に語られるアンデッドであり一人で街一つ制圧出来てしまうほどの恐ろしいモンスターだ。


 そして自分自身である。気が付けば死んでいてゴーストとなり、そして生き返ってみれば第四位階の魔術を使用できるようになっていた。

 第四位階である。ヘルツォーゲン筆頭魔術師であるコンラートと同じ位階をこの一八歳の少女が使用できるのである。


 アインフォード達が居なければ今のペトラは存在しないわけだし、それについてはペトラも感謝をしている。

 それでもペトラは自分自身をありえない状態だと考える。

「わたしったら何かをなさなくちゃいけないのかな。」


 ペトラはしばらく窓から外を呆と見ていたが、入り込む風に身を震わせそしてそっと窓を閉めた。

 今晩は冷えるな。そろそろ雪になってもおかしくないかも、とペトラは呟き北に向かったアインフォード達の事を少し考えた。


 あの人たちは私以上に不思議の塊だし、心配する必要なんてまるでないわよね。

 クスリとペトラは微笑み魔導灯のシャッターを下ろしたのだった。


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