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リコリス魔法商会  作者: 慶天
1章 魔法屋の女主人
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オープンクエスト

 お昼を回ったところでアインフォード様たちがお戻りになりました。どうやら都合のいい依頼が今日はなかったようで昼からはキャロットさんと裏で訓練をするという事です。あのお二人の剣術の稽古はすさまじいので、巻き込まれないように私はお店に避難していようと思います。


 アインフォード様とキャロットさんは冒険者ランク「E」です。冒険者登録して半年にも満たないのでまだ初級ランクです。実際の実力はそれどころではありませんが、ギルドに貢献という事ではまだまだ評価がされていないようです。

 ちなみに私も冒険者登録してありますが、まだギルドの依頼を受けたことがないので「F」のままです。今度素材採取を兼ねて何か依頼を受けてみようかしら。

 アインフォード様たちは休憩を挟みながら今日は夕方まで稽古をされていました。どうやら今日はもうどこにも行かれないようですね。


「リコリス、明日は私とキャロットで騎士フランツの屋敷に行くことになった。エイブラハムは留守番に置いていくので、お店の方はよろしくお願いするよ。」

 その日の夕食中アインフォード様が明日の予定をお話になられました。

「はい、承知いたしました。騎士フランツ様からのお呼び出しですか?」

「ああ、なんでも最近物騒な事件が頻発しているようでね。騎士フランツはまたしても事件解決に名乗りを上げたようなんだ。まったくあの騎士様はお年の割に元気なことだよ。」


 騎士フランツ様は半年前の「ヴァルト村盗賊事件」で勇名をはせ、この春一代限りの騎士爵から世襲が認められる男爵に陞爵されました。領地としてフランツ様の出身地であるヴァルト村一帯を拝領したという話です。


 その事件にアインフォード様も関わっており、騎士フランツ様と共闘したという関係で騎士様は私達にいろいろと便宜を図ってくれます。そもそもこのお店を開くことができたのも騎士様のお口添えがあっての事なのですから、私にとっては恩人という事ができます。


 騎士フランツ改め、フランツ男爵様には跡取りのライナー様がいらっしゃいます。おそらく今回のその「物騒な事件」をライナー様とともに解決し、その手柄を持って家督を譲るつもりではないかとアインフォード様はおっしゃいました。ライナー様はお年が20歳、すでに騎士に任じられております。フランツ様のお年が60歳という事からもずいぶん遅いお子様だったようですね。


「アインフォード様はライナー様にお会いしたことがおありなのですか?」

「いや、騎士ライナーは王都で騎士団に属しておりここ数年ヘルツォーゲンには戻っていないという話だ。なんでも中隊長らしいぞ。今回おそらく後継ぎの件で戻ってくることになっており、私たちが明日呼ばれたのはその騎士ライナーとの面通しという事じゃないかな。」

 つまりそれほどまでにアインフォード様は騎士フランツ様に信用されているという事なのでしょう。


「ところでアインフォード様。その『物騒な事件』とは何なのでしょう?」

 キャロットさんが私の質問を代弁してくれました。そういえばロジーおばさまも夜は物騒とかそういった話をされていましたわね。

「朝方ギルドに行ったとき受付のウドさんから聞いたんだけど、どうにも『辻斬り』が何件か発生しているようなんだ。一度依頼書が掲示板に出たらしいんだけど、それを受けた冒険者チームが返り討ちにあったみたいでね。オープンクエストにするからお前らもがんばれって言われたよ。」


「オープンクエストとはどういった意味なのかしら?」

「簡単に言えば早い者勝ちってことだよ。解決したチームに賞金銀貨100枚だそうだ。」

 銀貨100枚とは大金ですわね。質素に暮らせば1年暮らせなくはない金額ですよ。

「それで、アインフォード様はそのオープンクエストに参加しやがるおつもりですか?」

 キャロットさん…先ほどから騎士フランツ様が…、という話を聞いていらしたのかしら。食べることに夢中になりすぎでは?…などといったことを言えるはずもなく。

 おそらく騎士フランツ様はアインフォード様にライナー様と共同で捜査を、とか言ってくるのではないでしょうか。ひょっとしたら護衛を依頼とかもあり得るかもしれません。

「キャロット、私たちが明日、騎士フランツの屋敷に呼ばれたのはおそらくこの事件が絡んでいると思うよ。」

 アインフォード様はなんとお優しいのでしょうか。

「なるほど。…ところで、辻斬りとは何のことですか?」

 さすがのアインフォード様もずっこけました。


 次の日の朝2つの鐘が聞こえた頃、アインフォード様とキャロットさんは騎士フランツ様のお屋敷に向かわれました。

 というか、私はそれどころではありません。アインフォード様が出ていくのを見計らったかのようにたくさんのお客様がお店に押し寄せてきました。


「リコリスさん!俺はこのポーションを買うぜ!」

「リコリスちゃん、あたしには着火石を売ってくれるかい?」

「おお!リコリス!閃光玉を売ってほしいんだが!」

「拙者は毒消し剤を所望する!」

 冒険者さんや近所の方が次々と押し寄せてきました。

「ひ、ひぇ。あ、あの、一列に並んでいただけますでしょうか。」

 もはや猫の手も借りたいとはこのことです。とりあえずエイブラハムさんがアイテムの品出しなど手伝ってくれています。

「おお!おめーらリコリスちゃんが困っているだろう!並べ並べ!」

 治安維持団の、たぶんこの方は隊長さんのブルーノさんだったと思うのですが、いきなり仕切りだし皆さんが一列になりだしました。


「いやぁ、昨日オイゲンの旦那から聞いたんだけど、ここで買い物をするとリコリスちゃんの手作りアクセサリーをもらえると聞いてさ。…貰えるのかな?」

 どうやら皆さん「折り紙」のサービス品目当ての様です。あれは「折り紙」の宣伝にお渡ししている物なのですが、なんか違った方向に広まっている気がします。

「で、リコリスちゃんが作ったやつを俺は欲しいんだが!」

「いやいや、僕はキャロットさんのを頂きたいです!」

「あたしたちはアインさんのが欲しいです!」

 しかも製作者を指定してきます。明らかに何か間違っています。

「え、えと。これは『折り紙』といいまして、この『折り紙セット』で誰でも作れるようになるものなのですわ。そ、その1セット大銅貨1枚で販売していますので、よろしければこちらを…。」

「ほう!これを買えば自分で作れるのか。それはそれで面白そうだが、『リコリスちゃんが作った』というのが重要なのだっ!」


 …はあ。もう、何でもいいです。売り上げには貢献しているようなので皆様のご要望通りご希望の製作者の「鶴」「バラ」をお渡ししていくことにしました。

 男性のお客様は私かキャロットさんの作ったものを、女性のお客様はアインフォード様の作ったものを望まれることが多いようです。確かに私もキャロットさんも「美人」のステータスを持っています。やはり男性は美人に弱いのでしょうか。それにしてもアインフォード様がここまで女性に人気があるという事は知りませんでした。実際に戦っているところを見たのならわからなくもないですが、私も含めてアインフォード様が戦っているところを見た人はあまりいないはずなのですが…。


「ち、しかしアインの野郎は女どもに何であんなに人気があるだろうな。冒険者登録は確かにしているが、碌に依頼も受けずにリコリスちゃんに養ってもらってる昼行燈じゃねーか。まったくイケメンはずりーぜ。」

 何か聞き捨てならない言葉が聞こえてきたような気がします。どうにもアインフォード様は女二人に貢がせて遊び歩いている「遊び人」のような扱いを受けているような?


 これは誤解を解いておかねばなりません。皆さんはお知りにならないでしょうが、まがりなりにもアインフォード様は「ロード」の称号を持っていらっしゃる立派な方です。


「あ、あの!アインフォード様は立派な方です!アインフォード様は私達に毎日たくさん優しくしてくれます!ですので私はアインフォード様に仕えているのです!」

「っく!あの野郎!なんてうらやま…いや、けしからん!」

 あ、あれ?なんか誤解がひどくなったような?


「そうだ!リコリスちゃん、アインの野郎に来月の建都祭の闘技大会に出るよう言ってくれないか?俺達も出場する予定だし、あの野郎に一泡吹かせてやるぜ!」

 建都祭に闘技大会ですか…。初めて聞くワードが出てきましたね。でもアインフォード様が出場したらきっとあっさり優勝しちゃうんじゃないかなぁ。だってアインフォード様とキャロットさんは私が召喚したエルダーリッチを倒しているのですから…。アインフォード様とまともに戦えるのはおそらく夜の私か、キャロットさんくらいではないかと思うのです。昼間では絶対に勝てないと思いますが、夜なら少しは勝算がありますでしょうか。

 …夜の私、とか夜の戦いとか、いったい私は何を考えているのでしょうか。アンデッドなので顔が赤くなるといったようなことはありませんが、ちょっと恥ずかしくなってしまいましたわ。


 ちなみに私は200年間引きこもっていましたので、書物などから男女のお話はある程度知識があります。キャロットさんはおそらく、ほとんど知識がないでしょうね。ふふん。


「建都祭…ですか?」

「おお、そっか、リコリスちゃんはこっちに引っ越してからまだ日が浅いから知らないか。毎年4月にこの都市に入植を開始した日を記念してお祭りがあるんだ。多くの露店が出てこの国以外からの商品も並ぶからリコリスちゃんも楽しめると思うぜ。」

 それは面白い素材が買えるかもしれませんね。ちょっと興味があります。


「で、その中の目玉が闘技大会だ。ここの領主様は代々武を尊ぶ家柄なんでな、優勝者は希望の騎士家の従士に取り立ててもらえるんだ。騎士になりたい奴や単に腕試しに出るもの、賞金や商品を目指して出るものなんかで結構盛り上がるんだぜ。」

 なるほど。貴族になれるチャンスでもあるわけですね。従士から騎士になるためにはそれなりに厳しい訓練もいるでしょうが、闘技会で優勝できる武力があればそれも可能なのでしょう。

「うわさじゃ今年は魔女カタリナ所縁の品が景品になるって話だぜ。」

 それは聞き逃せないお話ですね。アインフォード様は魔女カタリナ様の遺産にいたく興味がおありです。お帰りになったらこのお話をしておきましょう。

「とにかく、あの野郎に闘技会に出るよう言っといてくれよ!」


 それからもお客様は私達の作った折り紙を目当てにたくさんいらっしゃいました。そして作り置きの分がなくなってしまったので、私が急いで「鶴」を折るという事になってしまいました。私のものを欲しがる方は大体男性でしたので、必然的に鶴が不足するのです。

 結局本日はこのお店を開いて以来最高の売り上げを記録しました。銀貨50枚を超える売り上げが上がってしまったのです。こういうのをなんというのでしたっけ。確か…「笑いが止まらない」でしたっけ?

 ちなみにこの日は「折り紙セット」も結構出ました。でも買って行ってくれた理由は「比較的お手頃価格の商品だから」という理由が多いような気がします。だってみなさんおまけの「鶴」や「バラ」が目当てなんですもの…。


 その日の夕方になってアインフォード様とキャロットさんがお戻りになりました。ですが、どうにも様子がおかしいです。主にキャロットさんが激しく怒っているようです。アインフォード様はどうしたものか、と困惑しているような様子です。いったい騎士様のお屋敷で何があったのでしょうか。


 リコリス魔法商会アイテムNO.17

「着火石」

 お値段大銅貨1枚。

 強くこすりつけると火が付きます。

 一瞬で火が付きますので火起こしが楽になります。

 湿気に弱いので保管するときは水濡れ厳禁です。


 リコリス魔法商会アイテムNO.18

「毒消し剤」

 お値段銀貨3枚。

 毒消しのポーションです。

 毒をもったモンスターの攻撃を受けると死に至ります。

 そんなときのために一つは持っておきたいアイテムです。


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