どうぞよろしく
そのまま、道場のほうまで逃げていった。修練の時間まであまり時間がないため、ナナの意思はあまり問わなかった。後で、送ることにしよう。
道場の近くのベンチにナナを座るようにおろした。気の抜けた顔をしていた。
「ナナ」
声をかけた。
「もうおろしたぞ」
全く反応しない。
「起きろ」
少し頬を叩いてやった。
「へぶっ」
「気が付いたか」
気が付いたナナは、辺りを見渡した。まったく知らない風景に驚きの表情が浮かんでいた。
しかし、俺に気づくと少しほっとしつつも、顔を赤らめていた。
時間に余裕はないので、こちらから問うとしよう。
「なんの用だったの」
「はう。あ、あのですね・・・」
「うん」
「シンについていかせてください」
「へっ」
いきなりのことだった。
「えっと、つまり。俺がいいと言ったら、これからナナは俺の後ろについてくることになると」
「はい」
力強く言い切った。
「むう」
断りづらい。けど、どうなるかわからないしな。
「うーん。とりあえずついてきて」
「は、はい」
なにもいわずについてきてくれたナナを連れてきたのは、道場である。
「ここは俺の通ってる道場だ。そして、俺の住んでいる場所でもある」
「へえ、ここに住んでるんですね」
簡単に紹介したところで入っていくことにした。
「訓練生シン。ただいま戻りました」
返事はない。ナナは隣でおどおどしている。
すると奥から悲鳴が聞こえてきた。
「うぎゃー。まあ落ち着きたまえ。話せばわかる。そのまま。動くなよ。よーしよし。」
「何してるんですか。」
「うわっ。てあっ。」
いきなり殴りかかられた。
「危なっ。」
よけたのち、腹パンを入れた。
「ぐふう。」
そのまま放置して、騒ぎの原因、ミークラビットを外へ逃がした。おとなしく何もしてこないのだが、この通れている奴はすごく怖がっている。
「おい、起きろ。もういないから。」
足で軽めに蹴っ飛ばしながら、いった。
「う・・・うう。はっ。おいシン毎回毎回ひどくないか。」
起きてすぐに怒ってきた。これを俗にいう、逆切れだろう。
「あんたが殴りかかってくるからでしょ。正当防衛だ。」
「く。なんか横腹も痛いんだが。」
「床に打ち付けたときでしょ。」
「そ、っそうか。なんか蹴られた感じがするんだが。」
とりあえず、話題を変えよう。
「入門者、連れてきた。」
そういい、ナナを前に出した。
「へぇぇ」「えぇぇ」
二人そろって驚いていた。聞こえてないのかな。もう一度。
「入門者を、連れてきた」
まだぽかんとしている。ではもう一度大きな声で。
「にゅうも」
「聞こえてますよ」「聞こえとるわ」
「なら返事してくださいよ」
「いきなりすぎて何のことか。とりあえず落ち着いて話そう。お茶でいいかい。」
「はい」
俺たちは茶の間へ向かい、そこで事情を話した。
「・・・ということです。理解しましたか。」
「うむ。入門するはずのその子が全く理解してなさそうだけど。」
「あたりまえじゃないですか。さっき師匠と同じタイミングで知ったんですから。」
「いきなりだったの。」
「はい。もう少しでいいから入門者ほしいって言ってたじゃないですか。」
「言ったけど。言ったけども。本人の意思はどうなの。」
師はナナに聞いた。
「ひゃい。自分は学ぶ側にありますので教えていただけるのならば、入門させていただきたいと考えています。」
「「そうなの。」」
今度はこちらが驚く番だった。
「えっ。こんなぼろぼろのとこだよ。奇妙なおっさんと俺しかいないとこだよ。 魔法のことなんてこれっぽちも教えられないよ。それでもいいの。」
「おい、お前俺はおっさんという年じゃないぞ。まだ、29だぞ。それ以外は認めざる負えないが。」
「ほら、こんなとこだぞ。それでも入るのか。」
「はい。それでシンに一歩でも近づけるのであれば、よろこんで。」
即答され、俺も師匠も断れなかった。
これでナナの入門が決まり、俺の一風変わった生活が始まった。