集合
カノンの過労は仕事によるものだった。連日働きつめて武道祭の日に来てくれた。そばにいてやりたいのだが、仕事をしないわけにもいかない。また、一人で出掛けるとする。
受注所でクエストを決めていた。
「シン、ですね。」
いきなり後ろから声をかけられた。
「そうだけど。誰。」
「ナナ様より使いとしてやってきました。」
ナナから使い。なにもしていないはずだが。
「金が尽きそうなんだけど。今日じゃないと。」
「だめです。」
ナナから呼び出したのだ、重要なことだろう。ついていくことにした。
連れてこられたのは道場だった。
「私はこれで。」
使いの人は去っていった。
「来ましたね。」
「用件はなんだ。」
「まずできなかった、対戦をするとしましょう。」
ナナは構えた。ここはいつも手合わせをしていた場所だ。広さは十分。
俺は無言で構えた。同時にナナは連射してきた。
爆裂矢だ。先端に触れれば大爆発。ナナの魔力ならば家1つチリにできるだろう。
「ははっ。」
「笑っているとは余裕ですね。ならば。」
ナナの周りの魔方陣が浮かんだ。千の矢が飛んでくる。だが、さっきよりは当たっても大丈夫。
「まてや。シン。」
ブラフに止められた。矢の1つに触れた。
「ぐぁ。」
千の矢1つ1つが爆裂矢のようだ。避けなければ。
さっきから一向に近づけていない。
焦りが混乱を招く。近づこうとするがいい考えが思い浮かばない。
魔力に頼るな。師匠の言葉だ。
そうだ、頼っていた。溜めてきめようとしすぎていた。自分の身体能力を生かしていない。魔力を貯めずに戦えば、行動にラグがなくなる。
「さぁ。次いきま…」
矢を構える一瞬で詰め寄った。
「あいにく、ナナに負ける気はないね。」
そのまま張り手をかました。
「相変わらずですね。」
ナナは負けたと認めた。少し話し合うとしよう。
「シンがギルドを立ち上げるのなら、私は全力で阻止します。」
怒りの感情が入っている。
「あの日の事か。今も後悔してるよ。もっと強くあればと願った。」
「シンはあの日、私たちがもう一度いったクエスト中に逃げ出しました。絶対に許さない。」
ナナは涙が出るほど怒っている。しかし
「逃げただと俺は逃げてない。」
「嘘をつかないでください。私たちがモンスタートラップにかかったというのに、あなたはいなかった。助けに来なかった。」
クエストは洞窟探索だった。洞窟はモンスターが大漁に呼び出されてしまう部屋が存在する。それにナナたちはひっかかっていたのだ。
「俺はいなくなったんじゃない、飛ばされたんだ。いつの間にか洞窟の入るまえのところにいた。だが、そのあと走っていったらモンスターの大群に襲われたんだ。」
「そんな話信じると思いますか。ケイを騙したからといって私は騙されません。」
「誰に聞いたんだその話は。」
「マギニファート・ワッフ現団長カサギから。」
驚かざるおえなかった。あの日一緒に行動したやつじゃないか。
「カサギはシンが逃げていく姿を見たと言っています。トラップにかかる少し前に逃げていったと。」
「そんなことはしていない。お前らを置き去りにできるわけないだろ。」
「ならカサギが嘘をついているというのですか。」
「そうなるな。カノンに聞いてみてくれ。あと助けてくれた人たちにも。」
「今からいきます。」
ナナは走っていった。俺もそれに続いた。
「カノン。起きてますか。」
「えっ。あっ、はい。」
カノンもいきなりきたので驚いている。
「あの日の話、聞かせてください。」
「いいですけど。今度はちゃんと聞いてくださいね。」
前にも説明したことがあるらしいのだが、ケイは聞いていたのだが、ナナはなにも聞こえないようだったらしい。また、説明しようと機会をうかがったけれど、それ以降は見なくなったのだ。
「ゴドフリーの件から数ヵ月後あなた方が久しぶりに出発するというので、私はあなた方を常に探知していました。アサギという魔導師が少し怖かったというのもあります。」
たんたんと話始めた。ナナは怒りを思い出すかのように聞いている。
「あなた方は順調に進んでいると思っていました。けど、いきなりシンの反応だけ消えたのです。その直後、モンスタートラップにかかりました。シンを探すと入り口に反応がありました。」
ナナは怒りから驚きに変わっている。
「あの日のあと少し入り口の辺りを捜索しました。すると、シンの反応が出た辺りに召喚魔法がかけられた痕跡が発見されました。おそらくそれでシンがいなくなったのでしょう。」
「じゃあ、アサギは嘘をついていた。」
「そういうことになるな。」
「その召喚魔法を敷いたのもアサギということ。」
俺は無言でうなずいた。
「じゃあ、今までのはなんだったの。シンに復讐するために強くなった。けど、負けた。私は意味がない。生きる意味は。じゃあ、アサギを殺せばいいじゃない。」
ナナが恐ろしくなった。近寄りがたい雰囲気が感じられる。
「ふふふ。そうよ。こうなったのはあいつのせい。じゃああいつを殺せば。元凶を殺せば。あははは。」
ナナがいきなり走っていった。俺は止められなかった。
「おー。見舞いにきたぞ~。」
ケイがやって来た。
「ケイ。」
ケイはナナの腕をつかんだ。
「ぐっ。はなせぇぇぇ。」
「離したらアサギのとこにいくつもりだろ。だったら、元番兵として人を殺させる訳にはいかねえな。」
そのままナナを床に伏せさせた。ケイもかなり強くなっている。
「あいつがあいつさえいなかったら。」
「おぉ。そうだなあいつさえいなければな、あんなことはなかったな。」
ナナを押さえながら、ケイはすべて分かっていたかのように、悠長に話している。
「だが、ちょっとやりすぎだ。少し眠れ。」
ケイはカバンから取り出した草をナナの顔に近づけた。ナナはすぐに眠ってしまった。
「ははは、大変だな。」
「なんでカバンから眠り草出てくるんだよ。」
「効果は弱めてあるからすぐに起きるさ。」
番兵では持っている人は多い。それは元番兵でも名残で持っている人もいる。
「しっかし、暴れたな。」
「ああ。」
「ぅぅぅ。」
ナナが起きた。
「うぅっ。私はどれだけ無駄な時間を。」
俺が行こうとしたのをケイに止められた。
「おい、ナナ。無駄な時間などなんいんだ。お前がマギニファート・ワッフで積んだ経験は、復讐の心を鍛えただけか。違うだろ。強くなっただろ。」
ケイは成長している。大人になっている。
「シンはギルドを立ち上げると言ってる。それを手伝うことできるだろ。シンがギルドを立ち上げるのは、今よりも多くの人を救うためなんだ。それに協力しないか。」
さらっと勧誘までしている。
「はい。私ができることをするまでです。マギニファート・ワッフは脱退します。今までのようにはいられないでしょうし。シンの立ち上げるギルドも応援します。私も加入名簿に入れておいてください。」
そのナナには昔と変わらない、懐かしい笑顔があった。
「けど、私が入るからには最強を目指しますよ。」
「ああ、よろしく。」
ナナが加入してくれることに決まった。
「後、一人で設立できるか。」
「ああ、それなら問題ねえ。なっ。」
ケイは扉の方を見た。
「気づかれてましたか。」
一人の少女が出てきた。
「お前はリンカか。」
「そうです。私はあなたの考えと強さに興味があります。近くで観察する以上の、知るための行動はないと思います。」
相変わらず機械のような口調は変わらない。
「じゃあギルドに。」
「はい。よろしくお願いします。」
「「「いよっしゃー」」」
俺、ケイ、カノンが喜び、声を上げた。ナナは顔を背けていた。リンカはというとそのまま無表情のようだった。
そして、そのあとギルド設立の書類を出し、拠点は商店街の空き家にしギルド「メッゾ・エロウ」が設立された。