自分がしたこと
「おい、ケイ。しっかりしろよ、なあ。」
傷を負いケイを抱えなから叫んでいた。
「ふふふ。もっと周りを見なさい。」
声が聞こえて、周りを見渡した。
「おい、ナナなのか。それに他のやつらも。どういっ。」
声の主の方をみた瞬間に、声が止まった。
「なんで。なんでいるんだよ。」
「お前を追いかけてきた末路だ。結局お前はなにもできない。」
嘲るような声に対抗しようとしたがそこから動けない。
その通りだ。なにもできない。肝心なときなにもできなかった。それが俺だ。悔しさで惨めになり、今にも意識が消えそうだ。
「し……う…。…え……。シン!」
大きな声に驚いた。
「わっ。もう。びっくりするじゃないですか。全く。うなされてると思ったら、いきなり飛び上がるなんて。」
そうだ、カノンの寝顔を見てたら寝てしまっていたんだ。さっきのことはすべて夢だった。
「あれー、シン、泣いてるんですか。そんなに怖い夢だったんですか。私が慰めて。てっどうしたんですか。」
俺はカノンに泣きついていた。一日だけでいろんな事があった。新たなモンスター、出会い、そして悪夢、と。
「シン。何があったんですか。」
「俺がいたら、皆死んでしまう。関わったら死んでしまうんだ。今まで関わったシーカー達、そしていつかカノンも。」
それ以上の言葉は出てこなかった。チナの言葉はもう頭になかった。夢で皆が傷つくなか俺だけ無傷だったことが悔しく、苦しかったためだ。
「大丈夫です。私はシンが守ってますから。」
「俺は誰も守れないよ。助けもできない。」
「もう、そんなことないですから。」
「シーカーやめようかな。」
カノンは泣きそうな顔をしている。そして、立ち上がり、走っていった。
怒らせてしまった。もう笑い会うことはないだろう。これでいい。俺の近くにいなければ。もう少しと、また、目を閉じた。
なにやら外からの騒がしい声で起こされた。もう、クエストを受けにくる時間なのだろう。体を起こしてとりあえず外に向かおうと思う。行き先を決めているときに扉が大きく開いた。
「はぁ、はぁ。シン。まだいますね。皆さんこっちです。」
カノンが走ってきた。安堵と絶望とその間をさ迷う俺の感情はカノンが呼んできただろう人々にかきけされた。
「おい、やめるって本当か。」「なんでやめちゃうの。」「まだまだ現役じゃろう。若いのにやめちまうんか。」
人が押し掛けてきたと思ったら、いろいろな声が次々ととんできた。
「あなた方は。依頼された方々ですよね。」
「そうですよ。皆シンがシーカーをやめるというのを聞いて来た方々です。読んだのは十人くらいだったんですけどね。」
そこには農家の人々、商店街の人々と砦の中の村人たちの多くが集まっているだろう。
「はい。今日でやめようかと思います。」
「ほんとにいいんですか。シン。なんで皆さんが来たかわかった上でそういっているんですか。」
「俺は畑での討伐を何回か頼んでる。ギルドに頼んでも受け持ってもらえなくて、金もないのに、払えなくて困ってたんだ。一般の方に頼んでも全然誰も見てくれてないんだ。畑はモンスターの住みかになってて、やっと討伐を聞いたときは頼んでから何ヵ月もたってからだった。けどなあんたがやってくれるようになって。早く対応してくれて。そのお陰で収穫が増えてるんだ。」
「私は採集を頼んでいたわ。同じくギルドに受けてもらえなかったものをあなたにやってもらえたわ。それに、あなたのおかげでこの子はこんなに元気になってるわ。もう少し遅かったらどうなってたことか。」
俺の目の前におぼつかない足取りで小さな子が歩いてきた。俺の手を握ると、俺の方を見て笑った。
それから何個もの話を聞いた。同じような話ばかりだったが。その一つ一つが俺を絶望から安堵へ引っ張っていった。
「シン。これでもやめますか。あなたは他のシーカーには助けられなかった人々を助けてるんです。あなたがやめたら皆さんはどうなるんですか。」
「わかった。もう一度続けるよ。ありがとうカノン。」
「はい。…よかっ…たですぅぅぅ。」
カノンは泣いてしまった。
「皆さん遠いところありがとうございました。」
集まってくれた方々に礼をいった。
「ははは。今まで助けてもらった分があるだろう。こんなんじゃまだ足りないよな皆。」
この声に賛同の声ばかりが聞こえた。
「では、お前にこれをやる。」
それはお金だった。
「これは俺たちが皆で貯めていたお金だ。皆で集め続けて貯まった金だ。だから、これでギルドを立ち上げてくれ。お前さんがその気がないのは知ってる。けどな、俺たちの夢なんだ。お前さんにはギルドを支える力がある。こんなところで立ち止まってほしくねぇんだ。有名になって、俺たちのことを忘れていても俺たちは嬉しいんだ。だから少ねぇかもしんねぇが、受け取ってくれ。」
金額は立ち上げるための金額を優に越えていた。
「受け取れません。まだ、決心がつかないんです。それに多すぎます。」
「まだってことは、少しはあるんだろ。あと、余った分は挙式にまわしてやれ。さっ、皆帰るぞ。」
全員すぐに去っていった。残されたカノンと俺。
「シン。よかったです。」
次はとても笑顔で言ってきた。
「心配かけてばっかだな。」
「そうですよ。少しは返したらどうなんですかね。」
「そうだな。」
カノンの方により、口づけをつけた。
「へっ。なっ。へぇぇぇぇ。」
とても驚いている。自分でもこれは返しているとは思わない。カノンを見ていたら勝手に体が動いていった。
「ごめん。嫌だったか。」
「嫌じゃないです。でも、今ので返し終わったつもりですか。」
「えっ。」
次は俺が驚く番だった。拒絶して逃げると思っていた。
カノンは目を閉じて、おとなしくしている。俺達はもう一度口づけを交わした。長い間、お互いの存在を確認するように。