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無血戦線  作者: なすみそ
楠田坰の「平和」
9/21

矛の向く先

 むせ返るような血の臭いと焦げ臭さが辺りに充満する。

 攻め込んできた兵はほとんど逃げた。この死体は――そんな兵の中でも勇気ある者たちのものだった。

 この細胞破壊装置……威力が洒落にならないほど高く、当たった者は悲しき一途を辿る。


 「ぎゃあああああああ!ぎゃあああ、ぎゃあああああああ!」

 叫び悶える兵からは血も流れていない。

 ただ、体内では……。

 「撃て撃て撃て撃て!」

 この銃――反動が無く当たったか分からないのが少し使いづらいところだ。

 そして――

 「あ、あ、あ、熱い!!熱い!!熱いいいいいいいぃ!!」

 細胞が暴走によって摩擦を起こし、体に熱を持たせる。つまり――焼死。

 やがてロシア兵はもがく事をやめ、体中に内出血を残して死んだ。

 「……あっけないな……。」

 「瀬戸さん、撤退です。」

 「なに?どうした?」

 「それが……鳥居秀悟が反乱を起こしたようで……空軍の兵士全員を連れて内閣に攻め込んだそうですが、今は皆拘束しているようです。」

 「そうか……わかった。あとはどうするんだ?」

 「あとは海軍の方で処分するそうです。陸に上がった敵兵はもういないかと。」

 「よし、撤退しよう。あとは総理の対応を待とう。」


 内閣

 「……総理。来られました。」

 中で待っていたのは長谷川総理と――

 「……鳥居、秀満くん……?君は都市部で警備をしていたはずでは……?」

 弱冠二十歳の鳥居秀満は都市の警備を任されている。その若さからは感じられない切れた頭は羨ましい限りだ。

 「……私の父が、何やら反乱をしでかしたと聞きまして……」

 「ああ、そうか……それで来たのか……」

 「瀬戸くん、少しいいかな?」

 そうだ。なぜ呼ばれたのか、それが知りたかった。

 「はい……私はなぜ呼ばれ――」

 「何か言いたい事があるんじゃないかな?」

 図星。この総理、人の考えていることが分かるのか――

 「……」

 「ん?どうしたかね?」

 「……私は……実力で兵をねじ伏せるつもりでした。」

 「……」

 総理は黙って聞いている。

 「それを……この小さな武器一つにその誉れを奪われたんです。だから……」

 「それだけかね?」

 皆まで言わせず総理が言う。

 「……え?」

 「戦争は勝てばいい……だから個々の実力を注視なんてしていられないんだよ……。分かるかね?」

 「……」返す言葉が見つからない。

 「さて……では消えてもらおうか。」

 「な……」

 「連れていけっ!!」

 突如、脇から黒服が飛び出してくる。瀬戸はこれに応戦した。

 「寄るな!寄るとこいつをぶっ放つぞ!!」

 黒服は一瞬ためらう。が、直ぐに総理が言う。

 「瀬戸くん、彼らはもうリスピリンの暴走対応をしている。だから撃ったところで無駄さ。さあ、銃を捨てろ。」

 「……本当ですか?」

 「嘘だ。」

 その刹那が命取りになった。あっという間に腕を捕まれ銃を奪われた。

 「さあ、秀悟くんと同じ場所に連れていけ。」

 視界が暗転した。


 「……っ痛ぅ!」

 「おい……大丈夫か?派手に落ちてきたからな……」

 その声の主は――

 「な、秀悟さん!?……あ、そうか……」

 「いやぁ、すまんな俺の反乱でお前まで……」

 「いえいえ、俺が思った事を言い過ぎたんですよ……」

 鳥居秀悟とは仲良くさせてもらっていた。

 その屈託の無い笑みを表情に浮かべ、誰もが彼を信頼している。

 そんな彼が、なぜ。

 「……どうして国に歯向かおうなどと……」

 「近いうち、この国は都市を地下に移す。」

 秀悟はきっぱりと言ってのけた。

 「その理由は、まだはっきりとは分からない。ただこの大戦が終わってから、それを行うはずだ。」

 「……」

 この地上の人種を屈服させるもの。それは――

 「核、ですか……?」

 「どうだろうか……。まだ分からんね。」

 「まぁ、どっちにしろ秀悟さんがなんとかしてくれますよね?」

 それまで押し黙っていた兵士の一人が言った。

 「分からんね……」

 「そう言えば、ここはどこなんですか?」

 瀬戸が尋ねた。

 「分からない。ただ地下らしいんだ。ちょうど、内閣の中心部の真下らしい。俺たちはそこから落とされた。」

 「なるほど……ん?という事は……俺の部屋が近い?」

 「あ、そうか。瀬戸さん地下に部屋を作ってたのか。」

 「ああ……あの部屋に穴を通じさせる事は……できますかね?」

 いやぁ、と秀悟は苦笑する。

 「我々にこの強固な壁が壊せますかねぇ……」

 「あ、そちらでしたら心配には及びません。先程総理に取られた武器は全て私の複製です。消音機サプレッサーや爆弾もあります。」

 「……やってみる価値はありそうだな……よし、やろう!」

 そうして極めて警備の希薄な(というか警備がいなく、食料が自動で届く)状態の中、実に二十日を経て、階段を手で掘り、何と瀬戸の部屋の床まで辿り着いてしまった。

 「……ああ、ここか……よし。」

 思いの外床は脆く、軽く銃器で刺激するだけで抜け落ちた。覚えている限りのカーペットの模様に合わせ、切り取る。

 「うん、違和感は無いな……これならいいか……。」

 そしてポケットから取り出したのは、記憶装置。ここに自分の記憶を保存して……また自分と同じ道を歩む者の、僅かでも道しるべになればいい。

 そして、引き出しに細胞破壊装置と、記憶装置をしまった。



 「――俺の部屋から出るより、壁を崩して出た方が良いかと思います。その方が、総理の不意を突ける。」

 「……分かった。崩せ!!」


 爆弾を設置し、一思いに爆破。

 そうして出た所は――ただ広い、広い地平線が見えるだけだった。

 「なんだここは……!」

 「まさか、地下都市計画がもうここまで進んでいるというのか……!?」

 「くっそ、全員出ろ!行くぞ!」

 秀悟の掛け声で全員が駆け出した。――のが全ての失敗だった。

 先陣を切って走っていた瀬戸や秀悟がゲートを通った瞬間、体中に違和感が走った。

 そして――灼けるような体の熱さと痛みが瀬戸の体を包み込んだ。

 「ぐぉ……!まさか……リスピリンの……!!」

 「瀬戸くん……っ!大丈夫っ……か……」

 「し、秀悟……さ……あああああぁ!!熱い熱い熱い熱い熱いいいいいいぃ!!」

 血液が沸騰する。眼球が飛び出る。脳が……焼ける。


 ――そのまま瀬戸が起き上がる事は無かった。

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