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無血戦線  作者: なすみそ
楠田坰の「平和」
8/21

とある手記から(全て)

 薄暗がりの中、三人はでこぼことした階段を登り詰めていた。

 「……まだですかね……まだ階段が……。」

 「ああ、恐らくまだかかるだろうな……。」

 もう十五分ほど登っただろうか。全く先の見えない階段に、ほんの僅かな光が射し込んできた。

 「……あと少しだ、頑張れ。」

 「はいぃ……。」

 橋川はともかく、外崎はもうへとへとのようだ。

 「外崎ぃ……大丈夫か……?」

 「大丈夫です……まだ……」

 なんとか声を返せる程度である。


 そうして息を切らしながらようやく登りきった。


 ――着いた先は、何の変哲もないただの部屋だった。

 床下から這い出し、揃って辺りを見回す。

 ぼんやりとしたランプの灯。至って普通の机。ただそれだけ。

 「なんだ、この部屋は……。」

 ふと、一つの推測が浮かぶ。

 「まさか……ここは内閣の地下の『部屋』か……!?」

 「へ、部屋?楠田さん、一体どういう……」

 「ああ、お前らは知らないのか……内閣の地下には資料室という政府高官しか入れない部屋があったんだが……まさかこことは……。」

 「楠田さん、もしかしたら重要な手がかりがあるかもしれませんよ!事実抜け出せたわけですし!」

 「……ああ、そうだな。……ん?」

 見ると、机の上にはある一冊の手帳があった。

 「これは……?」

 ペラペラと中をめくる。そこには三ページほどしか内容が書かれていなかった。

 「……手記?」

 「手記?手記ですか?何かあると良いんですが……」

 「……ありそうだぞ外崎。見ろ……第三次世界大戦について淡々と書かれている。」

 順を追って手記を見ていく。

『――これを読む事ができている、という事は私や秀悟と同じ道を辿って、刑務所からここに来たという事かな?ここは私の部屋だったんだ。ただ、あまりに我儘な頼みを時の総理にした際、反乱を試みた秀悟と共に刑務所送りにされた。まあ、仕方あるまい。』

 「秀悟……?誰だったかな……思い出せない……。」

『これを読んでいる君……もとい、君たちにはこの日本の曲がった政治を何としても地下の市民に伝えてほしい。私は確かに、戦争に参戦していたがここまで粗暴な計な流石に非人道的だ。……まだ間に合う。さあ、ページをめくってくれ。』

 「……」

 固唾を呑んで見守る二人と共に、次のページへ目をやる。

『「戦争」という行為を望む者は少なくない。自分の血が血を求めて行動を起こし、その結果は「栄誉」として称えられるためである。

 しかし、「戦争」を好まぬ者が半数以上を占めるこの国では、数を稼いで加戦できない。そこで戦力となるものは――技術。

 他国よりも秀でる技術を駆使した戦いは、敵味方関係なく「あっ」と言わせたものである。

 だが、それは前述した「戦争を望む者」にとってはさほどの悦びでは無かった。理由は簡単であった。

 要は技術よりも実力を見せしめたかった彼らにはあまり関係のない事であったのだ。そう――私にとっても。

 相手国の領土に乗り上げ、自らへの服従を誓わせる。これが私の望みであったが、相手国の軍隊は私の持っていた小型の――一見すると普通な――銃を見るなり飛び上がって逃げてしまったのである。これでは力を誇示する場面も無い。誠に身勝手ながら、私は完全に戦意を失ってしまった。

 私のような思いを抱いた輩はほとんどであり、そのほとんどが日本の戦い方に不満を覚えていたのだ。

 ――俺達は実力で占領するために乗り上げたんだぞ。死ぬ気でもいた。それを、こんな小さな武器一つに立場を取られたんだ。こんな不甲斐ない事ってあるかよ――

 その一声を皮切りに、我々は政府への不満や鬱憤を吐き出し吐き出し、遂には軍を去るまでに至った。

 ――その選択が正しかったのか誤りなのか、今となっては分からない。


 ――第三次世界大戦 元陸軍部隊長 瀬戸 三宗――』

 「……!瀬戸……三宗!!そうか、ここは瀬戸三宗の部屋だったんだ!」

 「へ?せ、瀬戸さんって誰ですか?」

 「瀬戸三宗……第三次世界大戦に於いて敵の血を流させずして陸軍を降伏させた男。だが彼は自分の力で戦いたかったらしく、それを訴え軍を去ろうとすると拘束された。……って事か……。」

 「なるほど……つまりこの人が俺たちの道しるべになってくれているわけですか……。」

 「そういう事だ。次は……最後のページか。」

 ――その先には、三人にとって神の一手となる最大の武器が記述されていた。

『私の所持していた武器の話をしよう。

 過去に語ったあの武器。そっとかざすだけで逃げられたあの武器だ。

 あの武器の名前、それは「綿密細胞破壊装置」とでも言おうか。

 そもそもこの武器が生まれるに至ったのは日本の科学技術が特に秀でていたからかな。


 細胞の中にある一つの物質。それは空気中にもふわふわ浮いている物質でね。「リスピリン」というものだ。

 それは細胞の中に潜んでいて、常に細胞の活動のストッパーとなる存在だった。

 それを利用すると身体がかなり健康的になるという発表をしたのが、日本だった。

 当初、それを活発化させるには放射線――レントゲンよりも少し強めなもの――を浴びせる事が最重要事項で、体への影響も心配された。でもほんの少しだから、リスピリンが活発化した時にその影響は全部戻ってくると分かったんだ。


 でもね。


 日本はこれを急遽中止した。

 なぜかって?これは政府や軍人だけの秘密なんだけど……まぁ、今の私の立場ではそんな事も言ってられないね……。

 このリスピリン。放射線を当てた途端に暴走を始めてね。細胞ごと爆発して……その人はバラバラだ。

 だから日本はこの技術の危険性を重々承知していた。


 これが、この「綿密細胞破壊装置」の秘密さ。

 この中には凝縮された放射能が入っている。レールガンと同じ要領だ。

 こいつを人に向けるとどうなるか――分かるね?

 だから私と対峙したあの兵士が逃げたのも分かるだろう?

 この銃は第三次世界大戦が終わったと同時に撤廃されたよ。あまりにも人命を軽く見すぎているとね。


 ……そんな事言ったら戦争はなんなんだ。と言いたくなったけど。


 まあ、私はこれを後の時代に伝えなければならない。

 こんなこともあろうかと複製を作っておいたのさ。だから国に返却したのは偽物。

 本物は私の机の中にしまっておこう。


 私の記憶と共に、ね。』

 「リス……ピリン!細胞核に付着しているあの物質が……。それよりも引き出し……!外崎、橋川!開くか!?」

 「……開きました。」

 てっきり鍵でもかかっているかと思いきや、何も無かった。

 「……これに気付かないとは……政府も手抜きが過ぎるな……。」

 中には、瀬戸の手帳の通りあの銃が。

 「これが最終兵器になるか……はたまた俺たちを地獄に導くものになるか……。」

 「とにかく、ここを出ましょうか。――刑務所の仲間も心配ですし。」

 「ああ、そうだな……お前たちは先に戻ってくれ。……鳥居が来るのは明後日だな。それまでには、戻る。」

 「分かりました……!」


 外崎と橋川が去ったあと、楠田は引き出しの中の装置を手に取った。

『私の記憶と共に、ね。』

 あの最後の書き込みの通り、引き出しには記憶保存装置があった。こいつを額にあてがい――意識はほんの一瞬、飛んだ。だが楠田にとってはかなり長い時間飛んでいたようなものだった。


 ――楠田は鳥居のもとへ急いだ。

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