つながる「道」
6月25日
今日、全軍部で徴兵式が行われる。
ただこの式は各軍部でバラバラに始まるため、政府の高官は誰も来ない。――士官を除いて。
聞いたところ、川舘と二階堂はもう式を終え、早くも準備を進めているそうだ。全く『点数稼ぎ』がよく窺える。
今なら――そう思い、楠田は飛行場にいた囚人たちのリーダー格、過去サイバーテロの容疑で逮捕された外崎に声を掛けた。
「……あと少ししたらでいい、全員を大ホールに集めてくれないか?話したいことがある。」
「全員……ですか?千五百人収容できますでしょうか……」
「ああ、あそこは意外と広くてな。詰めればなんとかなるだろう。頼む。これからの戦いで重要になってくる事なんだ。」
戦い。その単語を聞くなり、外崎は頬を引き締めて返事をした。
「分かりました。では、あと二十分程あとに集めます。」
「ああ、すまないな。」
この千五百人の生命を抱えている楠田。そこからはこの戦争に対する反感が感じられるなと、外崎は思った。
きっちり二十分。千五百人全員がホールに集まった。
「ありがとう、外崎くん。」
「いえ、彼らが皆、自発的に行動してくれましたから……」
そう言って外崎は少し嬉しそうに笑う。
――当初、誰の顔を見てもこんな明るさは無かったのに――
楠田はこの笑顔に翳りを落とさせた社会に苛立ちを覚えながら囚人たちにある一枚の紙を配った。
その紙を見るなり囚人たちの表情には驚きと困惑が生じ、すがるように楠田を見つめた。
「……書いてある通りだ。俺は、俺は……」
ふぅ、と一拍置いて話す。
「とにかく、この内容に賛成する者はここに残ってくれ。反対は――ここを去ってくれて構わない。」
楠田には分かっている。『この』作戦に反対したところで帰る場所が無い事を。だからこそ、こう尋ねたのだ。
「――誰が反対しますか。」
そして、外崎が声を上げた。
「俺は、ここに来てずっと貴方の目を見てきた。いつも、いつも寂しそうに俺たちを見ていた。そんな人が俺たちを零戦に乗せるわけがないと、確信していた。……こんな国に縛られるなら、いっそ自由を求めて死んだ方がいいさ。……なぁ!みんなそうだろう!」
そう言いながら外崎が壇上に上がる。
通夜のようにしんとなったホールに、外崎の鼓舞する声が響く。それに呼応するように一人が壇上に向かってきた。
「外崎さんの言う通りだ!俺は楠田さんを信じるぞ!こんな頭の良い人に巡り会えたんだ、ずっと付いていく!」
ホールの静寂が裂かれた。囚人たちの顔に明るい闘志がめらめらとみなぎってきて、がやがやと騒がしくなる。士気は充分に上がった――。よし、いける!
「静かに!」
いま、ここで最も発言力のある楠田が言った途端、ぴたりと騒ぐのをやめた。
「……この作戦を遂行するには、政府の目を避けなければならない。そのためには、だ。もっと動きを小さくしなければならない。幸い、零戦の改造は総理から了承を受けている。しかも政府がご丁寧にここを覗きに来るわけがない。そうなれば――」
「――誰も戦場に行かずに済む、という事ですか。」
「その通り。あとの日程は下にあると思う。私は詳しい事は分からないからね。コンピュータシステムは外崎くんを筆頭に活動して欲しい。部分改造は――」
「私に任せてくださいっ!」
そう声を上げたのは最後尾、つるりとした禿頭が特徴の若い顔だ。楠田は囚人のリストを暗記しているため、罪状と名前を全て把握していた。
「――ああ、君は確か違法武器の販売をして捕まった……」
「はい、橋川です!私が指揮を執りたいと思います!」
「よし、頼んだぞ!そして俺と一緒に政府の対応をしてもらうのは……こちらで選ぼう。余った者は交代で誰かと活動すること、いいね?」
「「はい!!」」
この瞬間、総勢千五百人と楠田一人の心が完全に繋がった。
この五日後、第四次世界大戦が開戦した。