包囲
たいへんお待たせ致しました。
そして、待っていて下さった方々にお礼を言いたいと思います。
思えば2月。書き始めた頃には「絶対完結させるんだ」という意思も薄れ、ほとんど下火の時期が続きました。
それでも、こうして少しずつ、歩を進めていきます。
物語はある一定の線を越えると、独り歩きし始めます。
主人公たちは、自らのやるべき事を見出し、私の手を離れます。
その道を照らすのが、私の使命です。
最後は、大団円で迎えたいと思います。
どうか皆さん、もう少しだけ、この物語にお付き合い下さい。
あっさりと二階堂を崩した楠田が、ふと言った。
「なあ、二階堂さん。あんたさ───鳥居と同じだぞ?」
そう言うと二階堂は弾かれたように顔を上げた。
「ふざけるな……!こんな奴と俺のどこが同じだって言いたいんだっ!」
「そういうところだよ」
即答する。
「自分の思考にそぐわない、他の事など何も考えないその思想を破壊してより正しい道を作りたい……。それは鳥居も一緒だ。いや、この状況から逃げようとしない鳥居の方がまだ立派だ。それに引きかえお前は何だ……?こんな立場に至ってもまだ自分が正しいと?奢るのも大概にしておけ。今のお前は、この国の誰よりも歪んでいる」
「……」
二階堂の顔が下を向く。そしてもう一度顔を上げたときには───いつもと変わらない、飄々とした顔をした二階堂があった。
「私としたことが……貴方のような一見未熟そうな若者に諭されるとは……。心外ですが、その通りです。もう、私には何を行う資格も無いのでしょう?」
「いや、それじゃこいつと一緒だろうな」
そう言いつつ鳥居の方に目線を落とす。本人は自らの罪の重さと事の重大さを噛み締めるように、先程とは違った目つきをしながら大きく頷いた。
「私は……いや、鳥居秀満という人物は……一部の世のためと言いながら……実際はいつ起こるか分からない謀反の煙を嫌って行ったものなのかもしれん……」
分かった────楠田の言葉にも構わず、鳥居は続けた。
「その結果どうだ……。真実が露呈し、私が世間に姿を現したら皆が私に恨みを抱えているのだ……。まあ、それも恐ろしさ故の行為に対する恨みだからな……」
「鳥居、もういい……喋るな。お前にはまだやってもらいたい事が────」
「もういいだろ楠田よ。まだ気付かないのか?」
不意に入口から声が掛かり、振り向く。そこには川舘ら三人の姿があった。
どうもフロアにいた全員の目に入らない所にいたらしく、完全に気配を消していた。
「川舘さん……何なら声を掛けてくれれば良かったのに……」
「いやねえ、楠田くんが熱弁しているところを止めるのも野暮かなぁと思って」
川舘がにやにやと笑みを浮かべる。
「しかし二階堂にしろ鳥居にしろ、意思はあったんだな。俺ぁ色々と古い人間だからよ、んなもの考える頭なんて無いんだよな……。立派だよ、お前らは」
川舘がしみじみと呟いたところで、下から轟音が響いた。
「そろそろ落城か……。行きますか、川舘さん、二階堂さん」
楠田が二人を呼ぶ。
今までの内閣体制と同じ立ち位置で。同じ立場として。
「ああ」
「分かりました」
全ての決着は、国民の統率。
楠田は足を踏み出した。




