明らかな「違和感」
こんにちは。
物語も終盤へと近付いて来ております。
こんな短く拙い文章を読んで下さる皆様には、たいへん感謝をしております。
終盤へは向かっておりますが、まだまだ終わりはしません。
楠田らへの応援、よろしくお願いします。
話し合いの後、楠田はまず鳥居と共に地下放送局へ向かった。
地上から伝えようにもスピーカーが繋がっていない。そしてその間、川舘と二階堂は外崎と橋川の協力を借りて海軍、陸軍に指名された囚人たちを連れ戻すために車を走らせていた。
通常なら簡易的な汽車がレールを走るが、なにせ緊急と聞いて車で内閣に駆けつけたわけである。汽車そのものは軍基地の方に止めたままだ。しかも連中、誰も技巧的知識を持っていない。だから厄介だった。
陸軍は戦闘車両があるため、伝令だけで充分という事もあってそちらは外崎と橋川に任せていた。
車中、川舘がふと呟く。
「楠田……あいつはいつからこんな事を考えていたんだろうな……」
二階堂も声を発した。
「さてね……あいつの議事中の目……それを見てりゃ分かりますよ……」
「……まさか二階堂てめえ……あいつの思惑を知っていたのか?」
しかし二階堂は口元に笑みを浮かべるばかりだ。
「どうですかね?まあ、どちらにしろ……これが吉か凶かなんて事はまだ誰にも分かりません……。今は見守るしかないんじゃないですか?」
「確かにな……。俺は鳥居さんの言う事こそ正しいと思っていたが……もはや何が正しいのかすら分からなくなってきた……。」
「……ときに、川舘さん。……『平和』と『正義』……どちらが国の利になるとお考えで?」
「……?そんな事分かるわけないだろ。それは……個人の『思想』じゃないのか?」
「なるほど……。……私に言わせればそんなもの、ただの『偶像』に過ぎないんじゃないか、なんてものだと思いますね……。」
「それは掲げる者次第じゃないか……?志と思いの強さで決まるものだろう。」
「本当にそうでしょうかねぇ……。」
二階堂はどこか達観したように呟き、再び車内に静寂が訪れた。
「今考えると確かに丸分かりな事ですよねえ……。」
外崎が返事をする。
「ああ……路外は地面が抉れているなんて……普通は考えられないからな。でも俺らにとっちゃ、生死の方が脳内で勝っちまった……。だから気付かなかったんだろ。」
「そうですよ。それが根本的な盲点だったんですよ多分。鳥居の思惑はそこから広がっていたんじゃないですかね?」
「さあな……。どちらにしろ、俺らの無駄死にを防いでくれた楠田さんのために動くのが、今最善の行動だと思うな。」
「そうですね……。」
そして――
「お前……楠田さんがこのまま上に立てると思うか?」
「え?なんですか突然?」
「率直に、だ。どう思う。」
橋川は悩む。
「うぅーん……恐らく、ですけど。無理だと思います。」
「やはりか……」
「あ、でも、それは楠田さんに限った事じゃなくて、人が人の上に立って事をなせるのはまず無いんだと思います。」
「……読んでるな。」
へへ、と橋川が笑う。
「でも、少数の統率を行える時点で鳥居以上の指揮能力はあるかと。ただ……」
と、そこで口を濁す。外崎がその先を言った。
「……『平和』っていう思想に駆られている。……そう言いたいんだろう?」
はい、と返事が返る。
「だから上に立ったとしても自分の中の『平和』……みんなが笑って生きている、なんて思想を抱いて周りには目もくれなくなる……。そんな気がしてなりません。」
「俺もだ……。だから、その事態に持っていかず全てを穏便に終わらせる……。それが俺らの『使命』じゃないかなと思う。」
「……なんか、やっぱ外崎さんらしい答えですね。」
「うるさいっ。」
ごちん、と拳骨を張られた。
地下放送局、放送ブース。
「入れ、鳥居。お前から言うべきだ。」
「……あ、あ……。そうだな……。」
局員が声をかける。
「放送……入りますか?」
楠田が頷き、言った。
「放送を始めてください。そして……耳を傾けてください。これが……真実です。」
「分かりました……。では、放送四秒前、三、二、一……」
五秒ほど間隔が開く。そして――
「地下市民の皆様……私は、『元』内閣総理大臣、鳥居秀満です……。今日は……大切なご連絡があります……。それを今から伝えたいと思います……。」
切れ切れ、鳥居は泣きながらマイクに声を投げる。悔しさ、憤り、……違う。その涙にあるのは――諦念と嘆きだった。




