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無血戦線  作者: なすみそ
「平和」と「正義」
14/21

あるべき姿と求める姿

 官邸に集まった千五百人もの空軍パイロット『だった者たち』。

 議事堂にギリギリ入る、といったところか。そうなると全体にはスピーカーでしか伝えられなくなる。

「どうするんだ楠田くん?」

 鳥居が聞く。

「どうするって……とりあえずはスピーカーで俺が内容説明するから、あとはあんたから何か言ってやってくれよ。」

「しかし私には謝る資格すら――」

「甘えんなよ。鳥居。」

 楠田が語気を強める。

「資格資格、んな事はもうとっくに知っている。ただそれを盾にして謝罪をしないのは違うだろ。あんたはあいつらを騙した。それのツケは今ここで払え。」

「……分かった。」

 そう言い、鳥居がマイクへ向かう。そして――

「……謝っても許されない事は分かっている……だが……それでも一言述べさせてくれ……すまなかった……。」

 と、奥からがやがやと騒がしく、非難のような声が聞こえる。それを押さえつけるように……

「みんな!鳥居はこれまで、内閣の人間を全員騙していた!そうしてこしらえた『正義』を騙り――地下市民をも錯覚させていたんだ!お前たちの声は聞こえないから、こっちから一方的に喋らせてもらうぞ!」



 楠田の声が議事堂いっぱいに響く。その声は彼らの不安と憤りを諌めるようなものだった。

 喧騒のなか、外崎が大声で叫ぶ。

「静かにしろ!楠田さんの声を通す!」

 とたん、声はぴたりと止み、楠田の声のみが聞こえるようになる。

「いいか……国は、外国は……もう……」


*****


 しんと静まり返った議事堂内部では、ショックを隠せない者の顔が多数見受けられた。そんな中、外崎は橋川を連れて楠田の元へと急いだ。

「外崎さん……今なら行けますかね……?」

「いや……連中のショックが大きすぎる……今はとりあえず……。」

 がたがたと音を立てて放送室に入る。

「楠田さんっ!」その隣――ずけずけと入り、鳥居に拳を放つ。

「ッ……!」

 どさり、と鳥居が倒れ込む。だがその顔にはもはや虚無しかなかった。

「……形容できねンだよ……!この怒りはよぉ……!」

 外崎が憎悪の表情で鳥居を見つめる。

「でもな……でもなァ……!ここにいる奴ら全員に!お前を!殴る権利はあるはずだッ!!」

「と、外崎さん……それじゃ鳥居さんの顔ベコベコになりますから……!」

 場違いな発言が橋川から出る。だがそれで場が和むことは無かった。

「うるさいッ!鳥居……いやダメだ……楠田さん。こいつをどうするつもりですか……?」

 ゆっくりと楠田を仰ぐ。その表情には――確かな決意があった。

「俺は……このままの事実を市民に伝える。そしてこの地下から、全てが変わる様相をこいつに見せてやるんだ……。」

「そうですか……。ではこのままの状態……?」

「ああ……こいつにとっての苦痛、屈辱は『自分よりも強い正義を構築された時』のはずだ……。そしてそれは即ち『平和』……。」

 違う、そうぽつりと鳥居が呟いたが、誰も気づかなかった。

「さぁて……。忙しくなるな。」

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