あるべき姿と求める姿
官邸に集まった千五百人もの空軍パイロット『だった者たち』。
議事堂にギリギリ入る、といったところか。そうなると全体にはスピーカーでしか伝えられなくなる。
「どうするんだ楠田くん?」
鳥居が聞く。
「どうするって……とりあえずはスピーカーで俺が内容説明するから、あとはあんたから何か言ってやってくれよ。」
「しかし私には謝る資格すら――」
「甘えんなよ。鳥居。」
楠田が語気を強める。
「資格資格、んな事はもうとっくに知っている。ただそれを盾にして謝罪をしないのは違うだろ。あんたはあいつらを騙した。それのツケは今ここで払え。」
「……分かった。」
そう言い、鳥居がマイクへ向かう。そして――
「……謝っても許されない事は分かっている……だが……それでも一言述べさせてくれ……すまなかった……。」
と、奥からがやがやと騒がしく、非難のような声が聞こえる。それを押さえつけるように……
「みんな!鳥居はこれまで、内閣の人間を全員騙していた!そうしてこしらえた『正義』を騙り――地下市民をも錯覚させていたんだ!お前たちの声は聞こえないから、こっちから一方的に喋らせてもらうぞ!」
楠田の声が議事堂いっぱいに響く。その声は彼らの不安と憤りを諌めるようなものだった。
喧騒のなか、外崎が大声で叫ぶ。
「静かにしろ!楠田さんの声を通す!」
とたん、声はぴたりと止み、楠田の声のみが聞こえるようになる。
「いいか……国は、外国は……もう……」
*****
しんと静まり返った議事堂内部では、ショックを隠せない者の顔が多数見受けられた。そんな中、外崎は橋川を連れて楠田の元へと急いだ。
「外崎さん……今なら行けますかね……?」
「いや……連中のショックが大きすぎる……今はとりあえず……。」
がたがたと音を立てて放送室に入る。
「楠田さんっ!」その隣――ずけずけと入り、鳥居に拳を放つ。
「ッ……!」
どさり、と鳥居が倒れ込む。だがその顔にはもはや虚無しかなかった。
「……形容できねンだよ……!この怒りはよぉ……!」
外崎が憎悪の表情で鳥居を見つめる。
「でもな……でもなァ……!ここにいる奴ら全員に!お前を!殴る権利はあるはずだッ!!」
「と、外崎さん……それじゃ鳥居さんの顔ベコベコになりますから……!」
場違いな発言が橋川から出る。だがそれで場が和むことは無かった。
「うるさいッ!鳥居……いやダメだ……楠田さん。こいつをどうするつもりですか……?」
ゆっくりと楠田を仰ぐ。その表情には――確かな決意があった。
「俺は……このままの事実を市民に伝える。そしてこの地下から、全てが変わる様相をこいつに見せてやるんだ……。」
「そうですか……。ではこのままの状態……?」
「ああ……こいつにとっての苦痛、屈辱は『自分よりも強い正義を構築された時』のはずだ……。そしてそれは即ち『平和』……。」
違う、そうぽつりと鳥居が呟いたが、誰も気づかなかった。
「さぁて……。忙しくなるな。」




