若き幻想
「総理、今回の件に致しましては私に一任して頂けませんか。」
鳥居秀満は長谷川に向かって言った。
「……しかし君に街の警護を担当させたが、地下移動計画は……。」
長谷川は渋っている。――埒が明かん。
「街の様子をいち早く伝え、街を「平和」へと導きたいのです!お願いします……!」
その低い姿勢に、とうとう長谷川は折れた。
「……分かった。頼んだぞ。」
「あ……ありがとうございます!」
この時はまだ、鳥居の目には父と同じ明るさを持っていた。
「いいか秀満、この世界はお世辞にも「平和」とは言えない。だから日本のこの小さな街から、少しずつ変えていくんだ。」
「分かっていますよお父さん。」
鳥居はいつも父である秀悟の背中を見てその意思を継がんとしていた。
父の言う「平和」を得るために。
そして――地下都市計画。
自然災害を最小限に防ぐために地下へと都市を移す計画。これはどうしても鳥居の手で成し遂げたかった。だからあれだけ懇願したのだ。
そんな最中、第三次世界大戦が開戦。
その時秀悟は何を血迷ったのか、空軍の士官を志望した。
――この瞬間、鳥居の秀悟に対する尊敬の念は消えた。
……どんな事情があるのかは分からないが、一度目指した「平和」に背くような立場に立つのは違うのではないか。
そう秀悟に問い詰めると、彼は言った。
「――全世界の全ての人が笑うためには、こんな手も必要なんだよ。だから……分かれ。」
いや、違う。この空軍という立場に立たせた戦争は、誰も望むものではない。その時点でもう――平和はなし崩しだ。
鳥居はいつしかその瞳に不思議な昏い光を宿すようになった。
その瞳は秀悟とは対照的に、全てを求めぬ、あくまで効率的な、秀悟とは違う「平和」を持っていた。
……そして帰ってきた秀悟の姿は、拘束されたにも関わらず清々しい達成感に満ちていた。
鳥居はそれが気に食わなかった。こんな、こんな……。
自分でも言い表せないほどの怒りに溢れていた鳥居は父を一瞥しある事を悟った。
――ああ、そうか。あいつがやろうとしたのは無理のある、傲慢な「平和」だ。……だったら俺は、無理の無い、あくまでも最小限の平和――いわば「正義」を求める事にしよう。
――この選択によって、失われた命は知れない。




