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第5話 涙

 ゴーレムに手伝ってもらいながら、自らの手でダドゥの遺体を運んだ。そう決心しなければ立ち上がることもできなかった。


 シロと一緒にダドゥを埋葬した。場所は塔のかたわら、他にも何者かの墓がたくさんある場所だ。


 ゴーレムが見守る中で、俺はシロと向かい合った。


「あの、シロ」

「どうしました?」


 シロは真摯に見つめてくる。手に汗がにじんだ。


「僕には秘密がある。ダドゥが言っていたよね、僕は誰だと。僕はシロが思ってるような子供じゃない。本当は、シロより年上かもしれない」


 初めて会った頃、シロは20歳ぐらいに見えた。今では30歳ぐらいだろう。シロは何も言わず聞いてくれているが、その姿を見れない。


「前世の記憶がある。死んだのは28歳。12年経ったから、年齢を重ねると40歳。ずっと騙してた。幼い子供を演じてた。本当にごめんなさい」


 今シロはどんな顔をしているだろうか。おぞましさに震えているだろうか。どんな罵倒も受け止めなければならない。


 シロの声色はいつもと変わらなかった。


「なぜ黙っていたのですか?」

「初めは生きるのに必死で、伝えようという考えすら浮かんでなかった。成長して余裕もできた頃には、シロと親しくなっていて、嫌われるのが怖くて言えなかった」

「懐かしいです。私は、お世辞にも良いと言える育児をできませんでした。無事育ったのも奇跡と言えるでしょう」

「そうそう、あの頃は……そうじゃなくて。知らずに自分より年上を育ててたんだから、他に言いたいこともあると思う」


 シロは一度青空を見上げて深呼吸した。


「では、言わせてもらいます。マスターに世話を任されたとき、心底嫌でした。なぜ私がこんな得体の知れない赤子を育てなければならないのかと。一々やかましい泣き声で訴えてくるし、糞尿は臭い汚いし、ちょっとしたことで壊れてしまいそうだし。自分で何もできないヒロを憎たらしくも思いました。

 でも、一緒に暮らして、少しずつ変わっていきました。誰かと一緒にいるとこんなに心が温かくなるなんて。マスターはあんな人でしたから、そういうのとは無縁でしたし、改造される前の記憶はありません。初めての感覚です」


 シロは目を閉じて胸に手を当てた。


「あなたを大切に思っています。前世で多くの人々と関わったなら、私が決してまともな人間でないとわかっているはず。それでもヒロも私を大切に思ってくれているからこそ、演じたのでしょう? 嬉しいです。大丈夫、ヒロの優しさは伝わっています」


 嬉しくもあり、悲しくもあった。シロは俺より孤独を抱えていたんだ。涙がとまらなかった。


「違う、優しいのはシロだよ。僕もまともなんかじゃない」


 シロは微笑んだ。


「そうなのですか。では、まともでない同士、これからも仲良くしましょう」


 シロの差し出した手を握った。


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