第3話 歪な関係
月日は過ぎていく。
朝、いつも通りシロに起こされて目を覚ました。
「おはようございます。朝食ができました」
「おはよう」
朝食はバターやジャムで食べるパンが中心で、付け合せはサラダや卵料理や肉料理だ。前世とあまり変わらない食生活なのはありがたい。
すべて塔内で賄われているものだ。塔は異常に大きくて、全て見回ることなど諦めた。下手すれば怖いものを目にしそうだし。
シロと二人で静かに食べた。喋ってないと気まずくなる関係が苦手なのでありがたい。
食べ終わって身支度を整えると自由時間だ。どこへ行くにもシロがついてくる。
密かに手を繋いでみようかとも思っている。嫌われていたら嫌だろうけど、親しみを持っていたら喜んでくれるかもしれない。
正直、人との距離感がわからない。嫌な気分にさせたくない、前世でもそうだった。俺と一緒にいると相手が迷惑なんじゃないか怖かった。
なるべく幼い風を演じているが、外見は子供でも中身は歳を重ねている。気味悪いと思われていると考えるのが自然だろう。結局、繋ぐことはない。
昼飯時も近づいてきた。
「お昼作るの手伝うよ」
そう提案してみたが、
「駄目です。危ないです」
にべもなく断られた。そりゃそうだ、五歳児だ。任せられるのは精々お皿を運ぶくらいだ。
その後はお昼寝の時間だ。勉強やゴーレム作りのせいもあってか昼寝はまだ欠かせない。シロも横で添い寝しているが、どんな気分なんだろう。
目が覚めるとまた自由時間だ。
シロがいない。起きるといつも一緒なのに、どうしたんだろう。
いや、いつも一緒だからこそか。一人で本の樹海へ潜っていった。
まずいことになった。無造作に積み上げられた本が倒れ、下敷きになってしまった。幸いどこも怪我していないようだが、重たい。一人で脱出するのは一苦労だろう。
「ヒロー。どこですかー?」
不安げなシロの声だ。こんな姿を見せたくないが、どうしよう。
「ヒロ!」
悩んでいると、見つかって駆け寄ってきた。必死で辛そうな顔だ。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
急いで助け出され、抱きしめられた。ずっと謝っている。謝らなければならないのは俺の方なのに。
「ごめんなさい。一人で勝手にきちゃって」
「違います。悪いのは私です。見ていないといけなかったのに……」
それから謝り合戦になってしまった。
二人とも落ち着き、部屋から出ることになった。思い切って、手を繋いでみた。シロは驚いたが、微笑んで握り返してくれた。
夕食後、シロが豪華なデザートを運んできた。
「お誕生日おめでとうございます」
そういえば六歳の誕生日だ。今まで祝ってもらったことがなかった。
「どうしたの?」
「本で読みました。誕生日は祝うものだと。お気に召すとよいのですが」
「ありがとう! すごく嬉しい!」
ありのままに伝えると、シロもなんだか嬉しそうだった。
夜、星明かりに照らされる部屋のベッドで、シロが寝かしつけてくれている。ふとした疑問が口をついた。
「シロの思い出話を聞いてもいい?」
「思い出ですか……」
言ってしまって、ハッとした。シロが改造人間だということを忘れていた。失言だった。
シロは微笑んだ。
「ヒロはそれを知っています」
俺との日々を大切に思ってくれている。
前世の記憶があると伝えようか迷ったこともあるが、言わないでおこう。でも、俺のやっていることは裏切りなんじゃないか。
それでも少しでも今の時間が続いて欲しいと願うのは間違っているだろうか。そう考えながら眠った。




